執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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頭痛はよくある症状ですが、医療機関がそれを軽視したところ、結果的には脳梗塞などの重大な疾病であり、見落としの結果、重大な障害や死亡に至るケースもあります。
以下、脳梗塞等の見落としと医療過誤について説明します。
1 頭痛を訴えていた患者の慢性硬膜下血種を見落とし、脳梗塞に至った事例
大津地方裁判所平成7年1月17日判決は、医療機関において、頭痛を訴えている患者の慢性硬膜下血種を見通し、それが脳梗塞に至り、高度意識障害の後遺症が残ったという事例について、医療機関側に損害賠償責任を認めました。
裁判所は、
ⅰ 患者が、頭痛、吐き気を訴え、病院救急外来を受診したこと
ⅱ その頭痛は、診察において、突然ピークとなる、今までで経験したことがなく、今までで一
番痛い、これまでと異なる頭痛であったこと
ⅲ 2日前からの発症であること
ⅳ 患者が50歳以上であったこと
等の事情から、医師としては二次性頭痛を疑い、CT検査等の画像検査を行うべきであったのに、これを怠ったとして、義務違反を認めました。参照:
急性硬膜下血種の見通しについて医療過誤を認めた判決
ここで二次性頭痛とは、他の病気が原因となる頭痛を言います。
頭痛学会は、二次性頭痛を疑うべき場合として、
1. 突然の頭痛,
2. 今まで経験したことがない頭痛,
3. いつもと様子の異なる頭痛,
4. 頻度と程度が増していく頭痛,
5. 50歳以降に初発の頭痛,
6. 神経脱落症状を有する頭痛,
7. 癌や免疫不全の病態を有する患者の頭痛,
8. 精神症状を有する患者の頭痛,
9. 発熱・項部硬直・髄膜刺激症状を有する頭痛
をあげています。参照:
二次性頭痛の判別基準
これらの項目に該当する場合、医師としては原因となる疾患を鑑別するための検査を検討すべきことになるでしょう。
2 頭痛や下痢等を訴えていた患者のくも膜下出血を見落とし、脳梗塞になった事例
札幌高裁平成14年2月28日判決は、医療機関において、頭痛や下痢等を訴えていた患者のくも膜下出血を見落とし、結果として脳梗塞に至ったという事例について、医療機関側の損害賠償責任を認めました。
当該患者には、激しい頭痛、嘔吐、吐き気の症状のほか,軽い意識障害も伴っており,典型的なくも膜下出血の症状を呈していました。
患者には、下痢等の消化器症状があり、医療機関は消化器疾患であるとの診断をしていました。
しかし、裁判所は、消化器疾患があったとしても、くも膜下出血の典型的症状があった以上、見落としの責任は免れないとしています。
当然、脳疾患患者が、同時に他の疾病にり患することもありえます。
しかし、脳疾患の症状がある場合に、他の疾病にり患していたからといって、誤診について責任を免れるということにはなりません。
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