労働者の解雇はどのような場合に無効となるか、解雇の手続き、解雇の争い方

労災、解雇問題

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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目次

1 解雇ができないと法律に明記されている場合

2 合理性相当性のない解雇の効力

3 就業規則に根拠のない解雇の効力

4 公益通報を理由とする解雇の効力

5 解雇手続き

6 解雇された場合の争い方

7   解雇と損害賠償

8   解雇と失業手当・社会保険

9   新潟で解雇のお悩みは弁護士齋藤裕へ

1 解雇ができないと法律に明記されている場合

法律で解雇が禁止されている場合、当然解雇の効力は否定されます。

労働者が業務上負傷等して休業している期間及びその後30日間、使用者は原則として労働者を解雇することができません(労働基準法19条1項)。

また、国籍・信条・社会的身分を理由とする解雇(労基法3条)、組合員であることを理由とする解雇(労組法7条)、性別を理由とした解雇(男女雇用機会均等法6条)等も禁止されます。

女性の婚姻・妊娠・出産・産前産後休業等を理由とする解雇(男女雇用機会均等法9条)も許されません。

公益通報を理由とする解雇無効については後述します。

2 合理性相当性のない解雇の効力

1で解雇ができない場合とされていない場合でも、期限の定めのない労働契約について解雇をする場合、客観的に合理的な理由があり、かつ、解雇が社会的に相当でなければ解雇は無効とされます。

典型例は、能力不足、勤務の不良、職場規律違反です。

例えば、ラジオ局の局員が、2回遅刻のため放送事故を起こしたような場合でも解雇は無効とされています。

ですから、解雇が有効とされるのはよほどの事情がある場合といえます。実際になされている解雇のうち多くは無効な解雇ではないかと思います。

労働者に責任がないのに経営悪化などの理由でなされる解雇を整理解雇といいます。労働者に責任がないため、解雇の効力は、経営上の必要性、人員削減の必要性、被解雇者選定の合理性、協議等の相当性を踏まえ、慎重に判断されます(例:東京地裁令和5年5月29日判決)。参照:整理解雇の4要素を考慮して解雇の有効性を判断した判決

3 就業規則に根拠のない解雇の効力

就業規則がある会社では、通常、解雇事由が就業規則で定められています。

そのような場合には、就業規則に記載のない理由での解雇が認められないのかどうか問題となります。

解雇事由が就業規則の必要的記載事項であることから、就業規則に記載のない理由での解雇は許されないとする見解もありますが、反対説もあります。

いずれにしても、就業規則の解雇理由については、「その他前各号に掲げる事由に準ずる重大な事由」等の包括的規定が設けられているのが通常です。

ですから、就業規則に解雇理由がないために解雇が無効とされるケースはそれほどないとも考えられます。

4 公益通報を理由とする解雇の効力

公益通報者保護法は、以下のとおり定めており、公益通報を理由とした解雇を無効としています。参照:公益通報者保護法

第三条 労働者である公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に定める事業者(当該労働者を自ら使用するものに限る。第九条において同じ。)が行った解雇は、無効とする。

実際に、使用者は、本音では公益通報を理由とする解雇であっても、表向きは合理的理由がある解雇であると装うことになります。

そのため、2025年6月4日に成立した改正公益通報者保護法3条3項は、以下のとおり定めて、公益通報から1年以内の解雇については公益通報理由の解雇と推定され、無効とされることにしました。

「3 公益通報者に対する解雇等特定不利益取扱いが第一項各号に定める公益通報をした日(前条第一項第一号に定める事業者が第一項第二号又は第三号に定める公益通報がされたことを知って当該解雇等特定不利益取扱いをした場合にあっては、当該事業者が当該公益通報を知った日)から一年以内にされたときは、前項の規定の適用については、当該解雇等特定不利益取扱いは、当該公益通報をしたことを理由としてされたものと推定する。」

この改正により公益通報保護法による解雇を無効としやすくなると期待されます。

5 解雇手続きと解雇の効力

予告義務違反の解雇の効力

労基法20条で、解雇については、予告手当を払わないのであれば30日間の予告期間を置くこととされています。

このような予告期間を置かない解雇については、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、解雇通知後30日経過時点あるいは予告手当を払った時点で解雇が有効となるとされます。参照:予告義務に反した解雇の効力についての判例

労働協約・就業規則に定める手続き違反の解雇の効力

労働協約や就業規則において、解雇にあたっては一定の手続きを取ることが求められる場合があります。

そのような場合、労働協約や就業規則の規定は労働契約の内容となり、所定の手続きをとらない解雇については効力が否定されることがあると解するべきでしょう。

6 解雇された場合の争い方

解雇が無効となると、労働者は解雇後の賃金を失わないことになります。ですから、解雇が無効で、その効力を争いたい場合には、交渉、団交、労働審判、訴訟などにより、地位の確認と未払い賃金の支払いを求めることになります。参照:労働審判手続きについての裁判所のサイト

