執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
報道によると、酒気帯び運転の容疑で逮捕されたものの、勾留が却下された山口達也さんの自宅において家宅捜索がなされたとのことです。
酒気帯び運転で家宅捜索がなされたことに違和感を持つ方も多いようです。
刑事訴訟法は、捜索、差し押さえについて以下のとおり定めます。
第二百十八条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。
ここでは犯罪捜査の必要性があることが要件とされています。
この必要性については、「犯罪の態様、軽重、証拠価値の程度、代替性の程度、他の証拠との関係、捜査の発展状況、処分を受ける者が被る不利益の程度等諸般の状況から強制捜査の必要性が認められ」る場合に肯定されます(司法研修所検察教官室実務研究会編著「令状請求の実際101問」133頁)。
山口達也さんについて、仮に飲酒量等をはっきりさせる捜査上の必要性があるのであれば、空き缶・空き瓶等の状況を確認し、アルコール摂取量についての証拠を保全するため、捜査をする必要性は否定はしにくいようにも思われます。仮に部屋に放置された空き缶が複数個あれば、それと供述をあわせ、飲酒量、ひいては運転時における酒気帯びの認識について必要な資料を得ることができる可能性はあります。
ただし、強制捜査としての捜索差押までしなければならない必要性があったかどうかは検討する必要があると思います。
特に、今回は、人身事故ではなく、重大事件とまでは言いにくい状況があります。
そのような事案において、プライバシーの重大な侵害につながる捜索差押をすべきであったのか、任意の手法によるべきではなかったか、検証されるべき点があると思います。
従来の令状実務において、捜索差押については裁判所も、強制捜査までする必要性があるかどうかについてきちんと審査をせずに令状を出してきたきらいがあると思います。
しかし、会社の捜索押さえ等でパソコン等が押収されると業務が完全に止まるということもあり、捜索差押も決して対象となる人にとって軽微な捜査とは言えない場合が多くあります。
今回の件についての世上の声も踏まえ、捜査当局や裁判所は、捜索差押についてより謙抑的な運用を目指すべきだと考えます。
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