レンターカー1年返さず。刑事責任はどうなる? 弁護士が解説しました。

さいとうゆたか弁護士

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

さいとうゆたか弁護士

報道によると、レンターカーを1年返さなかったとして男が横領容疑で逮捕されたとのことです。
延滞額は766万円にのぼるとのことです。

ここで横領罪について、刑法は以下のとおり定めています。

第二百五十二条 自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。

ここで肝となるのは、自己の占有する物を横領したということです。

人の占有する物を取った場合には窃盗罪となります。
仮に、レンタカーを返すつもりがないのに借りたということになると詐欺罪となります。

レンタカーを適法に自己の占有下においたこと、男においてレンタカーを返すつもりがなかったかどうかわからないため、横領罪として逮捕したというところでしょう。

自動車を借りて、長期間返さないことが横領に該当することは従来から認められてきました。

例えば、大阪高裁昭和46年11月26日判決は、「被告人は昭和四六年五月九日午前九時頃、滋賀県草津市北山田町八一〇番地横江正男方において、同人より同人所有の普通乗用自動車一台(時価約九〇万円相当)を、当日大津市石山へズボンを受取りのため乗用することの許諾をえて貸与を受けて保管中、同日昼頃右ズボン受取り後横江方に戻らず、そのまま反対方向の同市坂本方面に向い、それから同月一七日警察官に逮捕されるまでの間、ほしいままに滋賀県内および福井県内等において自己のドライブ遊びに右自動車を乗り廻し」たという事案について、横領罪の成立を認めています。

 ここでキーとなるのは所有者の意思に反する使用があったかどうかです。
 大阪高裁の事例では、すぐ返すようなことを言って自動車を8日間乗り回したことで横領が成立するとされています。
 レンタカーを1年返さなかった場合に、それが所有権者の意思に反することは明白であり、実際にレンタカーを1年返さなかったというのが事実であるとすると、横領罪の成立に争いはないでしょう。

 なお、業務上横領の事案ではありますが、宮崎地裁延岡支部令和2年3月18日判決は、290万円の横領事案で懲役1年6月の実刑を言い渡しています。
 今回の事件について、レンタカー代が766万円になるとは言え、当然レンタカーはある程度償却されたものでしょうし、会社としてはどこかの時点で新たなレンタカーを購入して1年間売り上げがあがらなかったということでもないしょうから、766万円を横領したケースとは同視できません。しかし、そうはいっても表面上の被害金額の大きさから、前科、賠償等の事情によって実刑もありうると考えます。

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