執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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目次
1 柔道部の練習中の事故と損害賠償
1 柔道部の練習中の事故と損害賠償
柔道は死亡や後遺障害にもつながる危険性を内包した競技であり、柔道部の部活動などで傷害などが発生した場合、学校側の注意義務違反が問題となります。
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段階的に練習をさせなかったことで注意義務違反を認めた裁判例
体格差などのある相手との練習に参加させたこと等で義務違反を認めた裁判例
段階的に練習をさせなかったことで注意義務違反を認めた裁判例
この点、例えば、広島地裁尾道支部平成27年8月20日判決は、高校の柔道部の乱取り練習中に発生した事故について、学校側の安全配慮義務違反を認めています。
裁判所は、まず、格闘形式の運動である柔道の練習には、本来的に一定の危険が内在しており、柔道の指導に当たるものについては、柔道の練習によって生ずるおそれのある危険から生徒を保護するために、常に安全面に十分な配慮をし、事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務を負うものとしました。
その上で、被害生徒において柔道部に入部してわずか14日目に乱取り練習に参加しており17日目に事故に遭っていること、受身の練習をしたのは6日間に過ぎなかったこと、受け身の練習の際に被害生徒は首などの使い方が悪かったことなどから、被害生徒は未だに乱取り稽古を行いうる段階ではなかったとしました。そして、以下のとおり、顧問としては、被害生徒を乱取り練習に参加させる前にかかり練習などを重ねる必要があったのに、それをさせなかったので、安全配慮義務違反があったとしました。
「A顧問は,乱取り練習に参加することにより発生する危険から原告X1を保護するため,乱取り練習参加前に,原告X1に対してより十分なかかり練習ないし打込み練習,約束練習や投込み練習をさせ,もって受け身や投げ技の技能をより向上させるべきであったにもかかわらず,そのような練習方法を実施しなかったのであるから,この点につき安全配慮義務違反があったというべきである。」
他方、学校側は、被害制度が注意散漫だったなどと主張しましたが、裁判所は不適切な動きがあったとしても習熟していなかったからであるとして過失相殺を認めませんでした。
体格差などのある相手との練習に参加させたこと等で義務違反を認めた裁判例
また、東京高裁平成25年7月3日判決は、高校1年生の柔道部員が、ウォーミングアップ練習で投げられ、急性硬膜下出血を発症したという事案について、指導者に義務違反を認めました。
事故は約束稽古で発生しました。
裁判所は、
・被害者と相手とが技量差、体格差が大きかったこと
・被害者が前日に脳震盪と診断されていたこと
等から、指導者には、「被害者を本件練習に参加させないように指導するか,仮に,参加させるとしても,被害者の安全を確保するために,練習方法等について十分な指導をするべきであり,これにより被害者の受傷は回避可能であったといえる。」として、指導者の義務違反を認定しています。
柔道という危険な競技において指導者に高度の義務が課せられるのは当然であり、妥当な判決といえるでしょう。授業においては学校側に一層強度な安全配慮義務が認められるものと思われます。
2 学校での柔道の授業中での事故と損害賠償
学校での柔道の授業中においては、生徒の多くが柔道経験がないため、学校側には事故防止に向けたより強い注意義務を負うと考えるべきです。
神戸地裁令和2年5月29日判決は、この点、「高等学校の体育における柔道は,生徒の多くが初心者であるとともに,心身が未発達な年少者であり,その発達状況も個人差があることから,教員がこのような生徒らに対する指導をするに当たっては,生徒らの柔道の経験の有無,体力,技能及び体格差等を十分に把握し,個々の生徒の体力,技能及び体格差等に配慮し,これに応じた指導をすべき注意義務がある」としています。
その上で、教諭において、柔道の授業において、「(生徒間の)の柔道の経験の差によって生じる技能の差及びその体格差を十分に把握することも配慮することもなく,軽率にも本件試合を行わせ,さらに,所定の時間が経過した後試合が長引くことによって事故発生の危険が高まった後も漫然と本件対戦③を実施して本件事故を誘発したことが認められる。そして,B教諭は,本件対戦③において,原告及びAが無理な姿勢での攻防が続け,事故発生の危険がより一層高まった状態であり,B教諭自身も原告及びAの攻防について十分な把握ができていなかったにもかかわらず,漫然と試合を継続して本件事故を発生させたものであり,安全配慮義務に違反したと認められる。」としています。
ここでは、体格や技量が異なる生徒同士の対戦を安易にさせたこと、所定時間以上に試合を長引かせたこと、無理な姿勢での攻防がなされているのに十分に把握せずに試合を漫然と続行させたことが注意義務違反の内容となっています。
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