遊漁船、遊覧船、旅客船、クルーズ船における事故と損害賠償請求

さいとうゆたか弁護士
執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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目次

船会社などに対して損害賠償請求をする際の法的根拠

船の事故で損害賠償請求が認められる場合

修学旅行中の船の転覆事故と損害賠償   船の事故と刑事責任   これまで多くの船(遊漁船、遊覧船、旅客線、クルーズ船)の事故が発生してきました。 そのような事故の再発を防ぐためにも、船の事故について適切に法的責任を追及することが重要です。 以下、船の事故に関する損害賠償についてみていきます。

船会社などに対して損害賠償請求をする際の法的根拠

民法709条

事故が起こった場合、船会社等に対しては、通常の交通事故と同様、民法709条の不法行為による損害賠償請求をすることが考えられます。

民法415条

また、約款等により特定される債務を履行しなかった場合、債務不履行(民法415条)による損害賠償請求も考えられるところです。

商法

その他、船の損害賠償については、以下のとおり、船会社に、商法により損害賠償請求をすることが考えられます。

商法590条

(運送人の責任) 第五百九十条 運送人は、旅客が運送のために受けた損害を賠償する責任を負う。ただし、運送人が運送に関し注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。

商法591条

船会社は、商法591条により、約款等によっても、基本的には人身被害に関する責任を制限することはできません。 (特約禁止) 第五百九十一条 旅客の生命又は身体の侵害による運送人の損害賠償の責任(運送の遅延を主たる原因とするものを除く。)を免除し、又は軽減する特約は、無効とする。 2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。 一 大規模な火災、震災その他の災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において運送を行うとき。 二 運送に伴い通常生ずる振動その他の事情により生命又は身体に重大な危険が及ぶおそれがある者の運送を行うとき。

商法690条

船の運行会社と所有者が異なる場合、商法690条により、船舶所有者に損害賠償請求をすることも考えられます。 (船舶所有者の責任) 第六百九十条 船舶所有者は、船長その他の船員がその職務を行うについて故意又は過失によって他人に加えた損害を賠償する責任を負う。

船の事故で損害賠償請求が認められる場合

危険な状況で警報を発すべき義務違反と損害賠償

東京地裁昭和55年12月2日判決は、遊漁船で、波による衝撃で遊漁客がケガをしたという事案について、商法590条1項により、釣船会社の損害賠償責任を認めています。

判決の内容

同判決は、「泉水丸の運転者ないし乗組員としては、発進後波の状況よりみて乗客が船室内の周囲の手すりにつかまらなければある程度の危険が予測される事態になつた時点(第一海堡を過ぎた時点)において本来その旨の警報を発すべきであり、右警報を発していたならば本件事故の発生を回避できた可能性は十分あるといわなければならない。」として、波により船が揺れる状況では釣船業者には警告を発する義務があったのに、これを果たさなかったとして、商法590条による責任を認めています。

判決が示すもの

必要に応じて、乗客に注意を促すとの義務を果たさず、乗客が死傷した場合、船会社等は損害賠償義務を負うことになります。

船がサンゴ礁などの浅瀬付近を避けて航行すべき義務と損害賠償

鹿児島地裁平成9年1月10日判決は、刑事事件についてのものですが、高波のある浅瀬付近を避けて航行すべき義務を認定しています。

判決の内容

すなわち、同判決は、以下のとおり述べています。
予見可能性について
「被告人は、三ツ瀬及びジンゾゼ海域に入る手前の長埼立標を左舷真横に見た位置において、南西からのうねりがあり、三ツ瀬付近で波高約三ないし四メートルの、ジンゾゼ付近にはそれ以上の高波が打ち寄せているのを認めたのであるから、島平漁港に向けて三ツ瀬及びジンゾゼ付近を航行した場合、波高五メートル程度の波を尾方向から受けて転覆する危険性のあることを予見することは十分可能であったというべきである。」
回避可能性について
「そして、その時点で三ツ瀬及びジンゾゼにはさまれた海域の航行を避け、三ツ瀬の南側を迂回して浅瀬や暗礁がなく高波の発生していない海域を航行して島平漁港へ入港することも、あるいは、島平漁港への入港を避けて手前の串木野港内の小瀬漁港に入港することも可能であったのであるから、被告人にとって、本件事故を回避するための措置をとることは十分可能であったというべきである。」
判決の示すもの
このように、浅瀬付近は波が高くなるので、船の運航者としては、基本的には避けて運行すべきことになります。
サンゴ礁についても同じことが言えます。

適切に救命胴衣を着用するよう指導する義務違反と損害賠償

船の転覆等が生じた場合、救命胴衣を着用することで救命可能性が高まります。 よって、船の運航者としては、乗客に救命胴衣を着用させる義務があります。 上記鹿児島地裁判決は、乗客らに救命胴衣を着用させるべき義務を認めています。 これは刑事事件についての判決ですが、民事上も同様の責任が認められるでしょう。 なお、救命胴衣については適切な着用をさせるべきことは言うまでもありません。

