執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 騎馬戦による事故と損害賠償
多くの学校で行われている騎馬戦ですが、転落などによる事故で重大な障害が残ることもあります。
福岡地方裁判所平成27年3月3日判決は、騎馬戦で落馬し、生徒に第7頚椎以下完全麻痺の障害が残った事案について、校長らの安全配慮義務違反を認め、賠償を認めました。
裁判所は、まず、騎馬戦においては、騎手の落馬や騎馬の崩落といった事態を生じさせることを競技の目標とすることから、これらの危険が当然に予定されているとしました。
また、普段の授業で行われていないので、生徒らが騎馬戦に習熟していないという特性があるとしました。
その上で学校には、騎馬戦における危険回避方法を生徒に指導し、練習させる義務があるとしました。また、審判員となる教員に対し、危険防止措置について指導、訓練する義務があったとしました。
さらに、以下のとおり述べて、対戦する騎馬1組に対し複数の審判員を配置し、危険な状況では対戦を止めさせるなどする義務があったとしました。
「審判員が危険防止措置を取ることにより騎手の落下に伴う危険から生徒を守ろうとする場合には,そもそも騎手が落馬するおそれの低い段階で勝敗を決し対戦を止めるか,又はこのように急激な落下方向の変化が生じた場合にも生徒を受け止められるよう,対戦する騎馬1組に対し複数の審判員を配置することが求められていたというべきである。」
そして、この事案では
ⅰ 「講習会においては,G教諭が代表の生徒に騎馬を組ませて騎馬戦のルールや危険性の説明を行った」、つまり座学はあったものの,「原告X1を含む大半の生徒は騎馬を組むこともなく,また実戦形式の練習は行われなかった」、つまり実践形式の練習も行われていない、この程度では生徒らが転落の危険性の認識や転落への適切な対応をなしえない
ⅱ 2騎に対し1名の審判員しか配置されていなかった
などとして、上記各義務が果たされていないとして、安全配慮義務違反が認められるとしました。
学校側は、単に安全措置を取るだけではなく、本来的に危険性を有する騎馬戦を行うことの是非も含め真摯に検討すべきでしょう。
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