執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 動画のアップロードと著作権侵害
最近、アダルト作品も含めた他人の動画をアップロードしたということで損害賠償請求を受ける事案が増えています。
特に、P2P方式のファイル共有プロトコルであるBitTorrentを利用した動画のアップロードをめぐるトラブルが増えているようです。
少なくない裁判例において、動画をアップロードすることで、著作権(公衆送信権)が侵害されたと認定されているところです。
ただし、どのような証拠があれば著作権侵害があったと言えるのかについて争いがあります。
BitTorentにおいては、
ⅰ ネットワークに参加しているパソコン(ピア)が、動画をアップロードすることができることを示す通信(UNCHOKEの通信)
ⅱ あるピアが他のピアに対して、動画ファイルを構成するピースの転送を求める前提として他のピアとやりとりをする通信(Handshake)
などの通信がなされます。
これらの通信は直接的に動画のアップロードを示すものではありません。
知的財産高裁令和6年5月16日判決は、Handshakeの通信について、動画をアップロードする通信ではないとしても、送信可能化権を侵害したものと言えるとしています。
しかし、東京地裁令和6年3月14日判決は、UNCHOKEの通信について、動画をアップロード等しているわけではなく、送信可能化権を侵害したとは言えないとしています。
このように、AV業者から著作権侵害等として損害賠償請求をされたとしても、それが送信可能化権を侵害したとは言えない可能性もありますので、注意が必要です。
2 著作権侵害と損害額
実際に動画をアップロードし、著作権者から損害賠償請求を受けた場合、損害賠償に応じなければならないケースが多いかと思います。
ただし、請求された金額をそのまま支払わなければならないというわけでもありません。
著作権が侵害された場合、市場において著作権者の商品が売れなくなるという損害が発生します。
その損害については損害賠償が認められうることになります。
しかし、実際にはその算定は極めて困難です。
この点、著作権法は、損害額の立証を容易にする規定を設けています。
著作権法114条1項は、著作権侵害により販売やダウンロードされた数量に、被害者における単位あたりに利益額を乗じ、損害額とするものです。参照:著作権法
著作権法114条2項は、著作権侵害により加害者が受けた利益を損害額として推定するというものです。
著作権法114条3項は、著作権の利用料相当額を損害額とするものです。
これらの規定を使った場合でも、被害者の側で一定の事項を立証する必要があります。
例えば、著作権法114条1項については、被害者において販売数量などや単位当たり利益を立証しなければなりません。
ですから、そのような立証もないのに、著作権者から請求されるがままに賠償をする必要はありません。
また、著作権側で、弁護士費用や調査費用も含めた請求をしてくることもあります。
しかし、少なくとも裁判所での手続きで開示を得たような場合等はともかく、弁護士が交渉をしているというだけで弁護士費用の賠償責任が発生するとも思われません。
開示のために裁判所の手続きが利用され、弁護士費用の賠償責任が発生するとしても、多くの場合において賠償責任が発生するのは弁護士費用の一部でしかありません。
3 著作権法の刑事責任について
著作権法に違反した場合、刑事責任が発生する可能性があります。
そのため、著作権者において、刑事告訴をたてに、法外な要求をしてくることも多々あります。
しかし、多くの人は動画のダウンロードのみならずアップロードをすることまでは認識しないでアップロードを行っていると考えられます。
ですから、犯罪の故意があるとして有罪とされるケースはあまり多くはないと考えます。
ですから、著作権者側の脅しに過剰に反応する必要はないと考えます。
4 動画のアップロードで損害賠償請求をされたらご相談ください
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