執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

労働者が会社を退職した場合、同業他社に就職するのは自由というのが原則です。
しかし、退職時に、同業他社に就職してはいけないという書面を書かされることがあります。
このような書面については、労働者にとって良いことはないので、署名等しないのが一番です。
しかし、うっかり署名等した場合、どの範囲で、同業他社への就職が禁止されるのか?義務違反が認められた場合にどの程度の損害賠償が認められるのか?見ていきます。
1 競業避止義務が認められる範囲
競業避止義務を定める合意書が、期間・区域・営業の書類を限定して作成された場合、これに有効性を認める判例・裁判例が多くあります。、
最高裁昭和44年10月7日判決も、以下のとおり述べ、期間・区域・営業の種類を特定して作成された競業避止合意を有効としました。参照:競業避止義務に関する判例
「昭和三七年一〇月三日上告人と被上告人との間に成立した契約において、上告人が同日から二年間a町b町町内において被上告人と同一業種のパチンコ店を営業しないことを約したというのであつて、このように、期間および区域を限定しかつ営業の種類を特定して競業を禁止する契約は、特段の事情の
認められない本件においては、上告人の営業の自由を不当に制限するものではなく、公序良俗に違反するものではないと解すべき」
2 競業避止義務による損害額
競業避止義務違反が認められたとしても、損害の立証がなければ損害賠償は認められません。
通常、この立証は困難を極めます。
東京地裁令和7年3月26日判決は、美容師の競業避止義務違反に関し、損害賠償を一部のみ認めました。
同判決では、退職し、競業をするに至った美容師が、元の店から連れて行った客に関する売り上げについて損害額を認定しています。
具体的には、
ⅰ 退職をした美容師が競業をしなかった場合の退職美容師の指名客にかかる売り上げ減少率が90%
ⅱ 退職をし、競業をした美容師の指名客にかかる売り上げ減少率が97%
とした上で、競業により来客しなくなった客は指名客の7%分である10人分、利益としては6万円として、6万円の損害賠償を命じました。
このように、競業避止義務による損害立証は極めて困難であり、これが認められるとしても僅少になることが多いです。
3 競業避止義務をめぐるお悩みは弁護士齋藤裕にご相談ください
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