執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 ファクタリングとは?
ファクタリングとは、割引料を控除して行う債権の売買ですが、実質的な貸金契約についてその実態を糊塗するためにファクタリング契約の外形が使われることもあります。
2 ファクタリングについての金融庁の考え
金融庁は、その一環と言える賃金ファクタリングについて、書面照会手続きに対する回答書において、以下のとおり、貸金業に該当するとしています。参照:ファクタリングについての金融庁見解
「賃金債権の譲受人から労働者への金銭の交付だけでなく、賃金債権の譲受人による労働者からの資金の回収を含めた資金移転のシステムが構築されているということができ、当該スキームは、経済的に貸付け(金銭の交付と返還の約束が行われているもの。)と同様の機能を有しているものと考えられることから、貸金業法(昭和58年法律第32号)第2条第1項の『手形の割引、売渡担保その他これらの類する方法』に該当すると考えられる」
金融庁の判断はあくまで賃金ファクタリングについてのものですが、それ以外の債権に関するものであっても、譲渡人がファクタリング業者にお金を支払う義務が残るものについては、同様に貸金業に該当するとみてよいと思われます。
そして、貸金業に該当するとなると、貸金業としての登録が必要です。登録もないまま貸金業を営んだ場合、10年以下の懲役または3000万円以下の罰金、あるいはその両方を科せられる可能性があります。
また、以下の利息制限法の規定が適用されますので、法律に違反する高利については無効とされます。
「第一条 金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
一 元本の額が十万円未満の場合 年二割
二 元本の額が十万円以上百万円未満の場合 年一割八分
三 元本の額が百万円以上の場合 年一割五分」
異常な高利である場合については、利息制限法所定利息を超える部分のみならず、契約全体が違法とされ、返済義務自体が否定されることもありうるでしょう。
高利のファクタリングに手を出したら、どんどん泥沼にはまるばかりです。
3 ファクタリングについての裁判例
給料ファクタリングの効力を否定した裁判例
裁判例としては、東京地裁令和3年1月26日判決が、給与ファクタリング取引について実質的には金銭消費貸借契約であり、かつ、異常な高金利であるから、効力は認められないとしています。
同判決は、
・給与債権の譲受人であるファクタリング業者は、給与債権の回収を直接債務者の勤務先から行なうことが法律的に許されないため、必然的に給与債権の譲渡人である債務者を通じて給与の支払いを受ける仕組みであること
・債務者が期限までにファクタリング業者に返済(給与債権の買戻し)をしない場合、ファクタリング業者が債務者の勤務先に連絡(債権譲渡の通知)をすることになるが、債務者は勤務先に借金を知られたくないので、債務者としては期限までに返済(給与債権の買戻しをせざるを得ない)
等の事実関係があるため、当該ファクタリング取引は、経済的機能として、ファクタリング業者の労働者に対する給与債権の譲渡代金の交付と、労働者からの資金の回収が一体となった資金移転の仕組みが構築されたものととらえることができ、貸金業法上の貸付に該当するとしました。
最高裁令和5年2月20日判決も、
・本件取引で譲渡されたのは賃金債権であるところ、労働基準法24条1項の趣旨に徴すれば、労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても、その支払についてはなお同項が適用され、使用者は直接労働者に対して賃金を支払わなければならず、その賃金債権の譲受人は、自ら使用者に対してその支払を求めることは許されない(最高裁昭和40年(オ)第527号同43年3月12日第三小法廷判決・民集22巻3号562頁参照)ことから、被告人は、実際には、債権を買い戻させることなどにより顧客から資金を回収するほかなかったこと
・顧客は、賃金債権の譲渡を使用者に知られることのないよう、債権譲渡通知の留保を希望していたものであり、使用者に対する債権譲渡通知を避けるため、事実上、自ら債権を買い戻さざるを得なかったものと認められる。
・そうすると、本件取引に基づく金銭の交付は、それが、形式的には、債権譲渡の対価としてされたものであり、また、使用者の不払の危険は被告人が負担するとされていたとしても、実質的には、被告人と顧客の二者間における、返済合意がある金銭の交付と同様の機能を有するものと認められる。
として、このような事情の下では、本件取引に基づく金銭の交付は、貸金業法2条1項と出資法5条3項にいう「貸付け」に当たるとしました。
工事代金債権についてのファクタリングに関する裁判例
他方、東京地裁令和3年12月15日判決は、工事代金債権のファクタリングについて、譲渡された代金の回収が不能となった場合でも、ファクタリング業者が工事代金をファクタリング業者に譲渡した者がお金を払うとの合意等がなされていないとして、当該ファクタリングは貸金等には該当しないとしています。
賃金債権以外については債権の譲受人が譲渡された債権の債務者に直接請求することが禁止されないため、賃金債権のファクタリング等とは違い、具体的事情に応じてファクタリングが貸金取引等として認定されない余地は広くなると思われます。
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