運転免許取消処分を違法とした裁判例

さいとうゆたか弁護士

1 運転免許取消処分を違法とした裁判例

1 安全運転義務違反を否定した裁判例

さいたま地裁令和1年12月11日判決は、埼玉県公安委員会が運転免許取消処分をしたことを違法と判断し、埼玉県に損害賠償を命じました。
同判決に先立ち、運転免許取消処分が行政訴訟で取り消されてもいます。

この事案では、自動車が右折する際に、歩行者を轢過したことについて争いはありません。
公安委員会側は、歩行者が直立歩行をして横断をしていたとの主張をしています。その場合、自動車側としては歩行者に気づき、横断歩道の前で停止すべきだったと言えますので、安全運転義務違反があったことになり、運転免許取消処分が正当化されることになります。
これに対し、運転者側は、直立歩行を争っていました。運転手は、右側に注意をして運転をしており、なぜ被害者を発見できなかったのかわからないとの供述をしていました。
裁判所は、「目撃供述や防犯カメラの映像などの資料はなく、事故現場の痕跡も被害者が倒れていた場所の血痕以外にはなく、原告車両にも、車底部に被害者を轢過した痕跡があるのみで、前部、両側面及び後部には確たる痕跡がないのであるから、原告車両が被害者を轢過して被害者が死亡するに至ったことは認められるとしても、その際の原告車両と被害者との衝突地点、原告車両と衝突するまでの被害者の動き、原告車両と衝突した時の被害者の位置や態勢などを明らかにする的確な資料はないとみるほかない」として、運転手にとっての事故の回避可能性、前方注視義務違反を認定することができないとしました。
なお、自動車の右側面部前部ウインカー付近に掌紋様払拭痕があるかどうかも争いになっていましたが、裁判所は、そもそも写真から払拭痕があるとは確認できないとしました。

このように、裁判所は、自動車のキズ等を踏まえ、歩行者が直立歩行をしていたことが認定できないとし、安全運転義務違反を否定しました。

運転免許取消処分もあくまで証拠に基づきなされるべきは当然であり、確たる証拠のない運転免許取消処分は取り消され、賠償の対象となることさえあります。

2 義務違反と事故との因果関係が否定された裁判例

東京地裁平成30年9月18日判決は、右折自動車が、直進バイクに衝突し、直進バイクの運転手が死亡したという事故について、自動車側の確認義務違反を認めつつ、以下のとおり述べ、義務違反と死亡との結果の因果関係が認められないとしました。

仮に,原告が,本件事故当時,本件交差点を右折進行するに当たり,対向車線に車両等が接近しているか否かを十分確認していたとしても,相手方車両との衝突を回避することが可能な地点において,相手方車両を視認することが可能であったと認めることはでき」ない

交通事故により人を死傷させたことが処分の条件とされている場合、義務違反自体は認められても、死傷の結果との因果関係が否定され、処分が取り消されることもあります。

3 手続違反のため免許取消が取り消された事例

安全運転義務違反を理由とした運転免許取消処分の理由として、安全運転義務違反との理由のみが示された事例について、札幌地裁令和2年8月24日判決は、以下のとおり述べ、行政処分の理由が示されていないとして、運転免許取消処分を取り消しました。

「本件事故に係る事実関係の下においては、処分理由とされ得る具体的な安全運転義務違反行為が複数あり得るのであって、しかも、それら複数の義務違反行為は両立し得ないといえる。そうすると、本件処分において、安全運転義務違反との処分理由がしめされたのみでは、原告において、上記両立し得ない見通し状況及び安全運転義務の内容のうち何を前提として不服申立てをすればよいのかを判断するのは困難であったといえるし、処分行政庁である北海道公安委員会においても、具体的な義務内容とその義務違反に当たる行為を認識しないまま本件処分に至るおそれがあったと言わざるを得ない」「したがって、本件処分における理由の提示には、行政手続法14条1項本文に反する違法があるというべきである」

なお、同判決は、降雪により視界不良であるときに、徐行や一時停止をしなかったことが安全運転義務違反に当たるとはしているところです。

客観的に義務違反があっても、安全運転義務違反のように、様々な行為を内包しうる義務違反については、運転免許取消処分の理由が示されていなければその処分が取り消されることもあります。

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