セクハラ、セクシャルハラスメント どのような場合に法的責任が認められるのか?

さいとうゆたか弁護士
執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 法律が定めるセクハラ、セクシャルハラスメント

セクシャルハラスメントについて、男女雇用機会均等法11条は、「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」としています。参照:男女雇用機会均等法 セクシャルハラスメントとは、 ⅰ 職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けること あるいは、 ⅱ、当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること を言います。 ⅱは、性的な言動を行うこと、食事やデートに執拗に誘うこと、性的な関係の強要、必要のない身体接触、わいせつ図画の配布・掲示等です。 ⅰは、ⅱについて拒否をしたり、救済・対応を求めたことで、労働者が解雇、降格などの不利益を受けることです。 これらのセクハラに該当したからといってただちに損害賠償の問題が生ずるものではありませんが、セクハラにより直接行為者や使用者に損害賠償責任が生ずる場合もあります。

2 セクハラと損害賠償責任

どのような場合に性行為に同意があったと言えるか

性行為がなされても、真摯な同意があった上でなされれば、それは不法行為ではありません。 真摯な同意があったかどうかは、形式的なやりとりを見るだけでは判断できません。 性行為前後の状況(明確な同意があったか、事後に抗議等があったか等)、性行為をするような関係性が従来からあったか(デートなどをしたことがあったか等)、職場における上下関係などをもとに真摯な同意の有無が判断されることになります。 この点、東京高裁平成24年8月29日判決は、会社代表者と内定者間の性行為について、圧倒的な力関係の違いをも理由として、性行為について真摯な同意がなかったとし、損害賠償責任を認めています。

使用者責任が認められる場合

受忍限度を超えるようなセクシャルハラスメントがあった場合、直接それを行った人が損害賠償責任を負うのは当然です。 さらに、勤務先が損害賠償責任を負う場合としては、民法715条の使用者責任により損害賠償責任を負うことがありえます。 民法715条1項は、以下のように定めます。 「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」 問題は、どのような場合に「事業の執行について」と言えるかです。 会社代表者が、業務時間外に、労働者の自宅を訪問し、性行為に及んだという事案について、東京高裁平成24年8月29日判決は、労働者において代表者から業務に関し注意を受けるのではないかと考えたことなどを理由に、「事業の執行について」なされたと認定しています。参照:セクハラの使用者責任を認めた裁判例 本来の業務中に職場でなされた行為だけでなく、本来の業務外で職場外でなされた行為についても、労働者において業務に関連するものと理解しうる状況があれば、「事業の執行について」と認められうることになります。

会社が人権尊重の観点から対応すべき場合 「業務延長上の性暴力」としたフジ 第三者委

2025年3月、フジテレビの第三者委員会は、中居正広さんと女性とのトラブルについての報告書の中で、性暴力が「業務上の性暴力」に該当するとしています。 これは必ずしも会社の使用者責任を認めるものではないですが、セクハラ関して人権尊重の観点からの対応について考える上で参考になるので、簡単に解説します。 報告書は、CX社のアナウンサーであった女性Aさんに対する中居さんの性暴力について、 (ア) 中居氏と女性Aさんの関係は業務上の人間関係であること (イ) CXの業務実態(番組出演タレントとの外部での会合) (ウ) 本事案へのCX社員の関与 を踏まえ、「業務上の性暴力」性を認めています。 (イ)については、「CX では、番組出演タレント等との会合は、円滑な業務遂行、良好な人間関係の構築、コミュニケーションの活性化、番組企画立案、人脈維持拡大等 CX の業務遂行に資するとして、業務時間内外、場所、会合の厳密な参加者などを問わず、広く業務として認められており、これらに必要な費用は会社の経費として精算されている。」との点が指摘されています。 (ウ)については、女性AさんがCX社のプロデューサーから言われ中居さんが参加する食事会に参加したこと、「仕事でプラスになる」と言われたこと、女性Aさんは被害が発生した食事会は前記食事会と同種のものと認識していたことが指摘されています。 会社の経費として精算されるような種類の会合に、会社での上位者から「仕事でプラスになる」と言われ参加され、そこでセクハラが発生したのであれば、使用者責任が発生する可能性は相当程度あると考えます。 その後、別日に行われた食事会におけるセクハラについて使用者責任を認めるのはそれほど容易ではないように思いますが、確かに完全に私的領域の問題とも言い切れないでしょう。 そのような意味で、これを「業務延長上の性暴力」とし、人権尊重の観点で慎重な調査等を行うべきだったとした第三者委員会の認定は、極めて示唆的だと思います。 使用者責任が認められないから会社としては何もしなくてよいということではなく、「業務延長上」と言える場合には、会社は、人権尊重の観点から、被害者の被害回復や再発防止のための行動をすべきということになります。

就活の学生など、労働者でない場合には損害賠償責任は負わないのか?

セクハラは典型的には使用者対労働者の関係で問題となります。 しかし、男女雇用機会均等法の指針でも、企業としては就活学生へのハラスメント(就活ハラスメント)の防止措置をとることが望ましいとしています。 フリーランス新法14条でも、フリーランスと取引をする事業者は、セクシャルハラスメントについての相談を受けるなどの適切な対応のための体制を整備すべきこととされています。参照:フリーランス新法 さらに、労使関係がない場合でも、セクシャルハラスメントがあった場合に損害賠償責任が生ずるかですが、刑法177条1項が、「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又は憂慮していること」から不同意が困難な状況で性行為をした場合には不同意性交等罪が成立するとしていることから、就活や委託・請負等、特別な社会的接触関係における優越的地位を利用して性行為に及ぶなどの行為があった場合には、性行為についての真摯な同意がないとして、損害賠償責任が生じる可能性があるということになるでしょう。 そして、そのようなセクシャルハラスメントについて、被害者が、業務に関連すると考えるような状況があったとすれば、民法715条の使用者責任により、使用者にも損害賠償責任が生じることになります。 例えば、学生の就職活動中に、就職希望先の従業員が、学生に対し就職に有利になることをほのめかし、学生と性行為を行ったような場合、不同意が困難な状況での性行為=不法行為として従業員自身が損害賠償責任を負う可能性がありますし、業務に関連すると考えるような状況があったとして使用者責任で会社も損害賠償責任を負う可能性があります。

3 セクハラ、セクシャルハラスメント等労働問題でお悩みの方は弁護士齋藤裕(新潟県弁護士会所属)にご相談ください

セクシャルハラスメント労災の記事もご参照ください。 さいとうゆたか法律事務所トップはこちらです。

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