交通事故被害者と刑事手続(危険運転過失致傷罪、被害者保護手続きなど)

交通事故

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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目次

1 交通事故と刑事手続き

2 過失運転致死傷罪について

3 危険運転致死傷罪について

4 交通事故と犯罪被害者参加

5 被害者参加の費用の加害者への請求

 

1 交通事故と刑事手続き

交通事故の加害者が問われる責任としては、民事責任、刑事責任、行政責任(免許など)があります。

刑事責任については、警察が捜査をし、検察官が起訴をするかどうかを決めることになります。

検察官としては、不起訴、略式命令、正式裁判のどれかを選ぶことになります。

略式命令は書類だけの裁判で、結論は罰金です。

正式裁判は、よくテレビでみるような法廷で審理をし、判決を言い渡すものです。

2 過失運転致死傷罪について

過失運転致死傷罪に問われることが多いですが、同罪では懲役7年以下等に処せられうることになります。

正式裁判でも多くの場合は執行猶予がついて刑務所に行くことはありませんが、実刑判決となる刑務所に行くこともあります。ひき逃げの場合、前科がある場合、被害が重大な場合、過失が大きい場合などに実刑が言い渡される可能性が高くなります。

ひき逃げの過失運転致死傷罪について実刑を言い渡した事例

例えば、秋田地裁令和4年11月2日判決は、信号無視により原付バイクに衝突させ、その運転手を死亡させたという事件について懲役3年の実刑としています。

この結論は仙台高裁秋田支部令和5年2月13日判決でも維持されています。

秋田地裁判決では、量刑の理由としては、

ⅰ 信号無視という過失の大きさ

ⅱ 死亡という結果

ⅲ 救護・報告義務違反

ⅳ 過失運転致傷の罰金前科

等があげられています。

やはり、ひき逃げ、前科、被害の重大さ、過失の大きさが実刑とするにあたり重要であることがわかります。

死者2名の過失運転致死傷罪について実刑を言い渡した事例

神戸地裁令和6年9月30日判決は、

ⅰ 大型トラックを運転中の被告人が、足元に視線を向けて前方をよく見ないままトラックを進行させたため、進路前方で渋滞のため低速走行していた先行車に追突し、さらにその前方に停車していた2台の車両にも玉突き追突する事故を引き起こして、2名を死亡させ2名に傷害を負わせたこと

ⅱ 運転態様は前方を見ずに自動車を走行させていたに等しいと言えること

ⅲ 被告人車が最大積載量10tを超える大型トラックであったこと、
ⅳ 当時の走行速度が時速80kmを超える高速度であったこと

ⅴ 民事的な賠償については、自動車保険を通じて果たされることが見込まれること

ⅵ 被告人は自身の落ち度を全面的に認めて、真摯に反省と謝罪の態度を示し、今後は自動車の運転を一切しない旨誓約しており、被告人の妻も被告人の更生に協力する旨公判廷で述べていること

ⅶ 本件にてより被告人は本件当時勤務していた運送会社を退職することを余儀なくされてお
り、相応の社会的な制裁を受けていること

ⅷ 被告人には犯罪歴はないこと

を踏まえ、禁固3年の実刑とされたものです。

被害結果の重大さ、過失の重大さによっても実刑がありうるということになります。

3 危険運転致死傷罪について

危険運転致死傷罪の条文

一定の危険な運転がなされ、交通事故が発生した場合には危険運転致死傷罪が適用されます。

これは、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条に規定されているものです。

危険運転致死傷罪が適用されるのは以下のような場合です。

・アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
・その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
・その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
・人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
・車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
・高速自動車国道において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行為
・赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
・通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

致傷の場合は15年以下の懲役、致死の場合は1年以上の有期懲役となります。

ケガが軽微な場合等では執行猶予がつくこともありますが、危険運転致死傷についてはかなりの割合で実刑判決が言い渡されます。

危険運転致死傷罪に該当するのはどのような場合か?

