執筆者 新潟県弁護士会所属 弁護士齋藤裕(2019年新潟県弁護士会会長、2023年日弁連副会長)
目次(目次をクリックすると、記事に飛びます)
1 割増賃金・残業代の請求はお任せください
1 割増賃金・残業代の請求はお任せください
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一日8時間などの法定の労働時間を超えて労働をした場合には、時間外労働として25パーセントの割増賃金、休日労働については35パーセントの割増賃金、午後10時から午前5時までの深夜労働については25パーセントの割増賃金が発生します。
1ケ月60時間を超える時間外労働の割増賃金は50パーセントとなります
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2 さいとうゆたか法律事務所の弁護士費用
初回相談料は0円です。
交渉の着手金は5万5000円・報酬は得られたお金の11%ですが、証拠等がしっかりしている場合には着手金0円・報酬22%とすることができる場合があります。
訴訟の着手金は22万円、報酬は得られたお金の22%となります。
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3 割増賃金・残業代と時効

割増賃金は3年で時効となります。ですから早めに請求することが必要です。
時効が差し迫っているときは、とりあえず文書で請求をすると6ケ月時効の完成が延長されるので、その間に裁判などを提訴することになります。
4 割増賃金が生じない例外的場合
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割増賃金の請求に対し、使用者側が、当該労働者が管理監督者であったなどとして割増賃金が発生しないと主張することもあります。
しかし、単に管理職であるからといって割増賃金が発生しないことにはならず、管理職でも割増賃金が発生する場合が多くあります。
労基法上の管理監督者に該当するかどうかについては、
ⅰ 当該労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任,権限を付与されているか,
ⅱ 自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているか,
ⅲ 給与等に照らし管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がなされているか
という観点から判断されます。
管理職による残業代を認めた裁判例
例えば、スポーツ教室運営会社のマネージャーについて、東京地裁平成29年10月6日判決は,
ⅰ 支店内の特定の部門における責任者であり,アルバイトの人選や勤務シフトの決定に関して一定の
権限を有していたものの,支店長以上の権限を有するものではなく,労働時間の管理に関しても,支店長以上に裁量を有していたことをうかがわせる事情は何ら見当たらない
ⅱ 待遇についてみると,マネージャーの役職手当は月額5000円にすぎなかった上,マネージャーの中には,管理職であるSM職ではなく,管理職でないM職に位置づけられていた者もおり,職務内容や責任は同一であるにもかかわらず,後者に該当する場合には,給与規程所定の時間外労働手当及び休日労働手当の支給対象となる結果,SM職のマネージャーよりも月額給与額が高額となるという事態も生じていることからすれば,SM職のマネージャーについて,管理監督者としての地位や職責にふさわ
しい待遇がされていたとは到底いい難い。
として管理監督者性を否定しています。参照:管理監督者性を否定した裁判例
管理職による残業代請求を否定した裁判例
逆に管理監督者性を肯定した裁判例としては、岐阜地裁令和6年8月8日判決があります。
同判決は、買取店の店長の残業代請求についてのものです。参照:管理監督者性を肯定した裁判例
同判決は、
ⅰ 買取店における中心的な業務である買取業務に関し、一切の権限、すなわち、営業方法を決め、これに応じて店舗の従業員に対し指揮命令を行う権限、買取りを行うか否か及び適正な買取金額を決定する権限、顧客への代金の振込みを承認する権限並びに買い取った車の販売方法を決定する権限を有してていたこと、
ⅱ 勤務態様については、遅刻や早退による減給等の不利益はなく、状況に応じて自らの判断で直帰するなど労働時間に関する裁量を有していたこと、
ⅲ 人事の関係では、正社員の採用権限及び部下従業員の人事考課に関与する権限を有していたこと
