執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 法人格なき社団と登記
法人は権利能力を有し、登記の申請人となることができます。
しかし、法人格のない町内会等の社団については、社団名義で登記をすることはできません。
不動産の所有権の登記をしたい場合、社団の代表者を信託の受託者とし、代表者名義での登記をすることはありえます。
ここから、法人格なき社団についても、信託制度を利用した抵当権設定をすることが考えられます。
ところが、従来、抵当権者=債権者でなければならないとの見解もあり、信託制度を利用した抵当権設定は利用されてきませんでした。
2006年改正信託法が、セキュリティトラスト(担保権信託)について明記するに至り、信託を利用した、抵当権者=債権者ではない抵当権の設定が利用しやすくなりました。
このセキュリティトラストを利用し、法人格なき社団が債権者である場合に、個人あるいは法人を担保権者(受託者)とすることにより、抵当権による債権回収の利益を受けることができます。
2 セキュリティトラスト設定の留意点
信託法第五十五条は、「担保権が信託財産である信託において、信託行為において受益者が当該担保権によって担保される債権に係る債権者とされている場合には、担保権者である受託者は、信託事務として、当該担保権の実行の申立てをし、売却代金の配当又は弁済金の交付を受けることができる。」と定めます。参照:信託法
ここから、法人格なき社団が抵当権を利用するためのセキュリティトラストにおいては、
・債務者=委託者
・法人格なき社団(債権者)=受益者
・抵当権者となる法人または個人=受託者
となり、法人格なき社団(債権者)を受益者とすることにより、抵当権の登記をなしうることとなります。
受託者については社団の代表者とすることが多いでしょう。
債務の支払が長期間にわたるような場合、受託者に万が一のことが生ずる可能性があります。
信託法第六十二条は、「第五十六条第一項各号に掲げる事由により受託者の任務が終了した場合において、信託行為に新たな受託者(以下「新受託者」という。)に関する定めがないとき、又は信託行為の定めにより新受託者となるべき者として指定された者が信託の引受けをせず、若しくはこれをすることができないときは、委託者及び受益者は、その合意により、新受託者を選任することができる。」「4 第一項の場合において、同項の合意に係る協議の状況その他の事情に照らして必要があると認めるときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、新受託者を選任することができる。」と定めています。
ですから、受託者に万が一のことがあった場合、新抵当権者=受託者の選定は、債権者と債務者の協議、それがまとまらないなら裁判所の選任をまたなければならないこととなり、大変です。
よって、信託契約においては、新受託者について、債権者が指名する者等と定めておく必要があるでしょう。
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