
近年、人手不足のため、使用者が労働者を中々手放さず、退職に苦労するということが増えています。
そこで以下、退職をめぐる法律問題を解説します。
1 何日前までに退職の申し込みをするのか(予告期間など)
労働者が退職申出をする場合の予告期間などは以下のとおりです。
通常の期間の定めのない雇用契約 2週間の予告期間
毎月1回払いの月給制(遅刻、欠勤でも賃金控除がないとき) 当月の前半において翌月以降のみ可能
期間の定めのある雇用契約 やむをえない事由があるときに限り直ちに契約の解除をすることができる。
2 退職と損害賠償
2週間の予告期間をおかない退職について損害賠償を命ずる裁判例もあります。
たとえば、東京地裁平成4年9月30日判決は、会社が締結した契約を履行するためには男性従業員が必要であったところ、労働者が突然退職し、そのため男性従業員の不在として契約が解除となり、売上げの損失があったという事案において、損害賠償を認めています(ただし、損害賠償の合意がある事案ではあります)。
単に予告期間をおかなかったというだけで損害賠償が命じられるというわけではないことにご留意ください。
また、例えば、上司などが執拗なセクハラ・パワハラをするために退職をせざるをえない、残業をしても残業代も払わないなど、即時退職に正当な理由があるような場合については損害が発生しても損害賠償が認められない可能性はあります。
3 退職の効果発生
退職の意思表示が使用者に到達するとその時点で退職の効力が生ずることになります。
たとえ、使用者において、業務繁忙だから退職を認めないといったところで退職の効力は生ずるということです。
4 強いられた退職
自主退職をしないと懲戒解雇すると言われ自主退職するなど、本意ではない退職をすることもありえます。
実際に懲戒解雇をしても有効とは認められない状況において懲戒解雇で脅して自主退職を迫るような場合、労働者を多人数で取り囲んで執拗に退職を迫ったような場合には、強迫があったものとして退職の効力が否定されることもありえます。
また、社会通念を超えるような執拗、強引な退職勧誘をした場合には、損害賠償責任が生ずることもありえます。
衝動的に退職をすると言ったものの、それが退職の確定的な意思表示とは認められないこともあります。
例えば、東京高裁令和4年8月19日判決は、労働者において、興奮をしていたために、トラブル相手の労働者が辞めるか、自分が辞めるしかない、トラブル相手が辞めない場合には自分が辞めることになる、その場合には9月末にでも辞めるしかない、と言っていたという事案において、10月以降も出勤をしていたこと等も踏まえ、退職の意思表示を確定的にしたものとは評価できないとしています。
口頭での退職の意思表示は比較的その効力が否定されることが多いですが、それが書面化されると覆すことが相対的に難しくなるので、注意が必要です。
5 実際には退職するつもりがなかった場合
実際には退職する意思がないのに、形式上退職届を出す場合もあります。
そのような場合、民法第九十三条の心裡留保(「意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。」)の規定に従い、退職の意思表示が無効となる可能性があります。
例えば、密接な関連性がある会社への転籍に伴い元の会社に退職届を提出した場合について、
・元の会社に就職後数か月で転籍をしているところ、そのような短期間で元の会社との契約が終了することや転籍先の労働条件について元の会社が労働者に説明していないこと、
・元の会社が、労働者に、元の会社の海外赴任規定の適用を前提とした手当が支給される、元の会社の籍に戻るという扱いになると説明していること、
・労働者が退職について積極的な希望を持っていたものではなく、元の会社から退職届用紙がメールで送信されてきたことを受け、届出をしていること
等の事情があるとして、退職届について心裡留保に当たるとし、無効としました。
6 新潟で退職代行は弁護士齋藤裕へ
もご参照ください。
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