から、管理監督者性を肯定しています。
管理職であるがために割増賃金をもらっていない方は是非ともご相談ください。
5 タクシー運転手の残業代についての最高裁判決
令和2年3月30日最高裁第一小法廷判決は、タクシー運転手の残業代についての判断を示しています。
この最高裁判決は、歩合給の計算にあたり、売上高の一定割合に相当する金額から割増金(残業手当)に相当する金額を控除することを定めるタクシー会社の賃金規則の効力について判断を示しました。
判決は、以下のとおりの判断を示しました。
「本件賃金規則の定める上記の仕組みは、その実質において、出来高払制の下で元来は歩合給(1)として支払うことが予定されている賃金を、時間外労働等がある場合には、その一部につき名目のみを割増金に置き換えて支払うものというべきである」
「そうすると、本件賃金規則における割増金は、その一部に時間外労働等に対する対価として支払われるものが含まれているとしても、通常の労働時間の賃金である歩合給(1)として支払われるべき部分を相当程度含んでいるものと解さざるを得ない。そして、割増金として支払われる賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかは明らかでないから、本件賃金規則における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することはできないこととなる」
「したがって、被上告人の上告人らに対する割増賃金の支払により、労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたということはできない」
また、割増金については、通常の労働時間の賃金として扱われ、割増賃金額計算の算定根拠に組み入れられることも示されました。参照:タクシー運転手の残業代についての判例
最高裁の立場では、割増賃金として取り扱われるのは、通常の労働時間の賃金と判別することができるものとされてきました。
そのため、今回の最高裁判決は、割増賃金が発生すると歩合給が減るというような、つまり割増賃金と歩合給との境界が不明確になるような場合には、全体として割増賃金の支払があったとはいえないとしたものであり、従来の最高裁の立場の延長にあるものと理解できます。
いずれにせよ、同様の賃金形態をとっているタクシー会社においては大きな影響を持つ最高裁判決といえます。
6 残業代を裏付ける証拠
業務の性質から労働時間を認定した裁判例
残業代の請求には、タイムカード、パソコンのログ、業務日誌などの残業時間を裏付ける証拠が必要です。
しかし、客観証拠がなくとも残業時間が認定されることがあります。
福岡地裁令和1年9月10日判決は、特別養護老人ホームの職員の残業代が争われた事件についての判決です。
この事案では、労働時間を裏付ける客観証拠に乏しく、労働者の供述を主な根拠として労働時間の認定がなされています。
同判決は、「原告がショートステイサービス部門在籍中、所定の終業時刻後にショートステイサービス部門に移動してきた併用者への対応を要したことは合理的に推認することができる。また、原告が各部門在勤中の業務として日々作成すべき書類等を日中の所定労働時間内に利用者のケアをしながら並行して作成することは、安全や衛生に相当の配慮をしつつ多数の利用者に順次対応するという介護業務の性質に照らし、困難であることも想定されるところであり、サービスの提供が終了した後にまとめて書類作成等の業務を行い、そのために上記主張程度の時間を要していたとの原告の供述は合理性がある」としています。
つまり、業務の性質や量等を裏付けとして、労働者の労働時間についての供述の信用性を肯定しているわけです。
津地裁令和5年3月23日判決も、浴場清掃にかかった時間の労働時間について、浴場の規模、清掃従事人数等も踏まえ労働時間を認定しています。
ですから、労働時間についての客観証拠がなくとも労働者主張の労働時間が肯定されることもありえます。
しかし、同判決も、「原告の残業時間に関する供述は、感覚的ないし印象的な側面が存するようにうかがわれ、さほどの業務量が存していたのかも十分には立証されているとはいえず、日によっては定時に帰宅することもあったと考えられることなどからすれば、その日々の残業時間は、原告が主張するよりも控えめに見ざるを得ない」としているところです。
やはりメモやGPS記録等の記録があるとないとでは全然違いますので、できるだけ残業時間については記録を取っておくべきです。
リモートワークと労働時間の認定
