報道によると、自民党インテリジェンス戦略本部が行政傍受について提言するとのことです。
おそらく、日本に対するサイバーなど攻撃など、安全保障に関わるとされる通信を傍受することを念頭においていると思われます。
通信傍受と令状主義
傍受とは盗聴のことですが、犯罪が発生し、それに対応するための捜査のための傍受・盗聴については令状が必要とされます。
憲法35条1項は「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がな
ければ、侵されない」としています。参照:憲法
これが犯罪捜査のための盗聴に令状が必要とされる憲法上の根拠です。
他方、犯罪とは無関係に行われる行政傍受については、令状が必要ないとの見解がありえます。
行政傍受に令状はいらないのか?
最高裁昭和47年11月22日判決は、以下のとおり述べて、収税官吏による強制検査について令状は要求されないとしました。参照:行政調査と令状主義に関する判例
同判決は、
ⅰ 当該検査が、もつぱら、所得税の公平確実な賦課徴収のために必要な資料を収集することを目的とする手続であつて、その性質上、刑事責任の追及を目的とする手続ではないこと
ⅱ 強制の態様は、収税官吏の検査を正当な理由がなく拒む者に対し、同法七〇条所定の刑罰を加えることによつて、間接的心理的に右検査の受忍を強制しようとするものであり、かつ、右の刑罰が行政上の義務違反に対する制裁として必ずしも軽微なものとはいえないにしても、その作用する強制の度合いは、それが検査の相手方の自由な意思をいちじるしく拘束して、実質上、直接的物理的な強制と同視すべき程度にまで達しているものとは、いまだ認めがたいこと
等を踏まえ、「憲法三五条一項の規定は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制について、それが司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であるが、当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。しかしながら、前に述べた諸点を総合して判断すれば、旧所得税法七〇条一〇号、六三条に規定する検査は、あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといつて、これを憲法三五条の法意に反するものとすることはできず、前記規定を違憲であるとする所論は、理由がない。」としました。
行政傍受について言うと、傍受は抵抗することが不可能な態様での調査手段ですので、最高裁において徴税官吏による調査に令状主義が及ばないとした趣旨ⅱからすれば、令状主義の対象外とすることの根拠は不十分と思います。
また、行政傍受の対象が刑罰法規の対象となる行為を中心とするものであるなら、ⅰとの関係でも令状主義の対象外とすることは許されないでしょう。
ですから、行政傍受であるから令状が不要だと考えることはできません。
アメリカにおける行政傍受
アメリカでは、対外諜報活動監視法改正法( FAA)により行政傍受がされています。
これについてはFISC (Foreign Intelligence Surveillance Court)と呼ばれる特別の裁判所がチェックをすることになっています。
しかし、十分なチェックがなされていないとの批判も強く、アメリカでの制度をそのまま日本に持ち込むことは許されません。
以下、解説します。
1 アメリカでの秘密裡の行政傍受の展開
第一次大戦時からアメリカでは軍等が秘密裡に日本の通信文など傍受、解読していました。それには通信事業者が協力していました。
戦後も法的権限があいまいなまま行政傍受がされていました。
しかし、1978年、対外諜報監視法が制定され、行政傍受が明確な法的規制を受けることになりました。
これは、ウォーターゲート事件により、チャーチ委員会が法律上の根拠なしの国内の諜報すべきではない、対外諜報のためでもNSAは国内通信を傍受すべきでないと勧告したのを受けたものです。
対外諜報監視法では、外国勢力及びその代理人について、対外諜報監視裁判所の秘密審議・個別の命令を経て電子的監視をすることができること、最小化手順を定めることが規定されました。
外国勢力間の通信は司法長官の認証のみでなされることとなりました。
2001年改正法では、外国に所在とすると合理的に信じられる非米国人を諜報の標的として司法長官と国家諜報長官が認可する方法での行政傍受が規定されています。事前に対外諜報監視裁判所に収集目的、標的決定手順、最小化手順を提出し、承認を受けます。この制度では、通信事業者に協力命令を出すことができます。それに従わないときは対外諜報監視裁判所から強制命令発布がなされうることになります。
2 行政傍受についての最高裁判決等
行政傍受に関わるものとしては以下の最高裁判決があります。
1967年 カッツ判決 犯罪捜査のための盗聴には令状必要
1972年 ケイス判決 国内での行政傍受では令状必要、特別の手続きでよい、外国勢力に対する国内外で
の監視は対象外
また、行政傍受で得た情報をもとにFBI等がデータベースを作成し、そこから捜査目的で検索をすることは広
く行われているとされています。
裁判所もそれを認めてきています。
2002年対外諜報監視控訴裁判所決定は、純粋な捜査目的でない限り無令状OKとしています。
令状の要否についての日米の差
上記のとおり、アメリカでは、令状なしでの行政傍受が広く認められています。
しかし、これはアメリカの憲法の規定が要因となっています。
アメリカの憲法には、以下の条文があります(Article II, Section 1, Clause 8)。
Before he enter on the Execution of his Office, he shall take the following Oath or Affirmation:—”I do solemnly swear (or affirm) that I will faithfully execute the Office of President of the United States, and will to the best of my Ability, preserve, protect and defend the Constitution of the United States.”
この条文をもとに、大統領には合衆国を守るための安全保障についての権限が認められるとされます。
他方、日本国憲法の類似規定は以下のとおり述べます。
第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
同条文は、行政府等の権力を縛る規定と解釈されており、この条文をもとに総理大臣に安全保障の権限があると解釈するのは無理でしょう。
また、アメリカの憲法は令状主義について以下のとおり述べます(Fourth Amendment)。
The right of the people to be secure in their persons, houses, papers, and effects, against unreasonable searches and seizures, shall not be violated, and no Warrants shall issue, but upon probable cause, supported by Oath or affirmation, and particularly describing the place to be searched, and the persons or things to be seized.
このように、令状が発布される条件について述べてはいるものの、ある種の状況で令状が必須とは述べていません。
他方、日本国憲法は以下のとおり述べます。
第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
このように、一定の条件において令状が必須だとしています。
アメリカで無令状の行政傍受が広く認められているとしても、それはあくまでアメリカの憲法の条文の解釈として認められているものでしかなく、日本国憲法のもとで同じ解釈となるとは限らないことに留意すべきです。
結論
行政傍受制度を作るのであれば、裁判所による令状審査は必須です。
そもそもそのような制度を作る必要があるのか、立法事実について十分検討することが必要です。
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