交通事故でどこまで治療費の請求ができるのか? 新潟県の交通事故はお任せ下さい

交通事故

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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以下交通事故の被害者が治療費を請求する場合に問題となる点について解説します。

目次

第1 認められる治療費額(交通事故)

第2 治療費の一点単価問題(交通事故)

第3 必要以上の治療があったとしつつ、治療費全額の賠償を認めた事例(交通事故)

第4 交通事故による治療と差額ベッド代

第5 症状固定後の治療費は認められないのか?

第1 認められる治療費額

認められる治療費額は、傷病を治療するのに役立つ治療の治療費ということになります。ですから、必要な治療期間を超える治療についての治療費は賠償されないことになります。

症状固定後に入院した場合の食費は賠償対象とされないことがあります。しかし、症状固定前に入院している際の食費については、通常賠償の対象となります。この点、名古屋地裁令和1年10月16日判決は、「原告について入院の必要性が認められ,上記食費が71日間の入院期間に照らし不相当に高額ともいえないことからすれば,上記食費についても本件事故との相当因果関係が認められるというべきである。」としているところです。

医師の指示がある場合に温泉治療の費用の賠償が認められることもありますが、極めてまれです。

第2 治療費の一点単価問題(交通事故)

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交通事故で治療が必要となった場合、その治療費も損害賠償の対象となるのが通常です。

ところで、加害者のいる交通事故の場合、健康保険を使用せず、自由診療扱いとなることが多いです。

そして、自由診療の場合、治療費をいくらに設定するかは基本的には医療機関の自由となります(1点単価をいくらとするかということです)。

しかし、裁判例の中には、1点単価が高すぎる場合、治療費の賠償を一部認めないこともあります。

診療機関の設定した1点単価を否定した裁判例

例えば、横浜地裁相模原支部平成29年1月26日判決は、以下のとおり述べ、一般的な治療の範囲を出ない治療について、1点10円で計算すべきとしています。

「平成26年11月分までの治療費は,診療報酬につき1点25円として算定された25万3320円であることが認められる。もっとも,証拠(甲17)によっても,同病院における治療が頚椎捻挫等の傷病に対する一般的な治療の域を出るものであったとは認められず,本件事故との相当因果関係が認められる損害は,健康保険に基づく診療報酬(1点10円)を基準とするのが相当であるから,被告が認める12万6660円の限度でこれを認める。」

東京地裁平成23年5月31日判決は、「健康保険診療で行うことができないものであるとか,自由診療で行った場合に診療内容について差異が生じるといった事情はなんら明らかではなく,ブロック療法に前述したような高度な技術を要するとしても,当該療法を選択したことが,健康保険法に基づく基準を修正すべき事情になると直ちに認めることはできない。」として、健康保険診療で行うことができる治療について健康保険に基づく基準を逸脱できないとしています。

なお,保険会社が治療費を支払い済であることについては、「被告側共済によって1点25円とする治療費が既に填補されているからといって,被告らがこれを損害額とすることについて合意していたなどとは認められず,被告らが治療費を否認することは信義則上許されない旨の原告の主張は採用できない。」として保険会社が治療費を支払済であっても1点単価を争うことができるとしています。

診療機関の設定した1点単価を認めた裁判例

他方、東京地裁平成9年8月29日判決は、以下のとおり述べて、1点単価25円を高額すぎるとはいえないとしました。

「原告X1が原告X2医大の救命救急センターに搬送された時点での全身状態は重篤で緊急を要する状況にあり、レントゲン写真撮影などにより骨盤解放骨折等の診断がされた後に、直ちに集中治療室で全身管理が行われている。その後、速やかに手術も行われ、手術から三日目には集中治療室から救命救急センター病棟に移り、本件事故から一一日目にはリハビリ目的で他院に転送されており、適切な治療が行われたことが窺われる。このように重篤な状態にあり緊急な治療が求められた原告X1に対し、適切な治療が施され、一一日間という比較的短期間に退院していることを考慮すると、本件においては、一点単価二五点で計算した原告X2医大の治療費の請求を不当に高額ということはできない。」

つまり、重篤な状態であったこと、治療期間が短いことを考慮し、1点単価25円は高額すぎないと認定しています。

1点単価を否定するか否かについての基準

このように、1点いくらまでなら損害賠償の対象となるということではなく、治療経過によっていくらまで認容されるか違ってくるということになります。

その際、裁判官によって、健康保険で対応できないもの以外は健康保険での基準によるという厳格な立場にたつか、高度な治療が行われていれば健康保険での対応可能性という要件を厳しくみないか、判断がわかれると思われます。

