ポルシェ運転手に危険運転致死罪は成立するか?

さいとうゆたか弁護士

1 ポルシェが追突した事故の動画

首都高速湾岸線でポルシェが夫婦が乗っていた自動車に追突し、夫婦が死亡した事故に関し、運転の様子を撮影したとする動画が出回っています。
そして、この動画をみた場合、ポルシェは時速200キロメートルを超える速度で運転していたのではないかとの指摘もあります。
この動画の真偽、指摘の当否は明らかではありませんが、仮にポルシェが時速200キロメートルを超えて走行していた場合、危険運転致死罪は成立するでしょうか?

高速度での運転による事故が危険運転致死罪に該当するためには、「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」があること、そのことの故意が必要です。

2 「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」

津地裁令和2年6月16日判決は、時速146キロメートルの高速度で運転して起こした事故が、危険運転致死傷罪の要件である「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」に該当するかどうかについて、以下のとおり述べ、該当するとしました。

「幅やルートが限定された進路を,時速約146kmもの高速度で狙いどおりに進行させることは極めて困難で,ハンドルやブレーキの操作の僅かなミスによって,自分の思い描いた進路から自車を逸脱させて事故を発生させる危険があったこと(すなわち「物理的な意味での制御困難性」が生じていたこと)は明らかである。そして,本件事故は,こうした危険が正に現実化した事故であった。」、「したがって,被害車両の進出開始時点における被告人の運転行為は,(被告人において本件事故時のように自車の進路が狭まりつつある状況を認識しつつ運転していたのであれば)法2条2号所定の「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」に当たるといってよい。」

これは下道での事故ですが、高速道路でも、車線が限定される状況で時速200キロメートルを超える速度で運転する場合には、「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」に該当する可能性があると言っていいでしょう。

3 故意

ところで、津地裁判決は、危険運転致死傷罪の故意があると言えるためには、「自車の進路に進出してくる車両等の存在によって,自車の通過できる進路の幅やルートが限られていて,そのため,そのままの高速度で進行すると,ハンドルやブレーキの操作の僅かなミスによって自車を進路から逸脱させる危険が生じる状況」の認識が必要だとしました。

その上で、「被告人は,片側3車線の広い幹線道路の第3車両通行帯を走行していたのであって,路外施設から本件道路に進入してくる車両との関係では道路交通法上の優先通行権を有していた。このような状況で,路外施設から本件道路に進入してくる車両の存在に殊更に注意を払いながら運転する者はまずいないと考えられる。しかも,本件事故当時は,夜間で,周囲を並走する車両はまばらだったと認められる。被告人が本件事故当時に認識していた道路の状況は,通常の場合よりも,「問題の状況」を具体的に想起することが困難な道路状況であったといわなければならない」として、故意を認めませんでした。
これは、当該事件の被告人にとって路外から道路に進入する車両があることまで具体的に想定はできなかった、よって故意がないということです。
しかし、今回の事件では、夫婦の車両はポルシェの前を走行していたものです。
ポルシェ運転手としては夫婦の車両の存在を予想することは十分可能だったと言えるでしょう。
私は、出回っている動画のとおりの状況であったとすると、ポルシェの運転手に危険運転致死罪の故意が認められる可能性、ひいては危険運転致死罪が成立する可能性は十分あると考えます。

今回の事故については適正で徹底した捜査と適正な処分が不可欠です。

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