デジタル社会形成整備法に伴う個人情報保護法「改正」で個人情報保護条例はどうなる? その1 総論

さいとうゆたか弁護士

1 デジタル社会形成整備法に伴う個人情報保護法「改正」で個人情報保護法はどうなる?

令和3年5月12日、デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案が国会で可決・成立し、19日に公布されました。
同法には地方自治体の個人情報保護条例に関する規定がありますが、それらは公布から2年以内の政令で定める日に施行されることになります。
同法の審議過程では、平井担当大臣が、同法施行により、従来の個人情報保護条例がリセットされるとの発言をしています。
個人情報保護委員会も、法施行後には、自治体が独自性のある条項を維持することができるのはかなり例外的な場合に限られるとの見解を示しています。
しかし、担当大臣や個人情報保護委員会の見解は、従来の判例等に照らすと誤りというしかありません。

従来の判例等に照らし、個人情報保護条例中、法律とは異なる規定の多くが有効であり続けると考えます。

以下、何回かに分けて解説していきます。

2 法律と上乗せ横出し条例の関係

法律と条例とが違う内容を定めている場合、それらの関係をどのように解するべきか、従来から議論がありました。
これは条例による上乗せ横出しの問題です。

この点については、徳島市公安条例事件についての最高裁昭和50年9月10日判決が以下のとおり判断を示しています。

ⅰ 普通地方公共団体の制定する条例が国の法令に違反する場合には効力を有しないことは明らかであるが、条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾牴触があるかどうかによつてこれを決しなければならない。

ⅱ 例えば、ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がない場合でも、当該法令全体からみて、右規定の欠如が特に当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは、これについて規律を設ける条例の規定は国の法令に違反することとなりうるし、逆に、特定事項についてこれを規律する国の法令と条例とが併存する場合でも、後者が前者とは別の目的に基づく規律を意図するものであり、その適用によつて前者の規定の意図する目的と効果をなんら阻害することがないときや、両者が同一の目的に出たものであつても、国の法令が必ずしもその規定によつて全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく、それぞれの普通地方公共団体において、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるときは、国の法令と条例との間にはなんらの矛盾牴触はなく、条例が国の法令に違反する問題は生じえないのである。

このように、判例によると、法律と条例の趣旨などを検討し、上乗せ条例・横出し条例が許されるかどうか検討すべきということになります。

改正法が個人情報の保護をもっぱらはかるものだとすると、条例によりその保護レベルを引き上げることは当然に許容されることになるでしょう。

しかし、改正後の個人情報保護法の目的(1条)は、個人情報の活用と個人の権利利益の保護をはかることを目的としています。

そうだとすると、条例による個人情報保護のレベルアップは、個人情報の活用を妨げるものとして、改正後個人情報保護法により許されないということになりそうです。

ここで注目すべきは、個人情報保護法は「個人情報の活用」という文言を用いていることです。

個人情報保護法が守ろうとする「個人情報の活用」や「個人の権利利益の保護」と抵触する個人情報保護条例の規定の効力は否定される可能性があります。

しかし、それ以外の目的や効果を有する個人情報保護条例の規定については、個人情報保護法がその存在を放置していると考えられます。

つまり、センシティブ情報の取得規制などの取得規制条項、死者の個人情報保護規定など、「個人情報の活用」と無関係な規定については、個人情報保護条例での上乗せ・横出し保護が認められることになります。

3 どのような規定が「個人情報の活用」の目的を阻害することになるのか?

上乗せ・横出しの観点で検討すべき論点のもう1つは、「個人情報の活用」に関する個人情報保護条例の規定に関し、自治体としての裁量が認められるかです。

この点、令和3・3・18 衆議院内閣委員会において、立法過程に関与した石井夏生利参考人は、「内閣官房での検討会の中で、地方公共団体の条例がどうなっているかということを非常に細かく調べまして、今回の法案の中では、おおむね地方公共団体の条例に規定されているものがカバーできるような形の標準的な共通ルールを設けている」としています。

つまり、これまで多くの個人情報保護条例で採用されてきたような条項については、実質的に存続させるのが個人情報保護法の趣旨と言えます。

ですから、「個人情報の活用」に関する個人情報保護条例の規定であっても、多くの自治体が採用してきたような条項については存続が許される、あるいは個人情報保護法の規定にあわせた個人情報保護法の改正をした場合でも従来の個人情報保護条例の規定の趣旨に沿った解釈がなされるということになります。

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