不動産の共有持分買取業者から買い取りを請求された場合にどう対応する?

さいとうゆたか弁護士
執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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世の中には不動産の共有持分買取業者というものがあり、不動産の共有持分を買い取り、他方の共有権者に法外な要求を突き付けたりします。
そのような業者から買い取りを迫られた場合にどのように対応すべきか、以下解説します。

1 元の共有権者に主張できた債権の主張

不動産の共有者同士で共有物に関し取り決めをすることがあります。
特に元夫婦間で多いのは、不動産は共有のままにするものの、一方が他方による不動産の利用を許諾するというものです。
このような取り決めについては、共有持分買取業者に対して主張できる可能性があります。
民法は以下のとおり定めます。
第二百五十四条 共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる。
同条項に関し、最高裁昭和34年11月26日判決は、共有者間において一方が土地を独占的に利用するとの約束があった場合に、それを他方から共有持分を取得した者に主張できるとしました。参照:共有持分を取得した者に対し土地の独占的利用を主張できるとした判例
このように、共有者間で、一方が不動産を利用できるとの約束がなされている場合、他方の共有持分を取得した買取業者に対しても主張できる場合がありえます。

2 共有物分割を申し立てられたらどうなる?

共有持分買取業者は、共有物分割をたてに、共有持分の高価買取を迫ってくるでしょう。
共有物分割について、民法は以下のとおり規定します。
第二百五十八条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
一 共有物の現物を分割する方法
二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
3 前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
4 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
ほとんどの場合、不動産の現物を分割することは困難でしょうから、不動産に居住している共有持分権者が全持分を取得し、その対価を支払うという形での解決が多いということになるでしょう(2項2号)。
例えば、住宅ローンがある場合、特にオーバーローンの場合、どのように解するべきかが問題となります。
住宅ローンがある物件については、競売等の場合、住宅ローンの抵当権が優先するので、不動産の価格-住宅ローン額程度しか市場価値はありません。
よって、不動産持分買取業者も、その程度の価格で共有持分を買い取っているはずです。
3項で競売になったとしても、オーバーローンであれば無剰余として競売がなされません。つまり、3項の場合、不動産持分買取業者は、何も得られないことになります。
それとのバランスも考えると、2項2号にいう「債務」は持分の評価額-住宅ローンを基準とすべきと思われます。
それはほぼ0となる可能性もあるでしょう。 不動産の評価額そのものではなく、住宅ローン額も考慮して共有持分を取得する側が他方に支払う額を決定した裁判例としては東京地裁平成18年6月15日判決があります。
場合によっては分割方法が見当たらないとして分割が認められないというケースもあると考えます。
以上の可能性も考慮して、共有持分買取業者の要求をそのまま受け入れないことが大事です。
なお、ただのような価格で共有持分を買い入れ、法外な価格での買取を求めるという共有持分買取業者の請求については権利濫用して共有物分割が認められない可能性もあるでしょう。

3 共有物分割請求が権利濫用とされる場合

共有物分割については権利濫用となることもあります。
例えば、東京地裁平成29年12月6日判決は、夫婦が共有者の不動産について、共有物分割請求がなされた事案について、以下のとおり述べて、財産分与によらず共有物分割請求が権利濫用となるとしました。
「別件訴訟において被告の離婚請求が棄却されるなど本件不動産の帰すうが財産分与手続によっては決することができないことが確定する前に,原告があえて本件不動産の共有物分割を請求することは信義則に違反し,また,権利の濫用に該当するものとして許されないというべきである。」
東京地裁平成3年8月9日判決は、被相続人の妻が遺産分割協議で住宅の持ち分を取得したというケースについて、遺産分割協議の趣旨が妻に住居への居住を保証することにあったことなどを踏まえ、共有物分割請求は権利濫用になるとしました。
東京地裁平成8年7月29日判決は、共有物件の所有者が家を出た場合に新たな居住先を見つけることが困難であること等から、共有物分割請求を濫用としました。
このように、共有の状態が生じた経過・趣旨と共有物分割とが矛盾する場合、共有物分割により居住者が過酷な状況に陥るような場合等には権利濫用が認められることになります。
以上の裁判例は、もともとの共有者間の事件であり、共有持分買取業者が関係した事件ではありません。
しかし、民法第二百五十四条が「共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる。」としていることから、共有者間の事情は特定承継人である共有持分買取業者にも引き継がれ、よって上記のように当事者間で権利濫用となるような事情があるような場合には、共有持ち分買取業者との関係でも権利濫用を主張しうると考えるべきです。

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