執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
報道によると、千葉市立医療センターで女性看護師2人が新型コロナに感染した、対応した患者の中にはマスク拒否の患者もいたとのことです。
新型コロナウイルスに感染しているのにマスク着用を拒否する患者を医療機関は受け入れ拒否できるでしょうか?
この点、医師法第十九条が、「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」としていることが問題となります(医師が診療せざるを得ない場合、看護師において私は知らないというわけにはいかないので、看護師にも関わってくると思われます)。
裁判例上は、正当な理由がないのに診療拒否したとして医療機関側の損害賠償責任を認めたものが複数存在します。
他方、東京地裁平成29年2月9日判決は、以下のとおり述べ、コミュニケーションがとれず、治療費の支払を拒んだ患者の診療拒否は不法行為とならないとしています(歯科医師法の事例です)。参照:治療拒否の違法性についての裁判例
「診療に従事する歯科医師は,診察治療の求めがあった場合には,正当な理由がなければ,これを拒んではならないとされているところ(歯科医師法19条1項),平成26年3月24日の診療録によれば,被告Y2は,原告に対し,コミュニケーションが取れないことを理由として,本件治療の終了を通告し,今後電話や来院があっても診療を拒否することを決定したことが認められる。
しかし,原告の言動により原告と被告Y2との間の信頼関係が破壊されていたと認められることに加え,本件治療が上部構造の装着完了まで実施されていたこと,原告が本件歯科医院から実施済みの治療行為に関する治療費を請求されたのに対し,支払を拒否する客観的に合理的な事情もうかがわれないのに,原告本人の主観的な不満を理由として支払を拒否することが複数回あったこと等の事実関係に照らせば,被告Y2が原告の診療を拒否したことには「正当な理由」があるものと認められ,不法行為を構成するものとは認められない」
ここでいうコミュニケーションがとれないとは、インプラント治療において控えるべきとされていた喫煙を指示を受けても止めなかったことなどを指します。
仮に、医療機関側において、必要性の説明も含め複数回にわたりマスク着用を患者に求めていたにも関わらず患者がマスク着用を拒否したような事情があれば、医療機関がその患者の診療を拒否しても医師法違反とはされない可能性があると考えます。むしろ、拒否することが医療従事者の安全配慮義務を果たしたものと評価しうる場合もあるでしょう。
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