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熱い日が増えことで、熱中症にかかる方も増えていくと思われます。
熱中症は労災として発生することもあり、損害賠償責任を認める裁判例もあります。
以下、どのような場合に、熱中症について損害賠償責任が認められるのか、みていきます。
目次
静養をさせなかったために熱中症になったことを安全配慮義務違反とした裁判例
WBGT値の測定をしなかったこと等と安全配慮義務違反
厚生労働省の熱中症マニュアルと安全配慮義務
労働安全衛生規則と熱中症
静養をさせなかったために熱中症になったことを安全配慮義務違反とした裁判例
例えば、大阪高裁平成28年1月21日判決は、造園業の従業員が熱中症で死亡した事件について、使用者に損害賠償責任を認めています。
同判決は、以下のとおり述べて、従業員が熱中症で死亡したことについて、使用者側に安全配慮義務違反があったとしました。
「被控訴人は,Dに対し,日頃から高温環境下において作業員が具合が悪くなり熱中症と疑われるときは,作業員の状態を観察し,涼しいところで安静にさせる,水やスポーツドリンクなどを取らせる,体温が高いときは,裸体に近い状態にし,冷水を掛けながら風を当て,氷でマッサージするなど体温の低下を図るといった手当を行い,回復しない場合及び症状が重い場合などは,医師の手当てを受けさせること等の措置を講ずることを教育しておく義務があったというべきである。 しかるに,Dは,本件現場において亡Aを指揮監督する立場にありながら,亡Aが午後2時頃から具合が悪くなったことを認識した後,亡Aの状態を確認しておらず,高温環境を脱するために適切な場所での休養をさせることも考慮せず,そのまま亡Aを本件現場に放置し,熱中症による心肺停止状態に至る直前まで,救急車を呼ぶ等の措置もとらなかったものであって,このようなDの行動からすれば,被控訴人において,Dに対し,前示のような労働安全教育をしていたとは認め難い。 よって,被控訴人は,自らも前示の安全配慮義務違反による損害賠償義務を負うというべきである。」
つまり、使用者には、熱中症が疑われる従業員がいるときには安静にさせるなどの対応を取る義務がある、回復しない場合には救急車を呼ぶ義務もある、しかし当該事件で使用者はこのような義務を履行しなかったため安全配慮義務違反があるとしたのです。
熱中症が生命の危険につながる危険なものである以上、かかる安全配慮義務を果たすべきは当然と考えます。
なお、この事件では、34度以上の気温の中での作業となっています。
しかし、造園業という職種であり、作業自体を回避することの現実的可能性はなかったと考えられます。
しかし、職種などによっては、高温環境下での作業自体を回避すべき場合もあると考えられます。
WBGT値の測定をしなかったこと等と安全配慮義務違反
サウジアラビア出張中に熱中症で従業員が死亡した労災事故について、福岡地裁小倉支部令和6年2月13日判決は、使用者において、「WBGT値の測定をしていなかったことや亡Aの体調等の確認をしないまま作業に従事させていたことからすれば、十分な熱中症予防対策がされたものと認めることはできず」として、安全配慮義務違反を認めています。
WBGT,すなわち暑さ指数は、熱中症対策のため考案された指標であり、①湿度、 ②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、 ③気温の3つを取り入れています。参照:WBGTについての環境省ページ
25以上で警戒、28以上で厳重警戒、31以上危険等とされます。
使用者としてはこのWBGTを把握し、適切な対応をとる必要があり、このような対応をしなかった場合には安全配慮義務違反に問われる可能性があります。
厚生労働省の熱中症マニュアルと安全配慮義務
労働の分野では、厚生労働省が「職場における熱中症予防対策マニュアル」を公表するなどしていますので、この内容が安全配慮義務の内容となると考えられます。参照:熱中症予防マニュアル
ですから、これに違反すると違法の問題が出てくると思われます。
同マニュアルの内容の要旨は以下のとおりです。
・高温多湿作業場所では発熱体と労働者の間に熱を遮ることのできる遮蔽物を設ける
・直射日光を遮ることができるよう簡易な屋根を設ける、ミストシャワーを設置する
・冷房を備えた休憩場所を設ける。休憩場所は横になることができる広さを備える
・水風呂など体を適度に冷やすことができる設備をもうける
・水分や塩分の補給を容易になしうるように飲料水等の備え付けを行う
・作業時間の短縮、負荷の高い作業を避ける、作業場所を変更する
・計画的に熱への順化を行う
・自覚症状以上に熱中症が進行していることがあるので、自覚症状の有無に関係なく、作業前後・作業中の水分摂取をうながす
・熱を吸収しやすい服装を避ける
・定期的に水分や塩分を摂取しているかどうかや労働者の状態について巡視を行う
労働安全衛生規則と熱中症
労働安全衛生規則でも、使用者に熱中症対策を義務付けています。
主要なものとしては以下のものがあります。参照:労働衛生安全規則
第六百六条 事業者は、暑熱、寒冷又は多湿の屋内作業場で、有害のおそれがあるものについては、冷房、暖房、通風等適当な温湿度調節の措置を講じなければならない。
第六百七条 事業者は、第五百八十七条に規定する暑熱、寒冷又は多湿の屋内作業場について、半月以内ごとに一回、定期に、当該屋内作業場における気温、湿度及びふく射熱を測定しなければならない。
第六百十四条 事業者は、著しく暑熱、寒冷又は多湿の作業場、有害なガス、蒸気又は粉じんを発散する作業場その他有害な作業場においては、作業場外に休憩の設備を設けなければならない。
第六百十七条 事業者は、多量の発汗を伴う作業場においては、労働者に与えるために、塩及び飲料水を備えなければならない。
さらに、2025年4月15日、2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則では、事業者に対し、熱中症のおそれがある作業者を早期に発見するための体制整備、熱中症の重篤化を防止するための措置手順の作成、これらの体制や手順の関係作業者への周知を罰則付きで義務付けています。
これらの規定に違反した場合にも安全配慮義務違反が認められる可能性が高いと言えるでしょう。
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