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藁をもすがる思いのがん患者さんの気持ちに乗じ、効果定かならぬ自由診療で莫大な治療費を支払わせ、さらに患者さんの生命身体の状態を悪化させるクリニックが絶えません。
以下、標準治療を逸脱したがんの自由診療と医療過誤・説明義務違反について解説します。
1 自家ワクチン療法について説明義務違反を認めた裁判例
東京高裁令和4年7月6日判決は、医師が、がん患者に対し、自家ワクチン療法を実施し、最終的に患者が死亡したという事案で、医療機関側に説明義務違反を理由とする損害賠償を命じました。同判決は、まず、「医師は、患者の疾患の治療のために特定の療法を実施するに当たっては、特別の事情のない限り、患者に対し、当該疾患の診断(病名及び病状)、実施予定の療法の内容、これに付随する危険性、当該療法を受けた場合と受けない場合の利害得失、予後等について説明する義務があり、特に、当該療法の安全性や有効性が未確立であり自由診療として実施される場合には、患者が、当該療法を受けるか否かにつき熟慮の上判断し得るように、当該療法に付随する危険性、これを受けた場合と受けない場合の利害得失、予後等について正確に分かりやすく説明する義務を負うというべきである。」として、医師による説明義務について一般的な基準を述べます。
その上で、当該事案において、医師においては、自家がんワクチン療法が有効である保証がないことについて一応の説明をしているものの、
ⅰ 当該患者がり患していた遠位胆管がんとは種類の異なるがんについて自家がんワクチン療法が効果を上げている旨の記載のある書面を示したこと
ⅱ 自分の担当した標準治療を終えた患者の中にも自家がんワクチン療法によって数年生き延びた人がいると説明したこと
等により、患者にも自家がんワクチン療法が有効であることを示す実績があるかのような印象を与える説明もしている等として、説明義務違反があったものとしました。
標準治療とは異なる治療方法について説明する際には、その治療方法の成果について、誤解を招かないような説明をしなければならず、患者が過剰な期待を持たないようにしなければなりません。
2 診免疫療法について説明義務違反を認めた裁判例
東京地裁平成17年6月23日判決は、がん患者について診免疫療法を行った医療機関について、説明義務違反があったとして損害賠償を命じました。同判決は、標準治療を逸脱した治療法を行う際の説明義務について、「一般的でない治療方法を試みる場合には,それを受けようとする患者が,一般的な治療方法である手術,抗癌剤投与,放射線療法の内容やその適応,副作用等を含めた危険性,治療効果・予後等について説明を受けて理解をしていることが前提であり,担当医師としては,それらについて説明をした上で,試みようとする一般的でない治療方法についての内容や危険性,治療効果・予後について,当該患者がいずれの治療方法についても,十分理解して自ら選択できるよう,正確な情報を提供する義務があるというべきである」として、通常の場合より詳しい説明が求められるとしています。
その上で、同判決は、当該患者については、
ⅰ 一般的な治療方法のうちで実施が一応検討される抗癌剤投与について,その内容(投与することが考えられる抗癌剤の種類,量,方法等)やその適応,副作用等を含めた危険性,治療効果・予後等
ⅱ 自らが実施しようとする療法については、療法の内容や危険性のほか,治療効果・予後について,当該療法の治療効果の判定方法は他の治療方法で用いられている効果判定の方法とは異なること,一般的に用いられる評価指標・方法で治療効果を判断すると,当該医師が公表している奏効率とは大きく異なる可能性もあること
について説明すべきだったのに、説明をしなかったとして、説明義務違反を認めました。
独自の治療効果の判定方法を採用した上で、それが一般的な判定方法とは異なることを説明しないまま、あたかも自らが行おうとしている治療方法に治療効果があるかのように誤解させる場合、説明義務違反が認められる可能性があることになります。