地方議会での質問制限の違法性を問う訴訟提起

さいとうゆたか弁護士

1 地方議員の議会における質問制限と国賠訴訟提訴

安中聡議員は、五泉市議会議員であり、前回選挙ではトップ当選を果たすなど、市民から強く支持されてきました。

安中聡議員は、これまで五泉市議会議員の政務活動費の使用について、言論や住民訴訟等で鋭く批判してきました。

平成24年3月以降令和3年2月まで、その安中議員が五泉市議会で質問をしようとして、市議会議長から合理的理由なく質問を打ち切られることが相つぎました。

これでは市民の声が市議会に反映されないことになるため、安中議員は、2021年12月13日、新潟地裁に、五泉市を被告とし、質問打ち切りの違法性を問う訴訟を提起することになりました。

2 議員の質問打ち切りと法的責任

名古屋高裁平成24年5月11日判決は、「地方議会議員は,憲法で定められた地方公共団体の議事機関である地方議会(憲法93条1項)の構成員として,当該地方公共団体の住民による直接選挙で選出され(同条2項),議会本会議や委員会等における自由な討論,質問・質疑等を通じて,当該地方公共団体の住民の間に存する多元的な意見や諸々の利益を,当該地方公共団体の意思形成・事務執行等に反映させる役割を担っているのであるから,地方議会の議員には,表現の自由(憲法21条)及び参政権の一態様として,地方議会等において発言する自由が保障されていて,議会等で発言することは,議員としての最も基本的・中核的な権利というべきである。」との判断を示しています。
ですから、合理的理由のない質問打ち切りは権利侵害として違法です。

3 議員の質問打ち切りと自律権との関係

なお、最高裁令和2年11月25日判決は、下記のとおり判示して、地方議会議員の権利行使に恒常的に関わる問題については議会の自律的な解決に委ねることはできず、司法判断に服するとしています。

「普通地方公共団体の議会の議員は,当該普通地方公共団体の区域内に住所を有する者の投票により選挙され(憲法93条2項,地方自治法11条,17条,18条),議会に議案を提出することができ(同法112条),議会の議事については,特別の定めがある場合を除き,出席議員の過半数でこれを決することができる(同法116条)。そして,議会は,条例を設け又は改廃すること,予算を定めること,所定の契約を締結すること等の事件を議決しなければならない(同法96条)ほか,当該普通地方公共団体の事務の管理,議決の執行及び出納を検査することができ,同事務に関する調査を行うことができる(同法98条,100条)。議員は,憲法上の住民自治の原則を具現化するため,議会が行う上記の各事項等について,議事に参与し,議決に加わるなどして,住民の代表としてその意思を当該普通地方公共団体の意思決定に反映させるべく活動する責務を負うものである。」
「出席停止の懲罰は,上記の責務を負う公選の議員に対し,議会がその権能において科する処分であり,これが科されると,当該議員はその期間,会議及び委員会への出席が停止され,議事に参与して議決に加わるなどの議員としての中核的な活動をすることができず,住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たすことができなくなる。このような出席停止の懲罰の性質や議員活動に対する制約の程度に照らすと,これが議員の権利行使の一時的制限にすぎないものとして,その適否が専ら議会の自主的,自律的な解決に委ねられるべきであるということはできない。」
「そうすると,出席停止の懲罰は,議会の自律的な権能に基づいてされたものとして,議会に一定の裁量が認められるべきであるものの,裁判所は,常にその適否を判断することができるというべきである。」
「したがって,普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は,司法審査の対象となるというべきである。」

ここからも本件のように執拗な発言制限については、議会の自律権の問題とすることはできず、司法審査の対象となるというべきです。
なお、下記宇賀克也裁判官補足意見のとおり、議会で議員が発言の機会を奪われることは、自律権の根拠となる住民自治自体を損なうものです。そうであれば、議会が議員の発言の機会を奪うような場面については広く司法審査の対象とされるべきものであり、「一時的制限」かどうかはあまり重要性はないものです。

「したがって,地方議会議員を出席停止にすることは,地方議会議員の本質的責務の履行を不可能にするものであり,それは,同時に当該議員に投票した有権者の意思の反映を制約するものとなり,住民自治を阻害することになる。」
「「地方自治の本旨」としての住民自治により司法権に対する外在的制約を基礎付けながら,住民自治を阻害する結果を招くことは背理であるので,これにより地方議会議員に対する出席停止の懲罰の適否を司法審査の対象外とすることを根拠付けることはできないと考える。」

4 まとめ

地方議会で議長が合理的理由なく議員の質問を制限することは五泉市議会だけではなく、長岡市議会他の市議会にもみられることです。

全国の市議会の正常化をはかるために重要な訴訟だと思いますので、ご支援お願いします。

さいとうゆたか法律事務所トップはこちらです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です