執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
1 遷延性意識障害とは?
遷延性意識障害とは植物状態とも呼ばれる状態であり、3か月以上意思疎通等ができない状態を言います。
2 遷延性意識障害の慰謝料
交通事故で遷延性意識障害となると後遺障害等級1級1号と認定されます。
1級1号の慰謝料は2800万円が基準ですが、それを上回るケースも多くあります。
具体的には以下のとおりです。
〇神戸地裁伊丹支部平成30年11月27日判決
被害者14歳 被害者本人3000万円 両親各400万円 兄弟2人各200万円
〇さいたま地裁川越支部平成28年12月22日判決(暴行)
被害者15歳(症状固定時) 被害者本人2800万円 母200万円
〇東京地裁平成31年1月10日判決(医療過誤)
被害者20歳 被害者本人2800万円 父200万円 母200万円
〇札幌地裁平成28年3月30日判決
被害者31歳くらい 被害者本人2800万円 両親各150万円
〇神戸地裁平成29年3月30日判決
被害者32歳 被害者本人2800万円 両親各350万円
〇東京地裁平成28年9月6日判決
被害者35歳 被害者本人3000万円 両親各200万円
〇神戸地裁平成28年3月29日判決(医療過誤)
被害者35歳(症状固定時) 被害者本人3200万円
※被害者本人の慰謝料は7歳と12歳の子がいる母であることが考慮された。
〇松山地裁西条支部平成29年3月30日判決
被害者54歳 被害者本人2800万円 子ども3人各100万円 父50万円
〇高松地裁丸亀支部平成30年12月19日判決
被害者60歳 被害者本人2800万円
〇名古屋地裁一ノ宮支部平成30年3月5日判決
被害者67歳 被害者本人2800万円 子ども2人各200万円
〇神戸地裁平成28年12月14日判決
被害者72歳 被害者本人2520万円 配偶者160万円、子ども2人各80万円
〇高松高裁平成30年9月13日判決(介護事故)
被害者89歳 被害者本人1800万円 子ども3人各100万円
このように被害者本人の慰謝料2800万円の事例が多いものの、若年の場合はそれを超えることもあり、高齢の場合は下回ることもあることがわかります。
また、親族の慰謝料も若年であるほど高くなる傾向があるでしょう。
3 遷延性意識障害・植物状態と生活費控除(交通事故)
交通事故で後遺障害が残った場合、その程度に応じ労働能力が失われたとされ、失われた労働能力に対応する逸失利益が賠償の対象となることがあります。
特に遷延性意識障害については、1級3号という等級に認定され、100%の労働能力が失われるので、就労可能年数(通常は67歳、高齢者は平均余命の2分の1)の全収入について逸失利益が賠償されるのが通常です。
遷延性意識障害においては、就労が全くできないことに争いが生ずることはありません。
しかし、寝たきりになるため、かえって生活費がかからなくなるのではないか、その分の生活費を逸失利益から控除すべきではないか(生活費控除の問題)との主張がなされることがあります。
そこで以下、生活費控除の問題について検討します。
例えば、京都地裁平成30年1月11日判決の事案で、被告は以下のような主張をしていました。
「原告の現在の状態は,意識障害が遷延する重度の昏睡状態,合併症として慢性肺炎の状態が続き,腹部に胃瘻を作成し,胃瘻カテーテルで栄養を取っている状態であり,生命維持のためには今後も入院が欠かせない状態である。そのため,原告には住居費,食費,日用品購入費その他の生活費は,将来の入院費でまかなわれ,それ以外に発生しない。そして,原告が一人暮らしであったことからすれば,50パーセントの生活費を控除すべきである。」
つまり病院で寝たきりで、住居費等もかからないので、その分を逸失利益から控除すべきだというのです。
これに対し、裁判所は、「入院中であっても,雑費等にかかる費用は必要となること,原告が今後も生活をしていく以上,その後の病状,医療環境及び介護福祉施設の状況等により,将来治療費及び将来介護費を超える生活費を要することは十分考えられることからすれば,原告の逸失利益を算定するに当たり生活費を控除するのは相当ではない。」として生活費控除を認めませんでした。
