

以下、どのような場合に、樹木からの転落労災について損害賠償が認められるのか、みていきます。 目次 樹木からの転落事故と安全配慮義務違反 樹木からの転落事故と過失相殺
樹木からの転落事故と安全配慮義務違反
作業床を設置すべき義務
労働安全衛生規則は、以下のように定め、高さ2m以上の箇所での作業では、原則として作業床を設置すべきとしています。第五百十八条 事業者は、高さが二メートル以上の箇所(作業床の端、開口部等を除く。)で作業を行な う場合において墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、足場を組み立てる等の方法によ り作業床を設けなければならない。
2 事業者は、前項の規定により作業床を設けることが困難なときは、防網を張り、労働者に要求性能墜 落制止用器具を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。参照:労働安全衛生規則
ですから、樹木の伐採等の作業も、原則としては作業床を設置して行うべきということになるでしょう。
三点支持を指導すべき義務
しかし、現実に作業床を設置して樹木での作業を行うことは少なく、裁判例では、作業床設置ではなく、三点支持等の指導を適切に行うべき安全配慮義務の有無が問題となってきました。東京地裁平成28年9月12日判決、控訴審の東京高裁平成30年4月26日判決は、植物管理工事において作業員が樹木から転落した事故(労働災害)について、使用者側に損害賠償責任を認めています。
樹木からの転落事案において参考になると思われるので、ご紹介します。
東京地裁判決は、「二丁掛けの安全帯を使用していれば,木に登った後,ひもを掛け替えながら移動することで,落下事故を防ぐことができたといえる。しかし,本件事故当時,本件工事のような樹木の剪定作業において,二丁掛けの安全帯を使用することは,造園業界において一般的であったとはいえず,一丁掛けの安全帯を使用して,安全帯を別の枝に掛け替える際,三点支持の方法によって落下を防ぐことが一般的であったといえる。」、「原告X1は,被告Y1に入社するまでの間,剪定作業等の経験がなく,被告Y2の作業に同行して作業方法や安全衛生事項に関する教育を受けていた。したがって,被告Y1は,被告Y2をして,原告X1に対し,高所作業に従事するにあたり,安全帯を別の枝に掛け替えるときや作業場所を移動するときなど,安全帯を外して移動する際における落下事故を防ぐため,三点支持の方法を具体的に指導する義務があったといえる。」としています。
つまり、二丁掛けの安全帯を使う義務まではないものの、一丁掛けの安全帯を使う場合には、転落防止のためには三点支持の方法を指導する義務があったとしました。
その上で、使用者においてその指導をしていなかったとして、安全配慮義務違反を認め賠償責任を認めたものです。
東京高裁も同様の理由で安全配慮義務違反を認めています。なお、東京高裁は、直接雇用者だけではなく、元請の責任も認めています。
このように、最低限、樹木上での作業において、使用者は三点支持について指導をすべきということになります。
樹木からの転落事故と過失相殺
上記東京地裁の事案において、使用者側は、作業員が安全帯を使用していなかったとして過失相殺を求めました。これについて、東京地裁判決は、「そもそも原告X1は,本件事故以前における,木に登って行う剪定作業の経験が浅かったことからしても,原告X1は,実地における作業を通して,具体的にどのような場合に安全帯を使用すべきか,また,安全帯を使用することができない場合にとるべき方法等について,指導を受けることなしには安全を確保することはできなかったといえる。
したがって,本件事故は,被告Y2が,原告X1に対し,安全帯を使用しない場合の安全確保の方法に関する具体的な指導をしなかったことにより発生したものといえるから,原告X1に過失は認められない。」として過失相殺を認めませんでした。
ところが、控訴審である東京高裁平成30年4月26日判決は、「三点支持の方法について指導を受けていなくとも,一丁掛けの安全帯の着用については行うべきことを認識していたのであるから,第2の欅での作業方法に従うなどして,一丁掛けの安全帯による高所作業の場合の安全確保の方法を講じていれば,本件事故の発生を防ぐことは可能であったといえるから,控訴人X1の過失は大きいといわざるを得ない。」として5割の過失相殺を認めています。
初心者である作業員に使用者がきちんと指導をしていなかった以上、作業員側に過失は認められないという結論の方が実情に沿うように思います。
樹木の上での作業については、転落により重大な障害が生ずる可能性があります。
使用者には、従業員が安全な行動を取るよう、具体的に指導すべき高度の義務が認められるべきといえるでしょう。
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