船舶安全法等による責任

その他、船舶安全法、船舶安全法施行規則、船舶救命設備規則、小型船舶安全規則、国土交通省の諸告示に反した場合、一般的に採用されている安全対策を行わないような場合にも損害賠償義務が生ずる可能性があります。 例えば、法令等に従い無線機器・船舶自動識別装置・救命いかだ等を備えるべき義務を負うのに、果たさず、人の身体生命に損害が発生した場合、損害賠償義務が生ずる可能性が高いと言えます。

修学旅行中の船の転覆事故と損害賠償

修学旅行中の船舶事故については、学校側にも損害賠償責任が認められる可能性があります。

横浜地裁平成23年5月13日判決

修学旅行中の水難事故についての横浜地裁平成23年5月13日判決は、以下のとおり述べ、担当教諭としては、周知の危険のみならず、修学旅行先現地特有の危険についても調査しておく注意義務を負うとしています。

判決の内容

「両教諭が,修学旅行の引率教員として生徒の安全を預かる立場にあったことからすれば,周知されている危険についてのみ調査すれば足りるのではなく,目的地特有の危険はないかを調査すべきなのである。知らないから調べなくてよいということにはならない。」

判決から導かれる教訓

ですから、修学旅行を担当する教員としては、修学旅行で生徒らを船舶に乗せる場合、少なくとも船舶が関係法令を遵守しているかはもちろん、海域の危険性等について確認すべきでしょう。 このような義務を果たさなかった場合、学校側には損害賠償責任が認められる可能性はあります。

旅行会社の責任

なお、このような調査は、知見のある旅行会社にさせることはありうるでしょう。 旅行会社において調査をした上で学校側に安全性に問題がないと回答していた場合、学校側は損害賠償責任を免れる可能性はありますが、今度は旅行会社の損害賠償責任が問題となりうるでしょう。

船の事故と刑事責任

船の事故について責任者が刑事責任に問われることもあります。

知床遊覧船事故判決について

知床遊覧船事故で釧路地裁令和8年6月17日判決は、以下のとおり述べ、遊覧船の運営会社取締役について業務上過失致死罪により禁固5年の判決を言い渡しています。参照:知床遊覧船事故についての判決

知床遊覧船事故判決が設定する注意義務の内容

まず、同判決は、運営会社の取締役について「本件海域の気象及び海象に関する情報を把握した上でc岬コースでの発航を中止するようAに指示すべきはもとより、発航した場合には、発航後も引き続き本件海域の気象及び海象 に関する情報を把握し、同コースでの航行の継続を中止するようAに指示して、同コースでの航行を取りやめさせて危険の発生を未然に防止すべき」注意義務を負うとしています。 船長ら、実際に運航に関わる者だけではなく、運営会社の取締役にも注意義務が課されること、その内容を明らかにしたところに同判決の意義の一つがあります。

知床遊覧船事故判決が予見可能性の根拠とする事情

その上で、同判決は、以下の事情などを踏まえ、予見可能性を認めました。

天気予報等の内容

ⅰ 発航時刻である本件当日午前10時頃の時点において、本件海域が位置するa町に強風注意報及び波浪注意報が発表されるとともに、同日中の気象等の推移につき、海上において北西寄りの毎秒15mの風が吹き、波高に ついても同日午後0時頃までの間2m、午後0時から午後3時にかけて2.5m、午後3時以降は3mとの予測であった。また、d地方気象台が発表した直近の気象情報(同日午前5時発表)によっても、本件海域を含むd地方 において、「南西の風後西の風やや強く海上では西の風強く」、「波1.5m後3m」と予報されていた。さらに、本件海域では、北ないし西から風が吹く際に波が高くなる傾向があるほか、4月から5月にかけて気候が不安定とな り、急激に時化ることがあり、このような海域特性を踏まえれば、前記注意報、予報の内容を上回る風速及び波高となることも予想された

同業者らの動向

ⅱ 本件事故の前日あるいは当日朝、C遊覧船と同様の運航基準の下で本件海域において観光船を運航する同業他社の関係者複数名が、いずれも複数の気象予報サイト等を確認した上で、Aに対し、少なくとも本件当日午後に及ぶ運航を中止するよう忠告していたことが認められるほか、漁師であるKも、本件当日午前9時頃、Aに対して午前10時発のc岬コースの便を欠航するか、少なくともfまでにすべきである旨を進言しているのであって、これらの事実は、Dが発航した本件当日午前10時頃までに把握し得た情報を基に、本件当日午後にDの航路上で遭遇する気象、海象が本件運航基準を超えるような危険なものであることが予想されていたこと、

知床遊覧船事故判決が示すもの

このように、注意報等が出されていること、他の業者の動向などを踏まえ、危険が予測される場合には、予見可能性が認められうることになります。

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