このように遷延性意識障害において生活費控除をしないのが裁判例の流れだと考えられます。
なお、生活費控除をしない場合でも、そのかわり雑費等はみとめられるべきではないとの主張がなされることもありますが、神戸地裁29年3月30日判決等においてそのような主張は認められていないところです(生活費控除を認めなかった裁判例としては、岐阜地裁令和2年12月23日判決等があります)。
4 遷延性意識傷害と治療費
交通事故により遷延性意識障害となった場合、治療等に必要な治療費は賠償の対象となります。
しかし、実際には、効果が必ずしもはっきりしていない治療がなされることがあり、治療費の賠償が認められるかどうか争いとなることもあります。
その他、差額ベッド代も問題となります。
以下、解説します。
目次
1 遷延性意識障害と脊髄後索電気刺激療法(DCS)
2 遷延性意識障害・植物状態と個室・差額ベッド代
3 遷延性意識障害・植物状態と症状固定後の治療費
1 遷延性意識障害と脊髄後索電気刺激療法(DCS)
神戸地裁平成29年3月30日判決は、以下のとおり、首の骨の中に電極を埋め込んで,電源から弱い電流を流して脳を刺激する治療法である脊髄後索電気刺激療法(DCS)の治療費について賠償責任を認めました。
「被告らは,藤田保健衛生大学病院における脊髄後索電気刺激療法の症状改善への効果には疑問があるため,上記治療は,本件事故との相当因果関係を欠くと主張する。被告ら提出の意見書によれば,遷延性意識障害の患者の首の骨の中に電極を埋め込んで,電源から弱い電流を流して脳を刺激する治療法である脊髄後索電気刺激療法は保険診療で認められた治療法ではなく,意識障害の患者に対する有効性も十分に実証されていない。しかし,原告X1に対する施術は,藤田保健衛生大学病院の医師の医学的判断を経て行われたものである上,退院時には覚醒状態に明らかな改善があると評価されているなど,一定の効果があったとうかがえることなどに鑑みると,本件においては,その必要性及び相当性を肯定することができ,被告らの上記主張は採用できない。」
大阪地裁平成19年2月21日判決もDCSの費用の賠償を認めています。
2 遷延性意識障害・植物状態と個室・差額ベッド代
東京地裁平成12年9月27日判決は、以下のとおり述べて、将来のものも含め差額ベッド代の賠償を認めました。
「差額ベッド代は、被害者の治療のために必要かつ相当である場合に認められるものであるところ、本件では、①他の患者に対する迷惑を生じさせないために必要であると考えられること、②Cは常時介護が必要な状態であって、親族や職業人による毎日の介護費用や自宅での生活を前提とした家屋改造費用等が当然損害として計上され得るものだが、Cは、今後とも現在の入院生活を継続することを前提に、隔日の親族による介護費用の請求にとどめ、職業人による介護費用、家屋改造費用を請求していないこと、③Cの入院は療養型のそれであって、将来継続して入院するかどうか疑問がないわけではないが、現に入院し、それが今後とも継続すると見込まれること、からすると、差額ベッド代を認めるのが合理的かつ相当である。」
将来分の差額ベッド代まで認める裁判例は多くはないものの、遷延性意識障害においては差額ベッド代の賠償が認められやすいと言えます。
3 遷延性意識障害・植物状態と症状固定後の治療費
1で紹介した神戸地裁は判決では、症状固定後のDCSの費用も賠償が命じられています。
効果や必要性がある場合、症状固定後、さらには将来の治療費が賠償の対象とされることもあります。
5 遷延性意識障害と平均余命
1 交通事故による賠償における平均余命の意味
交通事故で後遺障害が残り、その後遺障害のために必要な介護費用等の賠償がなされる場合、平均余命までの費用の賠償がなされることになります。
ところが、遷延性意識障害・植物状態の場合、通常の場合に比べ余命が短くなるとして平均余命までの賠償を認めるべきではないとの主張がなされることがあります。
このような主張についてはどのように考えるべきでしょうか?
