選挙の投票義務化、是か非か 弁護士が憲法学の議論を踏まえ検討しました

さいとうゆたか弁護士

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

さいとうゆたか弁護士

投票義務化の声

「投票は義務にすべきだ」との発言が時々なされます。

この投票義務化については、諸外国では導入しているところもあり、わが国でも議論されてきたところでもあります。

投票義務化を是とすべきか否か、以下検討します。

投票義務化と憲法学における議論

最近はロースクール問題で評判が高くない佐藤幸治「日本国憲法論」406頁は、「選挙権の行使は公務としての側面をもっており、その意味は投票は義務としての性格を帯びているともいえる。したがって、強制投票制もありうるところであるが、投票は個々の有権者の自由な意思に基づくのが筋で、公明な選挙を実現するうえでもその方が望ましいとの判断から(強制投票制をとった場合、どのように違反者に対する制裁を実現するのかという実際上の難問もある)、任意投票制(自由投票制)が一般的で、わが国でも伝統的に任意投票制がとられてきた」として、投票義務化もありうるとします。

他方、松井茂記「日本国憲法第2版」394頁は、「(憲法)15条の保障する選挙権は、国民の本来的な政治参加の権利であり、当然棄権の自由も含まれる」とします(同時に、選挙に行かない人は、その結果も甘受すべきとしています)。

芦部信喜著・高橋和之補訂「憲法第5版」256頁は、「選挙の公務性を考えると、正当な理由なしに棄権をした選挙人に制裁を加える強制投票制にも一理はあるが、棄権率の低下は政治教育などによって望むべきであろう」として、強制投票制度が憲法上許されるかどうか明確にはしません。

この点、

ⅰ 選挙権が公務的側面を有するとしても、わが国の歴史をみても諸外国の状況をみても強制投票制度は異例な制度と言わざるを得ないこと、

ⅱ 憲法15条1項は、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」としており、投票が義務であることを示すような文言はないこと、

を踏まえると、憲法上、強制投票制は許されていないと考えます。

そうはいっても、投票義務化論自体は、低迷する投票率を上昇させて、統治の正当性と民主主義を確保するためのものとして理解できるところです。

是非とも、他の投票率向上策(投票所設置の柔軟化、党議拘束の緩和等)も含めて議論が深化拡大することを期待しています。

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