そうすると、事実上一点いくらにするかという選択肢のない患者からすると、自由診療の治療費が高い場合、保険診療にするという選択肢も考えた方がよいということになりそうです。

第3 必要以上の治療があったとしつつ、治療費全額の賠償を認めた事例(交通事故)

交通事故で傷害を負った場合、交通事故と因果関係がある限度で治療費が賠償の対象となりえます。

よって、不必要な治療については賠償の対象となりません。

しかし、横浜地裁平成5年8月26日判決は、大部分の治療が客観的には不必要であったとしつつ、治療費全額の賠償を認めています。

同判決は、まず、被害者は2~3週間の治療で治癒する程度の頚椎捻挫にり患していたとします(この判断自体、不当かと思いますが)。

その上で、以下のとおり述べます。

「治療費の全部を本件事故と相当因果関係のある損害として被告の負担とすることには些か躊躇を覚えないではない。しかし、原告がその客観的原因はともかく、本件事故を契機とする各種の自覚症状のゆえに通院を続けたことは事実というべきであり、この点について原告に詐病による利得を図る意図があったなどとは到底考えることができないから、少なくとも右治療費を本件事故による損害として請求し得ることの可否を論ずる場面においては、右の継続的通院をもって原告を責めるのは酷である。また、A医師においても、なお自覚症状が続いているとして原告から治療を求められた以上、それに対応した何らかの診療行為を行ったのもやむを得ない面がないではなく、あえて不必要な治療に及んだとまでみることもできにくい。一方、いわゆる一括支払の合意のもとに毎月「自賠責診療報酬明細書」を送付されながら、事実上中途で支払を止めただけで、その後の診療に何らの異議も伝えなかった保険会社はその本来あるべき責務を十分に果たしたとはいい難い。被告主張のように△△整形外科における治療が必要性・合理性の範囲を超えた期間に及んでいると考えるのであれば、直ちにその旨を伝えるなどして爾後の治療費の支払を拒むことを明らかにすべきであった。
以上のような事情を総合すると、原告主張の治療費については、損害の公平な分担についての信義則上、その全額である三一七万八九七〇円を本件事故と相当因果関係があるものとして被告の負担とするのが相当である。」

つまり、詐病ではなく、医師も患者の訴えに応じて治療をし、保険会社も治療自体に異議を伝えなかったという状況においては、客観的に必要な治療期間経過後の治療についても賠償の対象となるとしているのです。

患者の訴えなどの治療経過も踏まえ治療費が賠償の対象となるかどうか認定されるとの判断自体は是認すべきですし、他の事件でも参照にされるものだと考えます。

第4 交通事故による治療と差額ベッド代

交通事故で入院した場合でも、必ず特別室使用料、あるいは差額ベッド代が賠償として認められるわけではありません。

差額ベッド代が賠償の対象となるためには一定の合理性が求められます。

1 交通事故で差額ベッド代の賠償が認められる場合

例えば、東京地裁平成28年11月17日判決は、被害者が右上腕骨骨幹部骨折,右寛骨臼骨折,脳挫傷等の傷害を負ったケースで,「その傷害の内容,程度等に照らすと,差額ベッド代全額を本件事故と相当因果関係のある損害とするのが相当である。」としています。

広島高裁令和3年9月10日判決は、「控訴人Aは,てんかんの後遺症のため,てんかんの重積発作で容態が急変し,病室で気管挿管を行って,人工呼吸器を装着する場合もあり,そのため,てんかんの重積発作により入院治療が必要な際は,個室での入院を要すること」を理由に差額ベッド代の賠償を認めています。

神戸地裁令和3年1月15日判決は、高次脳機能障害の被害者について、「入院期間において,原告は,苛立って,周囲を怒鳴るなどの症状があったことが認められるのであり,個室を利用する必要性があったというべきである。」として差額ベッド代の賠償を認めました。

大阪高裁令和1年9月26日判決は、保険会社側から退院可能となった時点以降について差額ベッド代の賠償は認められないとの主張がされていましたが、以下のとおり述べ、全期間について差額ベッド代の賠償を認めました。