リモートワークでは、使用者が労働者の労働を直に現認できないため、労働時間をめぐる争いが発生しやすいと言えます。
東京地裁令和4年11月16日判決は、リモートワークでの労働時間について、労働者が作成し使用者に提出した労働時間についての資料(工数実績表)による労働時間の認定はできないとしました。
その理由は、
ⅰ 労働者が使用者の面前での指揮監督を受けることなく、自宅で勤務を行っていたこと
ⅱ 労働者が就業時間について一定の裁量をもって労働をしていたこと
ⅲ ログによればパソコンを操作していない時間が一定程度あり、主張される労働時間すべてについて労務を提供していたとするには疑義が残ること
とされています。
他方、使用者は、パソコンを操作していない時間は労働時間として認定できない、その分についての賃金を返還すべきと主張しましたが、労働者の職種がデザイナーであり、パソコンを操作しない作業もあること、労働者から毎月工数実績表の提供を受けていたのに異議も言わず賃金を払っていたことから、賃金の返還は認められないとしました。
このように、パソコンを操作していない時間について、労働時間とも言えないし、かといってその時間について払われた賃金の返還も請求できないという、極め中途半端な判断となっています。
使用者が労働時間を管理するという鉄則から考えると、使用者が工数実績表に異議を出さなかった以上、パソコンを操作していない時間についても労働時間として認めるべき事案だったかと思います。
7 使用者が労働時間を管理していなかった場合の取扱い
使用者が客観証拠によって労働時間を管理していなかった場合、労働者にとっては労働時間の立証が困難ということになります。
だから労働時間を認定しないということではなく、裁判所は、使用者が労働時間を管理していなかった場合、労働者の主張する労働時間に客観的根拠がなくとも認定する傾向にあります。
例えば、津地裁令和5年3月23日判決は、「実作業時間を具体的かつ、明確に認めるに足りる証拠はないが、これは、本件会社において、原告が就業規則上の「管理職」に該当するものと取り扱っていたことから、時間外労働を把握する必要と認めていなかったことに起因するとも考えられるから、およそ仮眠時間の労働時間性について立証ができていないとすることはできない」として、労働者の行うべき業務から労働時間を認定しているところです。
このように、使用者の怠慢により労働時間の認定が難しいケースでは、労働時間立証のハードルが下がります。
労働安全衛生法66条の8の3,労働安全衛生規則52条の7の3で使用者は労働時間を客観的に把握する義務を負います。
その義務を果たさなかった場合に、労働時間の立証の上で使用者が不利益を被るのはやむを得ないと言えるでしょう。
8 公務員と残業代
地方公務員法58条は、労基法の一定の条文は適用されないとしていますが、労基法32条(週40時間労働、1日8時間労働の規定)、37条(割増残業代についての規定)は適用除外していません。
よって、労基法32条、37条は地方公務員にも適用されます。
その場合に、何が労働時間に該当するかは、民間の労働者と同じ扱いとなります。
この点、千葉地裁令和7年10月16日判決は、地方公務員について、、以下のとおり述べ、労働から解放されていない時間について労働時間に該当するとしています。参照:地方公務員の労働時間についての裁判例
「原告は、所定の休憩をとることができず、当該時間においても業務を行わざるを得ず、所属長である甲課長もそのことを黙認していたものと認められる。また、夜間及び明け勤務において設けられている仮眠時間についても、警察等からの電話対応があった場合や一時保護要請があった場合等、突発的な事態が生じた場合に対応することが指示されていた上、実際に、仮眠時間中においても職員がこれらの対応を行うことがあったというのであるから、役務の提供が義務付けられており、労働からの解放が保障されていたとは認められない。」
「以上によれば、休憩時間及び仮眠時間はいずれも勤務時間に該当する。」
国家公務員については、一般職の給与に関する法律16条以下、人事院規則などで労基法と同様の規定が設けられています。参照:一般職の給与に関する法律
そのため、上記したところが基本的にはあてはまります。
9 休憩時間、仮眠時間と残業代
休憩時間、仮眠時間という名称の時間があっても、労働から解放されていない場合、賃金が発生しますし、それが時間外等であれば残業代が発生します。
千葉地裁令和7年3月26日判決は、児童相談所職員に関し、
