
もちろん、無痛分娩には大きなメリットがありますが、無痛分娩特有のリスクもあります。
以下、無痛分娩に伴う医療過誤について解説します。
1 アトニン(オキシトシン)投与による子宮破裂の医療過誤
無痛分娩の際にはアトニン(オキシトシン)という陣痛促進剤の投与がなされます。この投与の結果、子宮破裂等の重篤な結果が発生することがあります。
東京地裁令和5年2月20日判決は、無痛分娩の際のアトニン投与により子宮破裂が生じた事案で医療機関側の損害賠償責任を認めています。
同判決は、「アトニン投与を中止ないし1/2量以下に減量すべき異常波形が認められていたところ、この時点で陣痛室に医師はいなかったのであるから、被告病院の助産師には、C医師又は他の医師に対し、胎児心拍波形の異常が現れたことを報告し、医師をして又は自ら直ちにアトニン投与を中止するか、又は1/2量以下に減量すべき注意義務があったというべきである。」としています。
つまり、無痛分娩においては、医療機関は、胎児心拍波形等に注意し、胎児心拍波形の異常等がある場合にはアトニン投与中止等をする義務を負っており、それに違反した場合には生じた結果について損害賠償義務を負うということになります。
2 無痛分娩における麻酔方法の誤りと医療過誤
無痛分娩において、医療機関には、麻酔に関し、「硬膜外針及びカテーテルを硬膜外腔に留めた上で麻酔薬を分割投入する義務」を負っています。この義務に違反し、「硬膜外針の先端をくも膜下腔まで到達させ,同所に留置したカテーテルを通じて麻酔薬(マーカイン0.5% 25cc)を一度に注入した」結果、妊婦と新生児に重篤な障害が生じたという事案について、京都地裁令和3年3月26日判決は、医療機関側に損害賠償を命じています。
なお、硬膜外麻酔については、大量出血・脱水、背骨の変形、神経の病気、注射部位に膿、全身が細菌感染、高い熱、局所麻酔アレルギーという状況がある場合には避けるべきとされています。
そのような場合において硬膜外麻酔を行い、事故が起こった場合も医療機関側の責任は免れにくいでしょう。参照:日本産科麻酔学会の硬膜外麻酔の禁忌についてのページ
3 常位胎盤早期剥離と無痛分娩
常位胎盤早期剥離とは、胎盤が突然剥がれ落ちることを言います。常位胎盤早期剥離が起こると、胎児に酸素や栄養が行かなくなることになり、死亡することも少なくありません。
また、母体にとっても、大量出血により命に危険が生ずることになります。
ですから、常位胎盤早期剥離については、早期の段階で兆候を把握することが重要です。
常位胎盤早期剥離の重要な兆候が腹痛です。
ところが、無痛分娩の場合、この腹痛を感じにくくなり、常位胎盤早期剥離の発見が遅れる可能性があります。
そうであればこそ、医師としては、無痛分娩の場合には一層、分娩監視装置等を注意深く見守るべきということになります。
この点、日母小冊子「常位胎盤早期剥離」(東京女子医科大学母子総合医療センター教授 中林正雄)は、「常位胎盤早期剥離の兆候を分娩監視装置による胎児心拍数図所見としては、胎児仮死徴候を示しますが、胎盤の剥離面積や剥離速度により様々なパターンを呈します。すなわち胎児頻脈、一過性頻脈の消失、遅発性一過性徐脈、sinusoidal pattern、基線細変動の減少や消失、持続性徐脈などです。早剥の早期診断としては初期症状に多い胎児心拍数異常、切迫早産の子宮収縮と類似した周期的子宮収縮、または不規則なさざなみ状収縮に注意する必要があります。」としています。参照:常位胎盤早期剥離と分娩監視装置による監視についての記事
無痛分娩において、分娩監視装置による監視を怠り、よって母子に重大な事態が生じた場合、医療過誤として損害賠償の対象となることが考えられます。
4 無痛分娩と説明義務違反
無痛分娩は通常の分娩と異なる危険性を有していますので、医療機関側は適切な説明を行う義務を負っています。広島地裁令和2年1月31日判決は、以下のとおり述べ、無痛分娩に伴うオキシトシン投与についての説明義務を認めています。
「オキシトシンは胎児機能不全などの有害事象との関連性が示唆される薬剤であり,一度有害事象が発生すると,胎児に重篤な障害を生じさせるおそれのあるものでもある。したがって,医師は,オキシトシンについて,特段の事情のない限り,投与する必要性,手技・方法,効果,主な有害事象などについて説明をした後,患者から投与について同意を得なければ,その投与をしてはならないというべきである」
その上で、当該事案においては十分な説明がなかったとして損害賠償を命じています。