「医師は,被害者の病院への入院に際し,被害者の安静度,固定,精神面を考慮して個室での管理が必要と判断していたところ,平成23年3月1日には,被害者に対し,退院が可能であると説明したものの,被害者がハローベスト装着が終わるまで入院治療の継続を希望したことから,その希望に従って入院が継続され,引き続き個室の利用が行われていたことが認められるから,個室利用の必要性に関する医師の上記判断は,同日以降も,維持されていたというべきである。」

大阪地裁平成23年7月25日判決は、医師から家族等の付添が許可されたところ、付添がいる場合は個室とすべきとされていた事例について差額ベッド代の賠償を認めました。参照:差額ベッド代の賠償を認めた判決

このように、傷害の程度などから差額ベッド代が賠償対象となる場合があります。

2 差額ベッド代の賠償が認められない場合

他方、神戸地方裁判所平成25年1月28日判決は、「原告は,E病院に入院した際,自らの希望により,差額ベッド代を要する個室を使用したことが認められる。そうすると,本件事故と相当因果関係のある治療費は,差額ベッド代を除いた治療費合計230万0240円(291万6240円-61万6000円)と認められる。」としています。

つまり、差額ベッド代の合理性がなく、被害者と医療機関の合意により特別室に入院した場合、差額ベッド代は賠償対象とはなりません。

3 差額ベッド代のうち一部のみ賠償対象となる場合

差額ベッド代の賠償自体は認められても、そのうち一部しか賠償対象とならない場合もあります。

東京地裁平成23年6月14日判決は、1万2600円から4万2000円の差額ベッド代を要した事案について、その病院に入院する必要性がなかったことや他の病院の差額ベッド代額を踏まえ、1日あたり1万円のみ差額ベッド代を認めています。

救急搬送された先であるなどを別として、特に差額ベッド代が高額な病院に入院する場合、その病院に入院する必然性がないと、差額ベッド代が満額賠償対象とならない可能性があることに注意が必要です。

4 医療機関からの差額ベッド代請求が認められない場合

なお、明確な合意もない場合、そもそも医療機関からの差額ベッド代の請求が認められないことになります。

この点、厚生労働省の通知は、ⅰ 救急患者などで常時監視と適時適切な看護が必要な場合、ⅱ 他の病床が満床であるため特別室に入院せざるをえず、実質的に患者の選択によらずに特別室に入院させられた場合については患者に差額ベッド代の請求をしてはいけないとしています。

ですから、そもそも医療機関との関係で差額ベッド代の支払いを拒否すべき場合もあるということです。

第5 症状固定後の治療費は認められないのか?

1 症状固定後の治療費

症状固定とは、治療を行っても症状が改善しない状態を言います。

ですから、症状固定後については治療は必要がないとされるのが一般的であり、賠償が認められないことが多いです。

しかし、実際には、症状固定後も治療を行う必要がある場合もあり、症状固定後の治療費を賠償対象として認める裁判例も多くあります。

頚部捻挫(12級)に関する神戸地裁平成10年10月8日判決は、「ほぼ症状が固定したと窺われる平成六年四月以降の分を含んではいるが、改善は期待できないまでも、保存的治療としては必要であったと推定されるから、本件事故と因果関係があるものと認める。」として、保存的治療としての意味があるとして症状固定後の治療費を賠償対象としました。

また、遷延性意識障害など(1級)に関する神戸地裁平成29年3月30日判決は、以下のとおり述べ、症状固定後の治療費を認めています。

「原告X1に対する施術は,藤田保健衛生大学病院の医師の医学的判断を経て行われたものである上,退院時には覚醒状態に明らかな改善があると評価されているなど,一定の効果があったとうかがえることなどに鑑みると,本件においては,その必要性及び相当性を肯定することができ,被告らの上記主張は採用できない。」
「兵庫県立リハビリテーション中央病院の入院においては,在宅環境整備,介護指導,理学療法などが行われたと認められ,在宅介護への移行準備としての入院治療の必要性及び相当性が認められる。」

ここでは、覚醒状態に改善があったことが理由の一つとされています。

そうだとすると、そもそも症状固定していたのかという疑問があり、症状固定後の治療費を認める裁判例として位置づけてよいのかどうか疑問もあります。

他方、症状固定後の入院中に在宅環境整備、介護指導、理学療法が行われたことも理由とされています。

症状固定後もこれらがなされた場合には治療費が認められやすいということは導き出せるように思います。

いずれにしても、様々な理由で症状固定後の治療費が賠償対象となることがあるので、症状固定後の治療費であるいうだけで請求を諦める必要はないということになります。

第6 新潟で交通事故のご相談は弁護士齋藤裕へ

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