危険運転致死傷罪が適用されるのかどうかは判断が難しい場合が多いです。

多く問題となるのは、「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」にいう「正常な運転が困難な状態」かどうか、「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」に該当するかどうか、「赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」にいう「ことさらに無視」に該当するかどうかです。

アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為

「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」については、交通事故前後の異常な運転方法が判断材料となります(福井地裁令和6年4月16日判決、東京地裁令和5年10月20日判決)。

大阪地裁令和5年9月29日判決は、被告人のアルコールが呼気1リットル当たり0.363ミリグラムから0.994ミリグラムと推認された事案で、危険運転を認定しました。参照:アルコールによる危険運転致死傷罪を認定した裁判例

同事案では、

ⅰ 急制動や急転把を含む一切の回避措置をとることなく、路側帯付近を歩行中の被害者らに同車を衝突させたこと

ⅱ 衝突まで被害者らの隊列に気付いていなかったと推認されること

ⅲ 加えて、被告人が、運転開始からわか約2分で本件事故を起こし、これにより被告人車が大きく破損し、相当な衝撃を受けたと考えられるにもかかわらず、そのまま走り去っていること

等の事情を踏まえ、危険致死傷罪を認めました。

その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為

「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」については、以下のとおりの裁判例があります(なお、以下の裁判例の他に、大分地裁令和6年11月28日判決は、時速194㎞での走行の場合に危険運転を認定しているところです)。

危険運転を認めた裁判例

ⅰ 制限速度時速50㎞のところで時速106㎞で走行した場合について適用を認めた裁判例(水戸地裁令和6年5月24日判決)、

ⅱ 制限速度時速40㎞の箇所の交差点を時速70㎞で右折しようとした場合に適用を認めた裁判例(福岡地裁令和5年3月10日判決)、

ⅲ 制限速度50㎞の箇所で時速約140㎞で走行した場合に適用を認めた裁判例(京都地裁平成28年5月25日判決)、

ⅳ 制限速度60㎞の箇所で時速194・1㎞で走行した場合に適用を認めた裁判例(大分地裁令和6年11月28日判決)参照:危険運転致死罪についての大分地裁判決

危険運転を否定した裁判例

ⅰ 制限速度50㎞のところで時速80㎞で追い越そうとした場合に適用を否定した裁判例(千葉地裁平成28年1月21日判決)

ⅱ名古屋高裁令和3年2月12日判決は、時速60㎞の制限速度のところを時速146㎞で走行した場合について、,「被告人車両が車線変更をしたことはあっても,衝突に至るまでの間に自車の進路から逸脱したことは証明されていたとはいえない。」として、危険運転致死傷の成立を否定しました。参照:危険運転致死傷の成立を否定した裁判例

危険運転となるかどうかの判断基準

多くの裁判例において、危険運転となるかどうかは、速度と法定速度との乖離、道路状況、事故を起こしたときの運転操作等により判断されています。

一概に法定速度の何倍、何十㎞オーバーだから成立するとはされていません。

名古屋高裁や千葉地裁判決は速度だけではなく、事故に至る前に自車をコントロールできない状況になっていたことを示す事情があったかどうかも加味して判断をしています。

ただし、大分地裁令和6年11月28日判決は、「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」とは、「速度が速すぎるため、道路の状況に応じて進行することが困難な状態で自車を走行させることを意味し、具体的には、そのような速度での走行を続ければ、道路の状況や車両の構造・性能、貨物の積載の状況等の客観的事実に照らし、あるいは、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって自車を進路から逸脱させて事故を発生させる実質的危険性があると認められる速度で自車を走行させる行為をいい、この概念は、物理的に進路から逸脱することなく進行できない場合のみならず、操作ミスがなければ進路から逸脱することなく進行できる場合も含まれることを前提としていると解するのが相当である」としており、ある程度の高速度で運転した場合においては、事故前にコントロールができない状況になったかどうかを問わないとしているようです。

上記京都地裁判決も事故前にコントロールができない状況になったことを要件としていません。

よって、裁判所の見解が統一しているとは言えないでしょう。

後退運転と危険運転

前進で運転している場合より、後退で運転している場合の方が自動車の制御が難しく、より低速疎で危険運転とされる可能性があります。

熊本地裁令和7年5月27日判決は、後退で時速70~74㎞で走行したという事案において、危険運転を認定しています。参照:後進運転で危険運転を認定した裁判例

同判決は、「ハンドルの操作量がわずかであったにもかかわらず、被告人車両は別紙のとおり内側に大きく切れ込んで東側に進路を転じていることからすると、その原因はオーバーステアが生じたことによるものと合理的に認められ、このことは、被告人車両がハンドルの操作のわずかなミスによって、自車を進路から逸脱させて事故を発生させる実質的危険性がある速度であったことを基礎付けるものといえる。」として、後退で当該速度を出した場合に、自動車をコントロールできず事故に至る実質的危険があると判断したものです。

赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

「赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」にいう「ことさらに無視」したかどうかは、運転者・同乗者の供述調書やドライブレコーダーなどの記録などをベースに認定されることが多いです。

4 交通事故と犯罪被害者参加

犯罪被害者による刑事告訴

刑事手続の中で、被害者としては刑事告訴をすることができます。刑事告訴をすると被害感情が強いということになりますので、検察官としても他の事件より慎重に起訴不起訴を決める可能性があります。