ⅰ 休憩については、「原告は、所定の休憩をとることができず、当該時間においても業務を行わざるを得ず、所属長である甲課長もそのことを黙認していたものと認められる。」
ⅱ 仮眠時間について、「夜間及び明け勤務において設けられている仮眠時間についても、警察等からの電話対応があった場合や一時保護要請があった場合等、突発的な事態が生じた場合に対応することが指示されていた上、実際に、仮眠時間中においても職員がこれらの対応を行うことがあったというのであるから、役務の提供が義務付けられており、労働からの解放が保障されていたとは認められない。」
として、労働時間と認め、それに伴い割増賃金の支払いを命じているところです。参照:休憩時間・仮眠時間と残業代についての裁判例
10 固定残業代
固定残業代は、予め定額の残業代を定めておき、それとは別途残業時間に応じた残業代を払わないものです。
この固定残業代については、実質は基本給などと同質のものであり、これを払っても残業代支払い義務を果たしたことにはならないのではないか、問題とされることが多くあります。
固定残業代については、これまで最高裁を含め、多くの司法判断がされてきました。
以下、概要をご紹介します。
目次
1 固定残業代と明確区分性
2 残業代を精算する仕組み・時間外手当がきっちり精算されていることの要否
1 固定残業代と明確区分性
目次
固定残業代と最高裁判決
固定残業代と最高裁判決
最高裁平成29年7月7日判決は、以下のとおり述べ、固定残業代が残業代として認められるためには、通常の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが要件だとしています。参照:固定残業代についての平成29年最高裁判決
具体的には、同判決は、「上告人と被上告人との間においては,本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金を年俸1700万円に含める旨の本件合意がされていたものの,このうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったというのである。そうすると,本件合意によっては,上告人に支払われた賃金のうち時間外労働等に対する割増賃金として支払われた金額を確定することすらできないのであり,上告人に支払われた年俸について,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。」として、固定残業代を残業代として扱うことはできないとしています。
最高裁令和5年3月10日判決は、旧給与体系の下においては通常の労働時間の賃金に当たる基本歩合給として支払われていた賃金の一部につき、名目のみを本件割増賃金に置き換えて支払うことを内容とする賃金体系であるとの認定を前提に、「本件割増賃金は、その一部に時間外労働等に対する対価として支払われているものを含むとしても、通常の労働時間の賃金として支払われるべき部分をも相当程度含んでいるものと解さざるを得ない。」として、固定残業代の支払いにより残業代が支払われたものとみることはできないとしました。参照:固定残業代についての令和5年最高裁判決
固定残業代と下級審判決
東京地裁平成30年10月24日判決は、「職務手当」が固定残業代に該当すると主張された事件において、異なる職種間における職務手当の差異があったところ、これが時間外労働等の時間数の差異に基づき設定されたことを窺わせる形跡もなく、職種の違いに応じて設定されたとみるほかないとしました。その上で、「職務手当には,通常労働時間に対する賃金を補填する趣旨が含まれていたとみるほかないところ,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金の部分との区分が明確になされているとはいえないから,職務手当の支給をもって割増賃金の支払とみることはできない。」として、「職務手当」が固定残業代に該当することを否定しました。
東京地裁平成30年3月16日判決は、
・他の名目で支給されていた手当が廃止され、固定残業代名目となったこと
・固定残業代と対応する残業時間算出の根拠が不明であること
・残業以外の要素で金額が変動するものであること
等として、固定残業代について,通常の労働時間の賃金に当たる部分とみなし残業代に当たる部分とを判別することができるとはいえない、としました。
東京地裁令和4年1月18日判決は、運転手の運行時間外手当が残業代と言えるかについて判断していますが、
・特殊な免許を持っている運転手なのに、基本給が最低賃金に近い