2 遷延性意識障害における余命についての裁判例
医療過誤に関するものですが、東京地裁平成31年1月10日判決は、以下のとおり述べ、遷延性意識障害の人の余命について、平均余命をもとに判断すべきとしました。
「平均余命について争いがあるところ、被告が引用する文献では15歳植物状態歴4年の患者の平均余命が12・2年であることから植物状態開始からの平均余命が16・2年と指摘しているものの、同文献は1981年(昭和56年)から1996年(平成8年)のアメリカにおけるデータであり、植物状態との定義も明らかではなく、原告X1にそのまま妥当するものとはいい難く、このほかに将来における原告X1の生存可能性について限定的に考えるべきとの被告の主張を裏付けるに足りる的確な証拠もないことに鑑みると、原告らの主張どおり、平均余命までの55・51年分(ライプニッツ係数18・6335)を用いるのが相当であり、被告の主張は採用できない。」
ところが、松山地裁西条支部平成29年3月30日判決は、以下のように述べ、遷延性意識障害患者はそれがない場合より余命が短くなるとし、それを前提とした賠償を認めています。
「原告X1は,本件事故による受傷により遷延性意識障害(いわゆる植物状態)に陥っているところ,本件事故がなかった場合の余命は,上記判決の認定事実等に照らし,遷延性意識障害に陥ることでさらに短縮されたものと推察されるものの,その短縮期間は,判断の精度の問題や困難さ等を考えると,控え目に2年と認めるのが相当であるから,本件事故による受傷後の余命は,症状固定後8年と認定することとする。」
このように、遷延性意識障害の場合の余命判断については平均余命によりなされるとは限りません。
保険会社側が出してきた余命についての資料などを適切に反論していく作業が極めて重要です。
6 遷延性意識障害と将来介護費
1 将来介護費
交通事故で重度な後遺障害が残った場合、将来介護費の賠償が認められることがあります。
遷延性意識障害の場合は将来介護費が必要なことが明らかですから、通常は認められることになります。
2 遷延性意識障害と介護費
公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準 上巻(基準編) 2020」では、近親者付添人の費用について1日8000円を目安としていますが、増減することはありえます。例えば、広島地裁福山支部平成16年5月26日判決は、妻の付添看護費を日額1万円と認定しています。これは介護内容,拘束時間が根拠とされています。
職業付添人については見積額等によることになりますが、例えば千葉地裁佐倉支部平成18年9月27日判決は、日額2万7000円と認定しています。これは介護の内容と見積を前提に認定がなされています。
ですから、近親者付添人、職業付添人のいずれについても介護内容が介護費日額を決める要素になるものの、職業付添人については見積も影響するということになります。
これらの近親者付添人、職業付添人については、必要とされる介護の内容によっては、同一の期間について近親者付添人と職業付添人の費用が1人分ずつ、計2人分認められることもありますし、職業付添人の費用が2人分認められることもあります。近親者付添人が高齢化して介護を担うことができなくなることを踏まえ、ある時期までは近親者付添人の費用、ある時期以降は職業付添人の費用が認められるということもあります。平日については近親者付添人、休日については職業付添人という前提で賠償が認められることもあります。これらは被害者の状況や介護を行う側の都合等に応じてかわってきます。
職業付添人の費用については公的給付である程度賄われる場合であっても、それが将来にわたり利用できるとは限らないので、公的給付を前提としない金額を基礎として計算されることになります。
遷延性意識障害で介護を受けていた人が裁判中に死亡した場合、以降の介護費用については賠償請求できないことになります(最高裁平成11年12月20日判決)。参照:遷延性意識障害の方の介護費用についての判例
7 遷延性意識障害と入院付添費
1 入院付添費
