下請業者は下請代金支払遅延防止法をどう活用できるのか?

さいとうゆたか弁護士

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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下請業者が元請業者から不当な扱いを受け、不利益を被ることはよくあります。

下請代金遅延防止法は、一定範囲において、下請業者の保護を図っています。

以下、ご紹介します。参照:下請代金遅延防止法

1 下請代金の支払期日は60日以内

下請代金支払遅延防止法2条の2は、下請代金は仕事を受領した日から60日以内にしなくてはならないとしており、それより先に期限が定められても受領日から60日を経過した日の前日が下請代金の支払期日とされます。

2 元請事業者の遵守事項

下請法上元請事業者がしてはいけない事項

下請代金支払遅延防止法4条1項は、以下のとおり、元請事業者がしてはいけない項目を定めています。

ⅰ 下請業者に責任がないのに受領拒否、あるいは返品すること(役務提供委託は除きます)

ⅱ 期日が来ても下請代金を払わないこと

ⅲ 下請業者に責任がないのに下請代金を減額すること

ⅳ 通常の場合より著しく低い代金を不当に定めること

ⅴ 合理性がないのに指定物品の購入を強制すること

ⅵ 公正取引委員会が中小企業庁への申告を理由に不利益扱いをすること

どのような場合に受領拒否が違法となるのか?

ⅰの、下請業者に責任がある場合は、下請業者が契約に沿った納品等をしない場合、納期に遅れた場合です。

親業者の生産計画の変更、設計変更、納期を無理に短縮して納期遅れとなった場合、親業者の受領態勢が整わないこと、親事業者の取引先との関係で受領拒否するのは下請法違反となります。

受領拒否事例としてはシャトレーゼの事案があります。参照:商品受領拒否事案

どのような下請代金減額が禁止されるのか?(ビックカメラの事例)

消費税分の不払い、引き下げ単価の遡及、無理な納期設定により生じた納期遅れを理由とした代金減額、下請代金をそのままにしての数量増加、一円以上の切り捨て、合意がないのに振込手数料を下請業者の負担とし代金から控除等の場合に違法な下請代金減額となります。

平成16年度以降の下請法の勧告のほとんどはこの代金減額とされており、重大な問題となっています。

ビックカメラが代金から販売促進費やリベートを控除していたとして、下請法違反該当性を指摘されていますが、これも下請代金減額です。

販売促進費名目での減額の事例としては、コストコホールセールジャパン株式会社の事例があります。

公正取引委員会サイトによると、コストコホールセールジャパン株式会社は、いずれも販売促進にかかるものである「クーポンサポート」、「オープニングサポート」の額を下請代金の額から差し引き又は支払わせていて、そのために下請法違反で勧告を受けています。参照:コストコホールセールジャパン株式会社への勧告についての記事

リベート名目での下請代金減額の事例としては、ナイス株式会社の事例があります。

公正取引委員会サイトによると、「ナイス株式会社は、自社が販売する又は製造を請け負う建築資材の製造を下請事業者に委託しているところ、令和4年11月から令和6年5月までの間、次のア及びイの行為により、下請代金の額を減じていた。ア 「仕入割引」の額を下請代金の額から差し引いていた。

イ 「リベート」の額を下請代金の額から差し引き又は支払わせていた。」ということです。

その結果、ナイス株式会社は下請法違反で勧告を受けています。参照:ナイス株式会社への勧告についての記事

どのような場合に著しく低い代金、買いたたきとされるのか?

・従前の対価で計算された対価より著しく低い対価、

・コスト上昇が公表資料から明らかなのに据え置かれた代金、

・量産を前提とした代金を量産ではない場合に当てはめた対価、

・コスト上昇分を交渉において明示的に協議しないで据え置かれた対価、

・コスト上昇分の反映を求められたのに親事業者がそれに対する理由を回答しないで据え置かれた対価、

・一律に一定比率引き下げられた対価、

・親事業者の予算単価のみを理由として通常より低い単価で定められた単価、

・短納期発注なのにそのコスト増を考慮しないで通常より低く設定された単価、

・知的財産を考慮しないで定められた通常より安い対価、

・合理的理由がないのに他の下請業者より低く設定された対価、

・同種の給付について特定の地域・顧客向けであることを理由に通常より安く設定された対価

等について著しく低い代金、買いたたきとされる可能性があります。

4 下請事業者の利益を不当に害する場合に禁止される親事業者の行為

下請事業者の利益を不当に害する場合に禁止される親事業者の行為

4条2項は、以下の行為をして、下請事業者の利益を不当に害してはならないとしています。

一 代金を支払期日より早く払わせること
二 下請代金の支払につき、当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。
三 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
四 下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の内容を変更させ、又は下請事業者の給付を受領した後に給付をやり直させること。