不起訴の理由の告知

不起訴の理由としては、犯罪の証拠がない嫌疑なし、嫌疑がないわけではないけど起訴するだけの十分な証拠がない嫌疑不十分、証拠は十分あるけど事件の軽重などを踏まえて不起訴にする起訴猶予等があります。

これらの理由は被害者としての納得にも関わるでしょうし、後述の検察審査会への申し立てをするに当たって重要な情報です。

告訴をした犯罪被害者は検察官から起訴、不起訴について知らされますし、求めれば不起訴理由も教えてもらえます。

検察審査会への申し立て

不起訴になり納得がいかない場合には、被害者において、一般市民で構成される検察審査会に審査を申し出ることもできます。検察審査会の決定に基づき起訴がされることもあります。

検察審査会において不起訴相当の決議がなされると、犯罪被害者として刑事告訴の関係でなしうることはもうありません。

不起訴不当の場合、検察官が再度検討して、起訴することに期待をかけることになります。

起訴相当の決議がなされたのに、それでも検察官が不起訴とした場合、犯罪被害者は再度検察審査会に申し立てをすることができます。そこで再び起訴相当の決議がなされると、強制起訴の手続きとなり、検察官役の弁護士が刑事事件を進めていくことになります。

刑事裁判手続きにおける被害者参加

事件が起訴されると、被害者は被害者参加をすることができることがあります。

被害者参加をしたい被害者は検察官に申し出ることになります。

被害者は法廷で検察官の近くで手続きに参加することができます。

被害者は、検察官が行う証拠調べの請求や求刑などについて意見を求めたり、検察官に説明を求めたりすることができます。

被害者は、情状に関する証人に尋問を行ったり、被告人に質問を行うこともできます。

被害者は、事実や法律の適用について意見を述べることもできます。

被害者は、これらについて弁護士に依頼をすることもできます。

以上の他、傍聴の優先、損害賠償請求のための事件記録の閲覧・コピー、刑事事件を担当している裁判所に対する損害賠償命令の申し立て、加害者との示談内容を公判調書に記載してもらうこと(未払いの場合は差押が可能となる)等の被害者支援もあります。

5 被害者参加の費用の加害者への請求

近時、特に重大な被害をもたらした交通事故を中心に、被害者参加をする被害者や遺族が増えています。

被害者参加をするためには、旅費などとして一定の費用が発生する可能性があります(被害者参加人として心情等の意見陳述を行った場合には旅費や日当が法テラスから支払われる可能性がありますが、それで賄われないものが発生する可能性があります)。

しかし、裁判所は、基本的には、民事裁判において、それらの費用について交通事故と因果関係のある損害としては見ない傾向にあります。

被害者参加についての費用を損害賠償対象としなかった裁判例

例えば、東京地裁立川支部平成30年10月30日判決は、以下のとおり、被害者参加をするかどうかは被害者の意思で決めるものであるため、被害者参加に関連する費用は交通事故と因果関係を有しないとしました。

原告らは,被告に対する刑事裁判期日での意見陳述・傍聴のため,検察庁及び裁判所に出向いたこと,その交通費・宿泊費として40万1760円を支出したことが認められる。
しかし,被告の刑事裁判に被害者参加を行うことは,当該被害者の意思決定ないし意向により決するものであって,交通事故から通常生じるものであるとはいい難いから,上記費用を,本件事故と相当因果間関係のある損害と認めるには足りない。

公判傍聴のための費用を損害賠償の対象とした裁判例

他方、横浜地裁平成25年5月27日判決は、以下のとおり述べて、刑事事件の公判期日の傍聴のための費用を賠償の対象としています。

本件事故が死亡事故でありしかもひき逃げ事案であることを考慮すると,被告らに対する損害賠償請求の準備として被告Y1の公判期日を傍聴することも相当であると認められる。傍聴の回数は1回であり,そのための交通費の額も4万7200円であることに照らすと,上記交通費の支出と本件事故との間に相当因果関係があると認めるのが相当である。したがって,上記①及び②の合計10万6600円につき,本件事故による損害と認める。

同判決は、ⅰ 事件が重大性でひき逃げ事件でもあること(事実関係をきちんと認めない可能性がある)、ⅱ 傍聴の回数が1回であり、金額も大きくないことを理由として、傍聴のための費用を賠償の対象としていると考えられます。

このように、基本的には被害者参加のための費用の賠償は難しいのですが、例外的に認められる場合もあるので、注意が必要です。

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