多くの病院においては完全看護とされており、交通事故の被害者が入院した場合でも親族の付添は必須ではない場合もあり、入院付添費は常に認められるわけではありません。
症状が重い場合、医師の指示がある場合等において入院付添費が認められることになります。
この点、最重度の障害である遷延性意識障害・植物状態の場合、入院付添費の賠償が認められやすい傾向があります。
以下、裁判例を見ます。
2 遷延性意識障害の入院付添費に関する裁判例
京都地裁平成24年10月17日判決は、以下のとおり、「遷延性意識障害により常時介護が必要」という簡単な理由付けで入院付添費1274万4000円を認めています。
「遷延性意識障害により常時介護が必要で,入院期間1972日中,少なくとも1593日は近親者による付き添いを要したと認める。
付添介護費用は,1日8000円が相当である。
8000円×1593日=1274万4000円」
このように遷延性意識障害の場合、入院付添費の賠償が認められやすいのと、通常は日額6500円程度の入院付添費が高めに認められることもあることが特徴です。
必ずしも実際に介護をしていないとしても、重度障害がある場合に親族が立ち会いたいと思うことは当然ですので、あまりどのような介護が必要かなど細かく詰めないまま認められる傾向があります。この点、神戸地裁平成28年1月18日判決は、「付添看護(介護・介助)の必要性がなかったとしても,原告X1,Bその他の近親者が重篤な症状のAに対する声掛けや容態の急変に対する対応のために付き添うことや転院・成年後見の手続準備のために病院へ行くことは許容されるというべきである」としてこのことを明確にしています。
日額については、神戸地裁平成28年1月18日判決のように、付添をする人の年収を日割りして算定することもあります。
職業付添人が付き添う場合、その実費が原則として賠償されます。
なお、親族付添人については、いつ付添したかが争われることがあります。
看護記録等に記録が残っていればいいのですが、そうでない場合については言った言わないになる可能性があります。
付添をした人の有給休暇の記録などが証拠となることもあります。
付添については日記をつけるとか、駐車場の領収書等の客観的記録を保管しておく等のことが重要となります。
8 遷延性意識障害と介護用品代
1 介護用品代の賠償
交通事故で後遺障害が残り、介護用品の購入が必要となった場合、その購入費用について賠償の対象となりえます。
以下、遷延性意識障害・植物状態の場合にどのような介護用品代の賠償が認められるのか、みていきます。
2 遷延性意識障害・植物状態の場合の介護用品代
名古屋地裁平成29年10月17日判決は、遷延性意識障害の被害者について以下のとおり介護用品代の賠償を認めています。
多くの場合に同様の費目の賠償が認められると思われます。
ア 医療機器類
(ア) エマジン小型吸引器(携帯用) 6万3000円
(イ) ミニック(吸引器)(据置き用) 5万6400円
(ウ) パルスオキシメーター 6万8250円
(エ) モニタープローブ 2万1000円
(オ) ボイスキャリーペチャラ(トーキングエイド) 9万8800円
(カ) 小計 30万7450円
これら医療機器の耐用年数はいずれも5年
イ ベッド類
(ア) 担架ベルカ 2万6250円
(イ) 移乗ボード 4万2000円
(ウ) 安心スロープ 2730円
(エ) 楽匠(介護ベッド) 28万3500円
(オ) ベッドサイドレール 1万5750円
(カ) キャスター 1万5750円
(キ) ベッドサイドテーブル 4万1475円
(ク) 小計 42万7455円
これらベッド類の耐用年数はいずれも8年
ウ 寝具類
(ア) 体位変換クッション(円柱型) 9400円
(イ) 体位変換クッション(枕型) 3400円
(ウ) クッションカバー 2200円
(エ) オスカーエアタイプ(ベッドマット) 16万8000円
(オ) 小計 18万3000円
これら寝具類の法定耐用年数はいずれも3年
エ リフト
合計が44万7250円。リフトの耐用年数は4年
オ ケアスロープ
買替費用が17万7488円
カ 車いす
95万4990円。車いすの耐用年数は,6年
