永寿総合病院には落ち度があったのか?

さいとうゆたか弁護士

1 室井佑月さんの永寿総合病院への批判

多数の新型コロナウイルス感染者及び死亡者を出した永寿総合病院について、室井佑月さんらが厳しい批判をしています。

もちろん、結果の重大性を踏まえ改善を図るべき点はあるのでしょうが、永寿総合病院側にそれほどの落ち度があったのでしょうか?弁護士として検討してみます。

 

2 永寿総合病院側の説明を踏まえた検討

永寿総合病院側は、新型コロナウイルス患者が大量発生した原因について複数の理由をあげていますが、一番にあげているのは以下のとおり検査態勢がなかったということです。

「当院のアウトブレイクが発生した当時はあまり広く認識されていませんでしたが、新型コロナウイルス感染症は、発熱や風邪症状が出現する前にすでに強い感染力を持っていま
す。さらに、感染しても無症状の場合も多く、気付かないうちに拡がる危険性の高い感染症です。また、急性期病院では、発熱や肺炎を起こす他の病気を持つ患者さんは珍しくなく、
その中から、上に述べたような特徴を持つ新型コロナウイルス感染症の患者さんを判別するためには、PCR 検査が必須となります。しかし、多くの病院と同様に、当院は PCR 検査
の設備を持たないため、迅速な診断ができず、このことも感染拡大の一因であったと私ども考えております。」

この点、MRSA感染により患者が死亡したケースについての東京地裁平成19年12月17日判決は、以下のとおり述べ、術前のMRSA保菌検査を行うべき義務を否定しました。

「国立大学医学部附属病院感染対策協議会 病院感染対策ガイドライン」においては,鼻腔のMRSAスクリーニング監視培養検査は,検査精度の問題があること(陰性結果は必ずしも微生物が存在しないことを意味しているのではない),鼻腔のみがリザーバー(供給基地)とは限らないこと,一過性の保菌をみている場合があること,経済的負担が増加すること,保菌ゆえに手術を延期せざるを得ないケースは限定されていることなどの理由により,一律的に実施することは推奨されないものとされている(甲B29・A-4頁)。また,術前のMRSAスクリーニングは,我が国では現時点においても保険適用が認められていないこと(乙A22,証人k反訳書1・2頁,証人l反訳書2・2頁)が認められる。これらの点に照らせば,前記ア②及び③のとおり,一部の医療機関において,場合により術前のMRSAスクリーニングが行われていることを考慮したとしても,これが通常の医療機関で一般的に行われるべき検査であるとは認められず,l医師の前記意見を採用することはできない(なお,l医師も,必ずしも全ての場合に術前のMRSAスクリーニングを行うものではなく,これを行わない病院が存在することを認める趣旨の証言をしている(証人l反訳書4・3,4頁)。)。」
「したがって,被告病院の担当医師に,dに対し,本件手術前にMRSA保菌検査を行い,陽性であればムピロシンなどの薬剤で除菌を行うべき義務があったとは認められない。」

 

つまり、保険適用が認められていないこと等を理由に、一般の医療機関で行われるべき検査ではないことなどを理由に、かかる検査の義務があったとは言えないとしました。

新型コロナウイルスについては3月6日にPCR検査が健康保険の対象とされましたが、実際に使えるのは帰国者接触者外来あるいはそれと同程度の機能を持つ医療機関に限られていました。

この点からすると、2020年3月時点において永寿総合病院側において患者にPCR検査をすべき義務があったというのは厳し過ぎの感を持ちます。

是非とも、室井佑月さん他の方々には、後から神の目で見るだけではなく、その時々において関係者ができうる範囲の事をしたかどうかという視点で考えていただければと思います。

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