執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
「廃棄前提おじさん」と田端信太郎の「田端大学の炎上マーケティング」発言
現在、SNS上で、ある男性が温泉旅館の食事についてツイートしたことをめぐり、その男性を「廃棄炎上おじさん」として批判等するツイートが伸び、炎上ともいえる状況となっています。
その関連で、田端信太郎という方が、上記ツイートは、「田端大学で請け負った万座温泉の炎上マーケティングだよ」とのツイートを行っています。
この点、炎上マーケティングをしていたというのが本当かどうかはわかりませんが、いずれにしても法的に大きな問題をはらんでいると思います。
仮に、炎上マーケティングというのがウソだとすると、万座温泉や旅館の関係者がステルスマーケティングを依頼したとの虚偽情報を不特定多数に発信したこととなり、万座温泉や旅館の関係者の名誉を違法に棄損するものとして損害賠償の対象となる可能性があります。
この点、東京地裁平成30年10月23日判決は、以下のとおり述べ、ステルスマーケティングをしているとの記載は人の社会的評価を低下させるもので、名誉棄損に該当するとしているところです。
「「××」とは,ステルスマーケティングの略語であり,少なくとも近時においては,宣伝であることを秘し,いかにも客観性ある情報であるかのように装って,真実と異なるイメージを持たせる宣伝等のことを意味するものと理解されていることが認められる。
そうすると,本件記載3-②は,一般の読者の普通の注意と読み方によれば,原告が,反社会的勢力等とつながりを持ち,客観的立場を装って,真実と異なるイメージを発信しているという事実を摘示するものであって,原告がライターとして公正さや適格性を欠く人物であるとの印象を与えるものであるから,原告の社会的評価を低下させるものであるといわなければならない。
仮に、炎上マーケティングをしていたのが本当であった場合でも、ただちに景表法等に違反することにはならないでしょう。
この点、消費者庁の「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」は、「広告主が、(ブログ事業者を通じて)ブロガーに広告主が供給する商品・サービスを宣伝するブログ記事を執筆するように依頼し、依頼を受けたブロガーをして、十分な根拠がないにもかかわらず、「△□、ついにゲットしました~。しみ、そばかすを予防して、ぷるぷるお肌になっちゃいます!気になる方はコチラ」と表示させること」を問題事例としてあげています。
逆に言うと、温泉旅館の食事が多いという記載について十分な根拠がないと言える場合を除き、景表法違反とはなりにくいということです。
しかし、ステルスマーケティングを請け負っていたとすると、ステルスマーケティングであることが分かってしまうとステルスマーケティングとしての効果が薄くなるわけですから、田端信太郎さんがステルスマーケティングであることを露見してしまうことは請負契約に付随する秘密を保護すべき義務に違反する可能性があると考えます(もちろん、露見させることも含めて請負契約を締結していたなら別ですが)。
よって、いずれにしても、田端信太郎さんの発言は、万座温泉や旅館の関係者との関係で法的な問題を生じさせる可能性のあるものであったと考えます。
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“炎上マーケティング、炎上商法の法的問題 弁護士が検討しました” への1件のフィードバック