キ 福祉車両費 565万7703円
法定耐用年数は6年
これらの器具は買い替えが必要ですが、耐用年数に応じて平均余命までの買い替え費用も賠償が認められます。
これらの器具は生命と生活の質を維持するために不可欠の費用ですので、もれなく請求することが大事です。
9 遷延性意識障害と家屋改造費用
1 交通事故と家屋改造費用
交通事故で重度の後遺障害が残った場合で、被害者が在宅で暮らす場合、家屋改造が必要となることもあります。
そのような場合、家屋改造費用が賠償対象となることがあります。
2 遷延性意識障害・植物状態と家屋改造費用
交通事故で遷延性意識障害・植物状態となった場合でも家屋改造費用の賠償が認められることがあります。
例えば、神戸地裁平成16年7月7日判決は、以下のとおり、遷延性意識障害の被害者を介護するには、従来の住宅では廊下が狭い、上り口に段差がある、身体障害者用の入浴設備がないなどとして、増改築費の賠償を認めつつ、そのうち約4割のみの賠償を認めました。
「証拠によれば,原告X1の自宅は,同原告を介護するには,廊下が狭い,玄関のあがり口に段差がある,身体障害者用の入浴設備がないなどの問題があり,同原告を適切に介護するには増改築の必要があることを認めることができる。」
「そして,既存建物とは別に新築した場合の工事代が2331万円であるとする見積書が存在するけれども,その計画されている建物の床面積,間取り等に照らし,そのうちの約4割に当たる930万円を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。」
「なお,既存建物を増改築した場合の見積書も存在するが,その計画の内容が原告X1の介護にとって必要適切なものであるかどうか,その記載のみから判断し難いので採用することができない。」
また、千葉地裁佐倉支部平成18年9月27日判決も、以下のとおり、自宅介護費用の賠償を認めつつ、改造は家族の便益にも資するとして、エアコン取付、床暖房、システムキッチン。洗濯バン取付等について減額の必要があるとして、原告主張額の9割の家屋改造費を認めました。
「原告らは、家屋改造費用として二六三六万七〇〇〇円を要するとの改築工事提案書を提出するところ、その内容は、原告一郎の自宅介護に必要な改造工事として、基本的に相当であると認められる。」
「他方、家族の便益を根拠とする減額が必要であるとの被告の主張については、エアコン取付・床暖房工事・システムキッチン・洗濯パン取付等に関しては、原告一郎の介護に有益であるとしても、これらにより家族が便益を受ける面も否定できないから、本件事故と相当因果関係のある家屋改造費用としては、原告ら主張額の約九割に相当する二三七〇万円をもって相当とみるべきである。」
このように、遷延性意識障害の被害者の在宅介護に必要な家屋改造費は損害賠償の対象となりえますが、それが恒久的な性質を持つこともあり必ずしも全額が賠償の対象になるわけではないということになります。
10 遷延性意識障害と自動車改造費用
1 後遺障害と自動車改造費
交通事故で重篤な後遺障害が残った場合、そのままでは自動車に乗ることができないということで、自動車改造費、さらには買い替え費用が賠償の対象となることがあります。
遷延性意識障害が残った場合も同様に自動車改造費が賠償の対象となることがあります。
2 遷延性意識障害と自動車改造費
大阪地裁平成19年7月26日判決は、以下のとおり述べ、介護車両購入費用の賠償を認めつつ、60パーセントのみ賠償対象としました。買い替えについては7年毎の買い替え費用を認めました。
「359万6500円については,移動介助の困難さ等を考慮し,相応の車体を持つ介護仕様の車両購入の必要性自体は是認できるにせよ,その車種や装備品の内容,価額等に照らし,全額について本件事故との相当因果関係を認めるには能わず,60パーセントの限度で損害計上すべきであって,買換えについても,7年ごとに9回買い換える必要があると認める」
長野地裁松本支部平成23年3月16日判決は、柔道事故に関するものですが、以下のとおり述べ、車いすが使えるような車両購入費用、7年毎の買い替え費用を認めました。