自己のための経済的利益提供

自己のための経済的利益の提供については、公正取引委委員会作成の「知って守って下請法」に事例があげられています。参照:下請法パンフレット

それによると

ⅰ 協賛金の提供要請

ⅱ 金型を無償保管させる

ⅲ 委託者が、下請事業者に、自社の店舗の営業を手伝わせる

ⅳ 下請業者への返品の際の送料を下請業者に負担させる

ⅴ 取引と直接関係しない知的財産権を無償で譲渡させる

ⅵ 取引とは関係のない荷物の積み下ろしをさせる

ことが事例としてあげられています。

過剰や違約金条項も含まれます。

金型等の無償保管

物品の無償保管、特に金型の無償保管については公正取引委員会が積極的に対応している類型です。

令和7年4月17日、公正取引委員会は、暖房機メーカーのコロナが下請け業者に金型の無償保管をさせていたケースについて、勧告を行っています。参照:金型の無償保管についての勧告

勧告においては、コロナが貸与していた金型について、「当該金型等を用いて製造する本件製品等の発注を長期間行わないにもかかわらず、下請事業者に対し、合計1,818個の金型等を自己のために
無償で保管させることにより、下請事業者の利益を不当に害していた」とされています。

金型を使用する見込みが近々にあるかどうか(あるのであれば、下請法違反とはなりにくい)が要件として重要ということになるでしょう。

勧告では、社内における下請法の研修、無償保管した下請業者に対する費用の支払いなどをすることが求められています。

過大な違約金

報道によると、公正取引委員会において、日本郵便が配達の下請業者に対し、誤配・苦情について違約金を徴収していた件について、下請法違反との認定をしたとのことです。

違約金自体は通常の取引でもありうるところです。

しかし、取引により得られる報酬と比して異常に高い違約金を定める、違約金を徴収する合理性のない行為についてまで違約金を課する等があれば、下請法違反となることはありうるでしょう。

自店舗の営業を手伝わせる下請法違反

自店舗の営業を手伝わせるという類型も多くみられる類型です。

例えば、ビッグモーターが、下請業者に店舗清掃などをさせていた事例で、勧告が出されています。参照:自店舗の営業を手伝わせる下請法違反についての勧告等

5 下請代金の遅延利息

下請代金については、受領日から60日を経過した日から年14・6%の割合による遅延利息が発生します(4条の2)。

支払期日が受領日から60日を超えた日となっている場合でも、60日を超えたら遅延となります。

6 下請代金遅延防止法の履行強制

法律違反があったときは、中小企業庁長官の請求を受け、公正取引委員会が勧告などを行うことがあります。

また、合意が同法に違反し、不当性が強い場合には、公序良俗違反として合意が無効とされることがありえます。

下請法違反により合意が無効とされたものとして、札幌地裁平成30年4月26日判決があります。

同判決は、瑕疵のない商品の返品事案です。

同判決は、

ⅰ 本来自己が負うべき在庫リスク等を下請業者に転嫁するという不当な目的があったこと

ⅱ 下請業者が自己との取引関係に経営を依存していることに乗じたこと

ⅲ 下請け業者に協議を通じて本件返品合意に基づく返品により生じ得る損失の性質及び程度を説明することなかったこと

ⅳ 下請業者の損失が無限定に膨らむことがないように返品量,返品期限及び粗利益率について約束をするなど十分な配慮をすることもなかったこと

ⅴ 合意に基づき大量の返品を繰り返すことで,下請業者の予想し難い,返品米の再販売や高めの粗利益率の設定によっても補てんできず,下請業者の経営を危殆化させかねないほどの過大な損失を下請業者にもたらしたこと

等の事情を踏まえ、下請法適用取引のみならず、適用されない取引についても、返品についての合意が民法90条にいう公序良俗に反し,無効となるとしています。

ここでは、目的の不当性、下請業者の立場の弱さ、合意にあたっての情報開示、下請業者が損失を被らないようにするための配慮の有無、実際に生じた損害等が考慮されています。

このように、裁判において下請法違反の合意は無効とされる可能性がありますので、弁護士に依頼し、交渉や裁判等で解決することもできます。

7 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律

2025年5月16日、下請法が改正され、製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律に名称変更されることになりました。

主な改正内容としては、

ⅰ 新法5条2項4号で、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明をしないなど、一方的に代金を決定して、中小受託事業者の利益を不当に害する行為が禁止されることになった

ⅱ 新法5条1項2号で、手形払い等が禁止

ⅲ 運送委託を対象取引に追加

ⅳ 用語を改定(「親事業者」⇒「委託事業者」、「下請事業者」⇒「中小受託事業者」、「下請代金」⇒「製造委託等代金」)

ⅴ これまでは会社の資本金額だけで適用対象が規律されていましたが、従業員300人(製造委託等)又は100人(役務提供委託等)をも基準とすることになったこと

ⅵ 木型、治具等も製造委託の対象物とする

ⅶ 代金減額についても遅延利息を払うべきこととする

等という点があげられます。

この改正法は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されることになります。

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