・運行時間外手当を残業代と解すると、1月あたり100時間もの時間外労働を想定することになる
・基本給の増額に伴い、運行時間外手当が減額されたことがある
との事情から、運行時間外手当には基本給に相当するものが含まれており、その部分と時間外手当の部分を区分できないとして、判別可能性がないとしました。
福岡地裁令和6年4月24日判決は、出張日当について、
・残業時間の有無や長短に関係なく一定金額が支払われるものとされていたこと
・残業手当の支給対象ではない役職者にも支給されること
・出張日当が固定残業代であることについて使用者が説明し、労働者がそれに同意していたとは言えないこと
をふまえ、対価性も、明確区分性もないとして、残業代であることを否認しました。参照:固定残業代についての福岡地裁判決
判例・裁判例が固定残業代について示す基準
このように、
ⅰ ある手当について、それが残業時間数に応じて設定されているのか、その他の趣旨のためにも設定されているのか(従来、残業代以外の名目で設定されていた手当が固定残業代にスライドした場合、その他の趣旨のために設定されているものとみなされる可能性がある。固定残業代算定の基準が不明な場合、残業以外の要素で固定残業代が増減する場合も、その他の趣旨のために設定しているものと疑われる)
ⅱ その他の趣旨のためにも設定されているとしたら、その他の趣旨のための部分と残業時間数に応じて設定された部分を明確区分できるのか
が問われることになります。
ある手当が残業時間数に対応する以外の趣旨を持っていて、しかも、残業時間数に対応する部分をその他の部分と明確に区別できない場合、その手当を残業代として扱うことはできません。
2 残業代を精算する仕組み・時間外手当がきっちり精算されていることの要否
最高裁平成30年7月19日判決は、固定残業代として認められるために、残業代を精算する仕組みを要するかどうかについて判断を示しています。参照:固定残業代についての最高裁平成30年判決
もともと、この事件について、東京高等裁判所は、「いわゆる定額残業代の支払を法定の時間外手当の全部又は一部の支払とみなすことができるのは、定額残業代を上回る金額の時間外手当が法律上発生した場合にその事実を労働者が認識して直ちに支払を請求することができる仕組み(発生していない場合にはそのことを労働者が認識することができる仕組み)が備わっており、これらの仕組みが雇用主により誠実に実行されているほか、基本給と定額残業代の金額のバランスが適切であり、その他法定の時間外手当の不払や長時間労働による健康状態の悪化など労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がない場合に限られる」として、ⅰ 固定残業代では残業代に満たない場合に清算する仕組み、ⅱ 基本給と定額残業代のバランスの適切さ、ⅲ 時間外手当の不払いなど、固定残業代が労働者の福祉を害する温床となっていないことを固定残業代が残業代として認められる要件としていました。
これに対し、最高裁は、固定残業代が残業代として認められるために東京高裁が示す要件が満たされることは必須ではないと判断しています。
その上で、「雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価して支払われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況等の事情を考慮して判断すべきである」としています。
具体的には、当該事案において、固定残業代が残業代であることの説明がなされていたこと、固定残業代が実際の残業時間と齟齬していないことなどを踏まえ、固定残業代を残業代の支払いとみなしうるとしました。
ですから、最高裁は、固定残業代では残業代に満たない場合に清算する仕組みがなくとも固定残業代は残業代として認めらるとしました。
しかし、「労働者の実際の労働時間等の勤務状況等の事情」を考慮するとしており、かつ、当該事案においては固定残業代が実際の残業時間と齟齬していないことを固定残業代を残業代として認める理由としていることから、固定残業代と実際の残業時間の齟齬については、最高裁判決を踏まえても固定残業代の残業代性を否定する大きな武器になる可能性があります。
つまり、残業代を精算する制度がない場合でも、固定残業代と本来払うべき残業代の齟齬が大きい場合(特にそれが精算されてこなかった場合)、固定残業代が残業代としての性質を否定される余地は残っていると考えます。
11 労働時間はいつからいつまで?
1 労働時間はいつからいつまで?
1 労働時間はいつからいつまで?
