
執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
1 夫婦間の債権がいつ時効になるのか?
お金を貸した場合、その貸金債権は5年で時効となります。
夫婦間でお金の貸し借りをした場合にも基本的にはこのルールが適用されることになります。
そうはいっても、夫婦間では厳格に時効管理するわけではありません。
そこで杓子定規に時効の規定を適用してよいかどうか問題となります。
夫婦間の貸金と民法159条 会社がからむ場合
夫婦間については、民法159条により、婚姻解消のときから6ケ月は時効消滅しないとされています。参照:民法
しかし、夫婦のどちらかが代表者を務める会社については、民法159条がそのままは適用されません。
そこで時効についてどのように考えるべきかが問題となります。
この点、福岡高等裁判所平成29年2月21日判決は、妻が夫が代表者を務める同族会社に貸金の返還を求める請求について、夫婦関係の継続中は事実上貸金の返済請求は困難だったなどとして、時効の成立を認めませんでした。
同判決では、貸金請求をされている妻が夫の同族会社の資金繰りに協力していたという事情も根拠としてあげています。
このように夫婦間の貸金については、それが会社の貸金である場合でも、必ずしも杓子定規に時効の規定が適用されるわけではありません。
しかし、福岡高裁判決は、借主の資金繰りに協力してきた同族企業に関する特例的な判断と解することができ、それなりの規模の会社には妥当しない可能性がありますし、同族企業であっても借主と会社との関係によっては妥当しない可能性があります。
よって、特に会社の貸金の場合には時効適用の危険性もありますので、夫婦関係が怪しくなってきたら債権の請求をしたり、承認を求めるなどの手立てを取った方がよいでしょう。
実質的な婚姻関係破綻と時効
民法159条は、正式に離婚が成立してから6ケ月経過しないと時効にはならないとするものです。
この点、民法159条の「婚姻の解消」が、実質的な婚姻関係破綻も含むかどうか争われた令和3年3月12日判決は、「被告は,上記「婚姻の解消」には婚姻関係が破たんしている場合も含まれるなどと主張するが,民法159条の文理等に照らすと,同条の適用においてそのような実質論を考慮すべきものとは解されず,被告の同主張は採用することができない。」として、実質的な婚姻関係破綻時を基準とするのではなく、正式な離婚時から6ケ月は時効とはならないとの判断を示しています。
実質的に破綻しているかどうかの認定については、精密な時期を特定することは困難であり、実質的な婚姻関係破綻時を時効の基準とする見解は採用できないと考えられます。
夫婦間で不倫の慰謝料はいつまで請求できるのか?
不倫の慰謝料は通常は離婚時から3年で時効
不倫の慰謝料の時効は民法724条により3年です。
夫婦間で不倫が問題となり、慰謝料請求する場合、離婚慰謝料として請求することが多いです。
つまり、不倫により離婚に至ったことについての慰謝料を請求するのです。
この場合、時効は離婚から3年になります。
不倫慰謝料について離婚から6ケ月は時効が完成しないとした裁判例
しかし、不倫があったものの、それが離婚にはつながっていないというケースもあります。
不倫があったものの、夫婦が仲直りをしたような場合です。
そのような場合、不倫から3年以上が経過し、離婚した場合でも、離婚後6ケ月は慰謝料請求権の時効が成立しないことになります。
東京地裁平成28年8月30日判決は、不貞等による他方配偶者に対する損害賠償請求について、「夫婦の一方が他の一方に対して有する権利」に当たるから,原告と被告Y2が婚姻を解消したときから6か月を経過するまでの間は,消滅時効は完成しない(民法159条)」との判断を示しています。
また、離婚していない段階では、離婚慰謝料は請求できないわけですが、離婚していない段階で不貞から3年経過した場合でも、民法159条により、時効は成立しないことになります。
この点、東京地裁令和3年9月16日判決は、「原告及び被告は現在も婚姻関係にあり,原告の被告に対する不貞行為に基づく損害賠償請求権は「夫婦の一方が他の一方に対して有する権利」に当たるといえるから,原告と被告が婚姻を解消したときから6か月を経過するまでの間は消滅時効は完成しない(民法159条)」として、時効は成立しないとしました。
婚姻中の夫婦について、民法159条を理由に不貞慰謝料の時効が完成しないとした裁判例としては、東京地裁令和6年8月26日判決もあります。
このように、民法159条は、不倫の慰謝料を請求する場合に活用できる可能性があります。
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