「原告X1の症状に照らすと,その療養環境を整備する必要があることは十分に推察され,車いすでの原告X1の移動に伴う自動車や駐車場の舗装工事の必要性を認めることができる。また,自動車の買い換えについては,その必要性が認められ,耐用年数は7年と認められるから,症状固定日から平均余命までの67年間で9回買い換えることを前提に,これらの費用を算出すると,合計1752万5852円(=1,750,000+15,775,852[472万0200円×3.3422])になる。」
このように、遷延性意識障害の場合において、常に家の中にいるというわけにはいきませんし、車両の改造費や車いすが塔載可能な自動車の購入費が賠償対象となりえますし、7年に1回程度の買い替え費用も賠償される可能性があります。ただし、オーバースペックあるいは他の家族の利便性も高めるとして全額賠償されないこともありえます。
11 遷延性意識障害と後見人費用
1 交通事故と後見人費用
交通事故で被害者に重度な後遺障害が残り、意思能力が失われたような場合、成年後見人の選任が必須となります。
成年後見人がいなければそもそも交通事故の示談も不可能です。
特に遷延性意識障害・植物状態の場合、成年後見人の選任が必須です。
以下、このような成年後見人に絡む費用が賠償されるのか見ていきます。
2 遷延性意識障害・植物状態と後見人費用の賠償
後見人に関わる費用としては、後見申立費用と後見人報酬の2つが主なものとなります。
後見人申立費用については、その弁護士費用10万円程度について賠償対象となる可能性があります。
後見人報酬についても、これまでの裁判例で認められてきました。
例えば、東京地裁平成28年9月6日判決は、以下のとおり、親族の成年後見人報酬と成年後見監督人報酬について賠償対象としました。
「成年後見人費用 566万5304円
本件事故がなければ原告X1の財産から原告X2に報酬が支払われることはなかったといえるから,同報酬は本件事故によって発生した損害と認められる。」
「本件事故と相当因果関係のある成年後見人費用(報酬)は,平成29年3月分までの報酬209万6000円((計算式)=80万円+43万2000円×3)及び同月以降月額2万円により算定した356万9304円(計算式は以下のとおり)の合計額と認める。
(計算式)=2万円/月×12月×(18.4181-3.5460(4年のライプニッツ係数))」
「成年後見監督人費用 157万7000円
本件事故がなければ原告X1の財産からB弁護士に報酬が支払われることはなかったといえるから,同報酬も本件事故によって発生した損害と認められる。」
「もっとも,今後も東京家裁が成年後見監督人を必要と認めるかは不明であるから,本件事故と相当因果関係のある成年後見監督人費用は,平成29年3月分までの分に限り,これを認める(計算式は以下のとおり)。
(計算式)=30万円+35万円+30万9000円×3」
弁護士成年後見人の費用も賠償の対象となりえます。
さいとうゆたか法律事務所では、遷延性意識障害・植物状態の被害者の方の後見関係の対応もいたしますので、ご親族はお気軽にご相談ください。
12 遷延性意識障害と入院慰謝料
目次
1 交通事故の入通院慰謝料
2 遷延性意識障害・植物状態と入院慰謝料
1 交通事故の入通院慰謝料
交通事故で入通院した場合、その期間等に応じた慰謝料が払われることになります。
民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準上巻(基準編)2020(いわゆる赤本)では、入院について、別表Ⅰで
1月 53万円
2月 101万円
3月 145万円
4月 184万円
5月 217万円
6月 244万円
7月 266万円
8月 284万円
9月 297万円
10月 306万円
11月 314万円
12月 321万円
としています。
その上で、「傷害の部位、程度によっては、別表Ⅰの金額を20%~30%程度増額する」、「生死が危ぶまれる状態が継続したとき、麻酔なしでの手術等極度の苦痛を被ったとき、手術を繰り返したときなどは入通院期間の長短にかかわらず別途増額を考慮する」とされています。