賃金支払いなどの前提となる「労働時間」とは「使用者の指揮命令下におかれている時間」です。
労働時間開始については、引継ぎ、機械点検、整理整頓、義務的に行われる朝礼や着替えは労働時間に入ります。
着替え時間については、横浜地裁令和2年6月25日判決が、「被告会社においては、制服を着用することが義務付けられ、朝礼の前に着替えを済ませることになっていたところ、その時間及び朝礼の時間以降は、被告会社の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、これに要する時間は、それが社会通念上相当と認められる限り、労働基準法上の労働時間に該当する」としているところです。
神戸地裁令和5年12月22日判決も、「従業員らは、被告から、制服を着用するよう義務付けられ、かつ、その更衣を事業所である各郵便局内の更衣室において行うものと義務付けられていたのであるから、制服の更衣に係る行為は、被告の指揮監督命令下に置かれたものと評価することができる。したがって、更衣に要する時間は、労働時間に該当すると認めるのが相当である。」としています。
他方、労働者が朝早く集合したとしても、すぐに何らかの作業をするのではない場合には、作業開始の時点から労働時間が認められます(大阪地裁令和6年11月21日判決)。
作業と作業の間の手待ち時間も労働時間に入るとされます(菅野和夫他著「労働法 第13版」420頁)。
労働時間終了については、後始末などは労働時間に入ります。
通常、休憩時間は労働時間から除かれます。しかし、事業所内で必要に応じて対応しなければならない時間は、休憩や仮眠時間とされていても労働時間に該当する可能性があります。
2 待機時間・仮眠時間と労働時間
待機時間・仮眠時間が労働時間に該当するかどうかについては多くの裁判例が出ています。
最高裁平成14年2月28日判決(大星管理ビル事件)は、「不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして,当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には,労働からの解放が保障されているとはいえず,労働者は使用者の指揮命令下に置かれている」としました。
その上で、当該事案に即して検討し、「仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられているのであり,実作業への従事がその必要が生じた場合に限られるとしても,その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情も存しない」として、仮眠時間を労働時間としました。参照:仮眠時間を労働時間とみなした判例
ホテルの設備管理業務に従事していた労働者の仮眠時間が労働時間に該当するかについて、東京地裁令和1年7月24日判決も、最高裁判決を踏まえ、仮眠時間の労働時間性について、「不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労働基準法上の労働時間に当たり,当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には,労働からの解放が保障されているとはいえず,労働者は使用者の指揮命令下に置かれている」との基準を再確認しました。
その上で、労働者の仮眠時間について、「中央監視室には,設備管理モニターが3台設置され,仮眠時間中でも設備に異常が発生すれば,警報音が鳴る仕組みになっていたこと等の点を含む仮眠室の状況,クレーム表や日報からうかがわれるBシフト勤務担当者の実作業の状況や頻度等に照らせば,原告らは被告と本件ホテルとの間の業務委託契約に基づぎ,被告従業員として,本件ホテルに対し,労働契約上,役務を提供することが義務付けられており,使用者である被告の指揮命令下に置かれていたものと評価するのが相当である。」として、仮眠時間の労働時間性を認めています。
このように、待機時間・仮眠時間において事があれば対応することになっていたかどうか、実際に対応した頻度がそれなりにあるかどうかにより労働時間性が判断されてきています。
3 会社の命令がないと労働時間じゃない?
労働時間は、使用者の指揮命令下におかれている時間ですが、この指揮命令は明示のものだけではなく、黙示のものも含みます。
例えば、会社が20時間を要する仕事を1日で労働者するよう指示した場合、仮に会社が9時から18時までで仕事を終わらせるように指示していたとしても、それでは仕事は終わらず、残業しなければならないことは明白です。このような場合には、18時以降の仕事について、会社からの明示的な指示がなかったとしても、黙示の指示があるものとして労働時間に含まれる可能性があります。
また、始業前から終業時刻後まで多くの職員が勤務しているのが特殊でない状況において時間外勤務していた場合については、黙示の指示があるとして労働時間性が認められる可能性があります(大阪高裁平成13年6月28日判決)。
なお、裁判例などでは、残業禁止をしている場合については、仮に残業が必要な仕事を任されていたとしても、残業分は労働時間に該当しないとするものもあります。
しかし、残業をしない場合に不利益処分が想定などされる場合、残業をしないとこなしきれない業務を割り振られているような場合においては、残業禁止があったとしても、残業については黙示の指示があり、残業時間に該当すると解するべきです(東京地裁平成30年3月28日判決)。
また、残業禁止が職場で遵守されず、形骸化していた場合にも、残業禁止に反して就労した時間は労働時間とみなされます(京都地裁令和4年5月11日判決)。
参照:使用者の指示のもとにある時間を労働事件とする厚労省解釈
4 研修などは労働時間となるか?