交渉で職場復帰まで実現することは難しいでしょうが、金と時間をかけたくない場合には交渉は適しています。

仮処分は、当面の賃金を確保したい場合に適しています。

労働審判は2から3ケ月程度で結論が出ますが、これも労使双方が合意しないと最終的な解決までは行きにくいので、ある程度の水準の解決で我慢はできるが早めに解決したいという場合に適しています。

訴訟はできる限り良い解決水準で解決したい場合に適しています。

解雇後、長らく争わないで、2年以上経過した後に解雇を争うような場合、解雇を争う訴訟が信義則に反し許されないとされることもありえます。

ですから、納得できない解雇がなされた場合には速やかに弁護士に相談し、対応をしましょう。

7 解雇と損害賠償

無効な解雇がなされた場合、裁判で解雇無効が認められれば、解雇されなかった場合には得られたであろう賃金の支払いが命じられます。

ですから、解雇により被った損害は基本的にはそれで填補され、さらに解雇について損害賠償請求までは認められないのが一般的です。

しかし、損害が大きい場合、解雇の違法性の度合いが大きい場合、解雇について損害賠償請求が認められることもあります。

不当労働行為に該当する解雇の損害賠償を認めた裁判例

函館地裁令和5年10月24日判決は、不当労働行為に該当する解雇について、50万円の慰謝料を認めました。同判決は、札幌高裁令和6年4月19日判決によって維持されています。参照:解雇について損害賠償を認めた裁判例

差別的な内定取り消しについて損害賠償を認めた裁判例

内定取り消しに関するものですが、HIV感染者についての内定取り消しについて不法行為を認めたものとして札幌地裁令和1年9月17日判決があります。参照:HIV感染者の内定取り消しについて損害賠償を認めた裁判例

なお、解雇が有効である場合、損害賠償は原則認められません。

しかし、解雇が有効であるとしても、障害者のような配慮が特に必要な人々が解雇される場合について、損害賠償が認められることもあります。

有効な解雇について損害賠償を認めた裁判例

札幌地裁令和1年10月3日判決は、就労継続支援A型事業における解雇を有効としつつ、「被告は、就労継続支援A型の事業を行う者として,当然に利用者の上記特性を把握していたのであるから,各利用者の体調が悪化することのないように障害の特性に応じた配慮を行う義務を利用者に対し負っていたというべきである。」としました。

その上で、使用者において、「各利用者が本件解雇の経緯や再就労先などについて十分な理解ができるように,丁寧な説明や質疑応答を行う場や機会を個別に設けることが可能であった。」のにしなかったとして、使用者が「各利用者の体調が悪化することのないよう障害の特性に応じた配慮を行う義務を怠った」として損害賠償を命じました。参照:解雇が有効な場合に損害賠償を認めた裁判例

8 解雇と失業手当・社会保険

解雇と失業手当の処理

解雇をされた場合、失業手当の給付を受けることがありえます。

解雇を争っているとしても、仮給付として失業手当を受給することがありえます。

仮給付として手続きした場合、通常の場合と異なり、求職を求められることがありません。

仮給付で失業手当を受け取り、その後に使用者からお金をもらった場合、

ⅰ 解雇日=退職日として解決し、慰謝料等の名目でお金を受け取ったのであれば、それを職安に返す必要はありませんが、

ⅱ 解決日=退職日として、退職日までの賃金としてお金を受け取った場合、職安に失業手当を返還する必要がありますので、使用者から払われるお金の名目や退職日についても細心の注意が必要です。

解雇と社会保険の処理

解雇されると従来の社会保険からは抜けることになります。

健康保険については、新たに別の会社で社会保険に入るのでなければ、国民健康保険に入る、従来の健康保険を任意継続するのどちらかを選ぶことになります。

解雇を争っていて、解雇無効との結果となった場合、健康保険も厚生年金も、解雇日以降の保険料を使用者・労働者とも納めることになります。

国民健康保険に入っていた場合、労働者において役場から払い戻しを受け、それを健康保険料に充てるということになるでしょう。

9 新潟で解雇のお悩みは弁護士齋藤裕へ

新型コロナによる解雇についての記事

経歴詐称と解雇についての記事

学部廃止と大学教員の解雇についての記事

勤務日数削減と賃金

コロナ破綻についての記事

能力不足と解雇

もご参照ください。

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