対して、交通事故損害賠償算定基準27訂版(いわゆる青本)では、入院について、
1月 32万円から60万円
2月 63万円から117万円
3月 92万円から171万円
4月 115万円から214万円
5月 135万円から252万円
6月 153万円から284万円
7月 168万円から312万円
8月 181万円から336万円
9月 191万円から356万円
10月 200万円から372万円
11月 207万円から385万円
12月 212万円から395万円
としつつ、「脳・脊髄の損傷や多数の箇所にわたる骨折、内臓破裂と伴う傷害の場合は、通常生命の危険があることが多く、これらの症例の場合で絶対安静を必要とする期間が比較的長く継続したとき、あるいは症状の回復が思わしくなく重度の後遺障害が残り、あるいは長期にわたって苦痛の大きい状態が継続したときなどは、特に症状が重いものとして上限の2割増程度まで基準額を増額してもよいと思われる」としています。
このように赤本、青本とも、重度の傷害がある場合には入院慰謝料が通常より高額となることを認めています。
それでは遷延性意識障害・植物状態の場合の入院慰謝料はどのくらいとなるでしょうか?
2 遷延性意識障害・植物状態と入院慰謝料
近年の遷延性意識障害の裁判例における入院慰謝料は以下のとおりです。
東京地裁平成31年1月10日判決 6か月で244万円(医療過誤ケース。ほぼ原告主張どおり)
高松地裁丸亀支部平成30年12月19日判決 717日間で360万円(原告主張どおり)
松山地裁西条支部平成29年3月30日判決 1年4か月余で340万円(425万円請求。裁判所は受傷内容等を考慮したとしている)
大阪地裁平成28年3月23日判決 6か月で300万円(原告主張どおり。骨折多数あり)
最後の大阪地裁判決では青本の上限を上回る慰謝料となっていますが、それ以外については赤本基準におおむね沿った金額となっています。
大阪地裁の事例についても、多数の骨折があるので、遷延性意識障害であることがどの程度考慮されたのか判然としないものです。
そもそも赤本基準でしか請求していないため赤本基準で認めるようになっているのか、上乗せした金額を請求すればそれなりに上乗せしてもらえるのか、松山地裁西条支部判決のように上乗せは認められないのか、不分明なところが残ります。
この点、裁判所は、意識がないから苦痛も少ないと思っているのかもしれません。
遷延性意識障害においては、青本の上限の2割増しで請求し、かつ、遷延性意識障害被害者の苦痛についても適切に立証するという姿勢が重要だと思われます。
13 遷延性意識障害の弁護士費用
交通事故でお悩みの方は弁護士齋藤裕にご相談ください。
弁護士費用は以下のとおりです。
交渉・訴訟とも着手金無料(ただし、特に困難な事件については5・5~33万円、弁護士特約に加入している場合にはその基準上の金額をいただくことがあります)
種類 | 支払い時期 | 基準 | |
---|---|---|---|
相談料 | 相談時 | 無料 | |
着手金 | 受任時 | 交渉・訴訟とも着手金無料(ただし、特に困難な事件については5・5~33万円、弁護士特約に加入している場合にはその基準上の金額をいただくことがあります) | |
報酬金 | 解決後 | 増額分の13・2%(3,000万円を越える総額については9・9%) 加害者・保険会社側からの提示がない段階で受任した場合には、得られた金額の6・6%(回収金額の3,000万円を越える部分については5・5%) |
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例 | 保険会社からの提案がない段階で受任し、保険会社から1000万円入金があった場合、報酬66万円をいただきます。保険会社から50万円の提案があり、その後受任し、最終的に950万円入金があった場合、950万円-50万円=900万円の13・2%である118万8000円を報酬としていただきます。 |
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