出席しないと不利益が課されるような場合、研修を受けないと業務を適切に遂行することが困難な場合等については、研修時間についても労働時間とされる可能性があります。
親会社が行う研修への参加について、
・勤務先店舗で販売される商品の説明が主なものであったこと、
・受講料は会社負担で、会社の本社等が会場であったこと
・宿泊先も会社が指定していたこと
・上司において、受講が昇進の条件であると言っていたこと
・上司が受講に合わせてシフトを変更していたこと
等の事情から、研修への参加時間は労働時間にあたるとした裁判例(長崎地裁令和3年2月26日判決)もあります。
他方、大阪高裁平成22年11月19日判決は、WEB学習のための研修時間を労働時間ではないとしています。
同判決は、会社において従業員に対してWEB学習等によるスキルアップを推奨していたこと、上司らもWEB学習終了程度のBレベル資格以上を取得するよう明示的に求めていたこと,WEB学習の状況が社内のシステムで把握されていたことを認めつつ、
・WEB学習は,パソコンを操作してその作業をすること自体が,会社が利潤を得るための業務ではないこと
・その成果を測るためには,技能試験等を行うしかないものの、会社において,そのような試験が行われているわけでもないこと
などを踏まえ、研修時間は労働時間ではないとしたものです。
しかし、会社側が複数回にわたり研修を推奨していたという事案を踏まえて、結論には争いがありうると考えます。
5 職場外の活動と労働時間
所定労働時間外に施設外で行われる運動会、接待などへの参加も義務的なものであれば労働時間に該当する可能性があります。
明示の指示のない持ち帰り残業についても、持ち帰らないと仕事が終わらないような場合等には、黙示の指示があったものとして労働時間として扱われ得ます。
仙台高裁令和3年12月2日判決は、さくらんぼ生産法人の従業員が、職場外で行われた決起大会での腕相撲でケガをしたという事案について、労災に該当することを認めました。
同判決は、
・決起大会は、さくらんぼ収穫期に向け労働者の意識を高めるというも事業の根幹にかかわる目的で従業員全員参加の下に事業主により毎年開催されていたこと
・そば処の座敷での酒食の提供を伴う決起大会の場で恒例行事として全員参加で腕相撲が行われており、決起大会と腕相撲が一体不可分であったこと
・従業員わずか8名の会社の社長が、初めて決起大会に参加した新人である従業員に直接指示して腕相撲に参加させたこと
などを踏まえ、腕相撲は業務遂行行為に当たるとしました。
このように、職場外行為の目的、全員参加かどうか、恒例行事か、場所等について業務との近接性があるかどうか、具体的な指示があったかどうか、それを拒絶することが容易であったかどうか等を踏まえ、職場外活動が労働時間かどうかが判断されると考えられます。
6 移動時間、出張は労働時間になるのか?
通勤時間は通常は労働時間には該当しません。
出張に伴う移動時間についてはケースバイケースの判断になります。
公共交通機関を利用しての出張の場合について労働時間性を否定した裁判例があります(横浜地裁川崎支部昭和49年1月26日判決。参照:公共交通機関を利用しての出張について労働時間性を認めた裁判例)。
この点、公共交通機関を利用した場合でも、その時間を自由利用できない場合には労働時間に該当するとの見解もあります(水町勇一郎「詳解労働法第2版」671頁)。
つまり、電車等の中でずっと仕事をしていた場合には、その移動時間は労働時間となるでしょう。
しかし、移動時間に占める労働の時間が短い場合には、移動時間全体が労働時間となるということはありません。
福岡地裁令和6年7月5日判決は、新幹線での移動時間中に端末を操作して仕事をしていたとしても、それがごく短時間であることから、移動時間を労働時間とは認めませんでした。
他方、労働者が自動車を運転して移動した場合には労働時間に該当するとした裁判例があります(大阪地裁平成22年10月14日判決)。
職場間の移動時間については、その時間を自由利用できない場合には労働時間に該当するとの見解があります(水町勇一郎「詳解労働法第2版」671頁)。
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