
心臓カテーテル手術やその前段階の検査をしていて、大動脈解離や冠動脈解離、冠動脈の閉塞・狭窄などが生じることがあります。
これらが手技上の過失等により発生した場合、医療過誤として損害賠償責任が発生しうることになります。
第1 心臓カテーテル手術等と大動脈解離・冠動脈解離の原因と医療過誤
冠動脈造影手技による冠動脈解離の発生率は0・09%と極めて稀です(小坂田皓平他「カテーテル検査やPCI時の冠動脈解離・冠動脈穿孔」41頁)。大動脈解離は一層稀です。
ですから、必要な経験を備えた医師が適切な手技で行った場合には発生しないようなものだと言えます。
そして、伊藤良明等「明日は我が身 PCI合併症から脱出する術」25頁では、ガイディングカテーテルで大動脈解離を起こす原因として、ⅰ カテーテルのオーバーサイズ、ⅱ 冠動脈とカテーテルの同軸性を保てなかった等があげられています。
大動脈解離や冠動脈解離がこれらの要因により発生したと考えられる場合、手技上の過失があるとものとして医療過誤として損害賠償の対象となることがありえます。
第2 カテーテル・アブレーション術と医療過誤
カテーテル・アブレーション術とは、「治療用のカテーテルを太ももの付け根から血管を通じて心臓に挿入し、カテーテル先端から高周波電流を流して焼灼(焼いて治療すること)することで不整脈を治療」するものです(名古屋セントラル病院サイト心臓カテーテルアブレーション治療(経皮的心筋焼灼術)|名古屋セントラル病院)。カテーテル・アブレーション術によって、心タンポナーデや脳梗塞などの重大な後遺障害が生ずることがありえます。
医師は、これらの合併症について注意深く観察し、適時適切な措置を講ずる義務があります。
福岡高裁令和6年3月22日判決は、カテーテル・アブレーション術を受けた患者に冠動脈の閉塞・狭窄が発生し、心停止となったケースについて、「本件血圧計のモニターに血圧測定不可の表示がされた時点から胸骨圧迫の開始まで約4分50秒が経過していたものと認められ、脳への血流が途絶する時間が3分以上続いた場合、脳の神経細胞の不可逆的な変化が生ずることを踏まえると、被控訴人の医師らには、胸骨圧迫による心肺蘇生措置の開始が遅れた過失があるというべきである。」として、救命措置の遅れの過失を認め、損害賠償を命じています。
第3 心臓カテーテル手術と説明義務違反
心臓カテーテル手術については、上記のとおり、上記のとおり大動脈解離・冠動脈解離等のリスクがあります。ですから、手術前に、これらのリスクについて説明することが求められ、その説明義務違反があった場合には損害賠償の対象となりえます。
特に、不急の手術の場合、説明がなされていれば手術を受けなかったと考えられる場合もありうるものであり、そのような場合には医療機関は大動脈解離・冠動脈解離等の結果についてまで損害賠償責任を負う可能性があります。