執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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政府は、今国会に、ACD,アクティブサイバーディフェンスを認めるための法案を提出予定です。
同法案は、国際法上違法評価される懸念を払しょくできませんし、大きな問題をはらんでいます。
以下、解説します。
1 国際法上の違法性判断の枠組み
ACDは、外国にあるサーバに侵入し、無害化などの措置を行います。
よって、国際法に抵触しないのかどうか、問題となります。
ACDを議論していた有識者会議では、早稲田大学法学学術院酒井啓旦教授がサイバー活動と国際法との関係について報告しています。参照:
有識者会議のサイト
同教授は、国際法学者・実務家が作成したタリンマニュアル2・0をもとに議論を整理します。
その上で、ACDを合法化する上では緊急避難法理を使うことができるとします。
そして、緊急避難法理が適用される要件として、根本的な利益に対する差し迫った危険があること、ACDがそれを回避するための唯一の方法であることがあげられるとします。
しかし、有識者会議の議論をみても、大規模な配電網が遮断される差し迫った危険があるなどの「根本的な利益に対する差し迫った危険」があること示されていません。
また、有識者会議での議論をみても、ACDがサイバー防御のために有益であることについての説明はありますが、その防御をACD以外の手段ではなしえないのかについてはまったく説明がなされていません。
このように、法案は、ACDが国際法上合法とされる要件を満たしていることを確認しないまま、国会に提案されようとしています。
このような法案提出には極めて問題があると言わなくてはなりません。
2 憲法とACD
なお、ACDが日本国内の人に対してなされる場合、憲法21条2項の通信の秘密侵害の問題が出てきます。
憲法21条2項の条文は以下のとおりです。
「通信の秘密は、これを侵してはならない。」
参照:
日本国憲法
この通信の秘密については絶対的保障ではなく、一定の場合に制限が認められます。
最高裁は、受刑者宛の私信の制限についての最高裁平成6年10月27日判決等、通信の秘密の制限を認めています。参照:
受信者宛ての私信の制限を認めた判例
通信の秘密が公共の福祉による制限に服すると考えるとしても、通信の秘密が表現の自由やプライバシーなどを支える重要な権利であることを考えると、「根本的な利益に対する差し迫った危険」や手段の唯一性が説明されないACDについては、憲法違反とされる可能性があると考えます。
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