執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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1 どのような場合に退学処分が認められるか?
万引きに限らず高校や大学において、生徒が不祥事を起こした場合、退学を迫られることがあります。
そのような場合、どのように対応したらいいでしょうか?
学校からの退学処分の効力については、最高裁昭和49年7月19日判決が、以下のとおり判断を示しています。
「大学の学生に対する懲戒処分は、教育及び研究の施設としての大学の内部規律を維持し、教育目的を達成するために認められる自律作用であつて、懲戒権者たる学長が学生の行為に対して懲戒処分を発動するにあたり、その行為が懲戒に値いするものであるかどうか、また、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかを決するについては、当該行為の軽重のほか、本人の性格及び平素の行状、右行為の他の学生に与える影響、懲戒処分の本人及び他の学生に及ぼす訓戒的効果、右行為を不問に付した場合の一般的影響等諸般の要素を考慮する必要があり、これらの点の判断は、学内の事情に通暁し直接教育の衝にあたるものの合理的な裁量に任すのでなければ、適切な結果を期しがたいことは、明らかである」
参照:退学処分についての判例
このように、退学処分については(特に私学については)、学校側に退学を命ずるについて広範な裁量があることが認められています。
ただし、同判決も、「当該事案の諸事情を総合的に観察して、その退学処分の選択が社会通念上合理性を認めることができないような」退学処分については退学の効力が否定されるとしています。
実際、学校側が退学を求める事案の中には、到底退学処分をしても有効と認められないような場合もあります。
いずれにしても、退学を迫られても、簡単に退学はせずに、まずは弁護士に相談をしてみましょう。
弁護士が学校側と交渉して解決することもありえます。
2 実際退学処分が出たらどうする?
それでも実際に退学処分が出され、納得できない場合は、法的手段を検討しましょう。
通常の裁判をしていたら、判決が出るころには授業についていけなくなっているということもありえます。
そこで、生徒側が、授業の妨害の禁止を求める仮処分の申し立てをするという方法で当面授業を受け続けるという方法もあります。
例えば、山口地裁宇部支部令和2年2月12日決定は、私立高校の生徒が他の生徒に暴行をしたという事案で、授業の妨害の禁止を求める仮処分を認めています。
3 自主退学が違法となる場合
自主退学という形式をとった場合でも、実質的に退学処分と同視されるような場合、違法とされることがありえます。
東京地裁令和7年5月15日判決は、私立高校における飲酒を理由とする退学勧告について、実質退学処分であるとして違法性を認めました。
同事案では、
ⅰ 原告の父母は、同月30日、本件飲酒行為をした他の生徒の父母と共に、高校の教諭らと面談し、処分方針の変更を依頼したが、同教諭らは、本件退学勧告で示した処分方針を変更しない旨回答した。 ⅱ 原告は、原告訴訟代理人を通じて、同年11月16日及び同月28日、再度、高校に対して本件退学勧告における処分方針の再検討を依頼したが、高校は、同被告訴訟代理人を通じて、同処分方針に変更はない旨回答した。
という経過があり、それを踏まえ、退学勧告は退学処分と同視できるとされました。
その上で、同判決は、以下のとおり述べ、退学勧告を違法としました。
「本件飲酒行為は、上記の他の生徒への悪影響等を考慮しても、直ちに原告を学外に排除しなければならない程に悪質なものとはいえない。加えて、原告には、飲酒行為に関する処分歴はなく、他の懲戒処分歴もない。そうすると、原告については、まずは訓告や停学などの他の処分が検討されてしかるべきであり、その実質において退学処分と同視される本件退学勧告を行って原告の本件高校における生徒の身分をはく奪することは、本件飲酒行為等の態様及び原告の処分歴に比して、均衡を著しく失しているというべきである。」
「したがって、前記の本件飲酒行為の様子がSNS上に配信・投稿された点を本件退学勧告の理由として考慮したとしても、本件においては、原告を学外に排除することが教育上やむを得ないということはできず、本件退学勧告は、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたものとして、不法行為法上違法であると認められる。」
このように退学をやむを得ないとするような事情がない場合には自主退学も違法とされることになります。
しかし、自主退学が違法と評価されても復学できるわけではありません。
ですから、自主退学を求められた場合、すぐに返事をしないで、弁護士に相談するのが重要です。
4 家庭反省指導、自宅謹慎の違法性
家庭反省指導とは、「家庭反省指導として保護者の理解を得て一定期間,家庭において反省させる指導」のことを言います。参照:広島県教育委員会資料
家庭反省指導や自宅謹慎について、事実上の退学勧告と受け止められ、生徒が退学に追い込まれることもあります。
そのため、家庭反省指導や自宅謹慎については、適正なルールのもとでなされる必要があり、ルールを逸脱した場合、不法行為とされる可能性があります。
広島地裁令和7年5月27日判決(控訴審で確定)は、家庭反省指導が違法だとして、損害賠償を命じています。
同判決は、まず、家庭反省指導について、「①必然的に生徒の校内学習の機会の喪失を伴うものであって、それ自体当該生徒の教育を受ける機会を相当程度制限するものである上、②その手順や対応の内容(当該生徒ないし保護者に対する当該反省指導の意義、方法、期間等についての実質的説明の有無等)によっては、当該生徒ないし保護者にとって事実上強制の停学措置やこれに伴う自主退学勧告と受け止められかねない性質を帯びて」いるとします。
これを踏まえ、家庭反省指導については、
ⅰ 生徒の教育を受ける機会を相当程度制限することに見合う適正な手順・対応
ⅱ 事実上強制の停学措置やこれに伴う自主退学勧告と受け止められないような十分な配慮
が必要であり、これらが著しく欠けるような場合には違法とされうるとします。
その上で、当該事案について、違法な家庭反省指導だったとしました。
この判断は、自宅謹慎についても妥当すると考えられます。
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