令和6年能登半島地震における建物・塀倒壊、地盤沈下と法的責任

さいとうゆたか弁護士

令和6年能登半島地震では、石川県、富山県のみならず、新潟県でも多くの被害が発生しました。

亡くなられた方々についてお悔やみ申し上げるとともに、被災された方々にお見舞い申し上げます。

新潟県内では、液状化、その他の原因による建物や塀などの倒壊、地盤沈下が発生しています。

・建物などの所有者がそれらを建築した会社等に対して賠償請求をする

・建物や塀などの所有者が、倒壊に伴い被害を被った第三者に賠償責任を負う

などの形で賠償責任の問題が発生する可能性があります。

地震で建物等が倒壊したからといって直ちに建物等に欠陥があり、法的責任が生ずるということにはなりません。

予想もできなかったような大地震については建物等が倒壊しても法的責任が発生しないことがありえます。

それでは法的責任が発生しうるのはどの程度の大きさの地震からなのでしょうか?

震度5で賠償責任を認めた裁判例

宮城県沖地震における地盤沈下、亀裂について、宅地の買主や売主である仙台市に賠償を求めた事件についての仙台高裁平成12年10月25日判決は、以下のとおり述べて、震度5程度の地震で地盤沈下した場合に売主の賠償責任を認めています。

「震度五の震度階に対応する「壁に割目が入り、墓石、石どうろうが倒れたり、煙突、土蔵、石垣などが破損する」程度の強さの地震動に耐え得る耐震性を有していなければならないところ、本件各宅地は、右と同程度の強さの地震動を受けて、これに耐え得ることができず、前記2で認定のとおり、地盤の亀裂及び沈下が発生したものである。」

「本件各宅地は、耐震性において、通常有すべき品質、性能を欠いていたもの、すなわち、「隠れたる瑕疵」が存在するものといわざるを得ない。」

震度5で賠償責任を否定した裁判例

しかし、東日本大震災で土地が液状化して、塀等が傾くなどの被害が生じたとして、建売住宅の買主や売主に賠償責任を求めた事件について、東京地裁平成27年1月30日判決は、震度5での被害について賠償責任を否定しています。

同判決は、以下のとおり述べます。

「本件液状化被害を発生させた本件地震は,M9.0の日本観測史上最大規模の地震であり,これまでに液状化被害をもたらした大規模な地震でも,その地震動(揺れ)の継続時間が長くても59秒(通常継続時間地震)であったのに対し,浦安市では約2分も続き(長継続時間地震),本震の29分後には最大余震が発生し,軟弱化した地盤に更に揺れが加わったこと,前記のようなこれまでに想定されていなかった地震動(揺れ)の時間の長さなどによって,震度5強の場合でも従来液状化する可能性が低いと判定されてきた地域に液状化被害をもたらし,また,かつてないほどの広範かつ甚大な液状化被害を発生させたこと,そして,長時間にわたって地盤が揺すり続けられる地震の発生及びこれにより想定外の規模の液状化被害が発生することは,いずれも従来の知見からは予見不可能な事情であったことが認められる。」
「そうすると,上記のとおり,同じ震度5強程度の地震であっても,本件液状化被害をもたらさないもの(通常の継続時間の地震で,これまで想定され,予見されてきた地震)と,もたらすもの(長い継続時間の地震で,これまで想定されず,予見されていなかった地震)があり,本件液状化被害は正に後者に当たる本件地震によって発生したものと認められるから,被告には,本件液状化被害を発生させる原因力となるような震度5強の地震が発生し,これによる本件液状化被害が発生することにつき予見可能性がなかったものと認められる。」

震度の大きさと法的責任の関連

以上から、裁判例の中には震度の大きさだけで責任の有無を判断しているものもあるものの、必ずしも震度だけで責任を判断しているわけではないことがわかります。

倒壊等のメカニズム、揺れの長さ等の地震の諸要素、その地域での地震被害の来歴、対象となる建造物、法的関係によって結論が違ってくると思われます。

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