正規労働者と非正規労働者との間の賃金等差別(最高裁判決解説)

さいとうゆたか弁護士

執筆者 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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正規労働者、非正規労働者の賃金差別について、最高裁は複数の判決を出しています。

以下、ご説明します。

目次

1 非正規労働者の時間外賃金等の差別についての2つの最高裁判決

2 2020年10月13日 非正規職員の退職金についての最高裁判決

3 非正規職員に対する賞与不支給についての最高裁判決

4 非正規労働者の扶養手当等差別についての最高裁判決

1 非正規労働者の時間外賃金等の差別についての2つの最高裁判決

最高裁は、平成30年6月1日、正規労働者と非正規労働者の差別に関して2つの判決を言い渡しました。

1つは、定年退職後の有期労働者についての判決です。

最高裁は、これらの労働者が老齢厚生年金を受給することも予定されているなどの事情も含め労働契約法20条にいう不合理な労働条件の相違といえるか判断をすべきだとします。その上で精勤手当、時間外手当の計算方法に関してのみ不合理な労働条件の相違があるとし、損害賠償請求の対象となるとしました。しかし、能率給・職務給、住宅手当・家族手当、役付手当、賞与については不合理な労働条件の相違はないとしました。

もう1つは、定年退職後ではない有期労働者についての判決です。

皆勤手当、無事故手当、作業手当・給食手当・通勤手当については不合理な労働条件の相違があるとし損害賠償の対象となるとしつつ、住宅手当については不合理な労働条件の相違はないとしました。

皆勤手当については、以下のような判断をしています。

「上告人においては,正社員である乗務員に対してのみ,所定の皆勤手当を支給することとされている。この皆勤手当は,上告人が運送業務を円滑に進めるには実際に出勤するトラック運転手を一定数確保する必要があることから,皆勤を奨励する趣旨で支給されるものであると解されるところ,上告人の乗務員については,契約社員と正社員の職務の内容は異ならないから,出勤する者を確保することの必要性については,職務の内容によって両者の間に差異が生ずるものではない。また,上記の必要性は,当該労働者が将来転勤や出向をする可能性や,上告人の中核を担う人材として登用される可能性の有無といった事情により異なるとはいえない。そして,本件労働契約及び本件契約社員就業規則によれば,契約社員については,上告人の業績と本人の勤務成績を考慮して昇給することがあるとされているが,昇給しないことが原則である上,皆勤の事実を考慮して昇給が行われたとの事情もうかがわれない。」

両判決は必ずしもすべて同一の手当について判断しているわけではありませんが、定年退職後の判決の方が不合理性を認める範囲が狭いとは言えるでしょう。

参照:非正規労働者の賃金差別について判断した最高裁判決

いずれにしても、両最高裁判決により正社員と非正規社員の差別が違法となる職場は多いと思います。差別を感じている労働者の方は当事務所にご相談ください。

2 2020年10月13日 非正規職員の退職金についての最高裁判決(089768_hanrei.pdf (courts.go.jp)

2020年10月13日、最高裁判所は、非正規社員に対する退職金不支給の違法性が問題となったメトロコマース事件について、退職金不支給が合法との判断を示しました。

2020年10月13日、最高裁判所原審の東京高裁平成31年2月20日判決(088627_hanrei.pdf (courts.go.jp))は、退職金不支給を違法としていました。

その理由としては、

・正社員は,販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当していたほか,複数の売店を統括し,売上向上のための指導,改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理,商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し,契約社員は,売店業務に専従していたものであり,両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できないこと。

・売店業務に従事する正社員については,業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり,正当な理由なく,これを拒否することはできなかったのに対し,契約社員は,業務の場所の変更を命ぜられることはあっても,業務の内容に変更はなく,配置転換等を命ぜられることはなかったものであり,両者の職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「変更の範囲」という。)にも一定の相違があったこと

・契約社員を正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け,相当数の契約社員をそれぞれ正社員に登用していたこと

があげられています。

しかし、正社員の退職金は、売店の統括やサポートやトラブル処理だけに対応するものとは思われませんし、契約社員について全く退職金を支給しないことを正当化する根拠は十分ではないように思われます。

最高裁判決が、少しでも格差の是正をしようとしてきた下級審の姿勢に冷や水をかけるものであったことは否定できません。

いずれにせよ、最高裁判決は、あくまで、正社員と契約社員の間に業務等の違いがある事例についての判決でしかないことは留意されるべきでしょう。

正社員と契約社員がほぼ同じ業務に従事しており、双方とも配転もないような場合には、契約社員のみ退職金を支払わない扱いは最高裁判決を前提としても不合理な差別とされる可能性はある言うべきでしょう(最高裁判決自体も、ケースによっては退職金不支給が違法となるとの指摘はしているようです)。

3 非正規職員に対する賞与不支給についての最高裁判決

2020年10月13日、最高裁(089767_hanrei.pdf (courts.go.jp))は、アルバイト職員に対する賞与・ボーナス不払いを違法とした大阪高裁平成31年2月15日判決を破棄し、ボーナス不払いは適法としました。

同判決は、

・正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,正職員に対して賞与を支給することとしたものといえること

・正規非正規職員の業務の内容は共通する部分はあるものの,非正規労働者の業務は,相当に軽易であることがうかがわれ,両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できないこと

・正職員については,正職員就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があったのに対し,アルバイト職員については,原則として業務命令によって配置転換されることはなく,人事異動は例外的かつ個別的な事情により行われていたものであり,両者の職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の相違があったことも否定できないこと

・非正規職員については正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたこと
・正職員の約80%に相当する賞与が支給されていたこと

を理由としてあげています。

この判決の是非については議論はあるでしょうが、あくまで各事業所におけるボーナスの性質について高裁と最高裁とで判断が分かれたということに注意が必要です。
アルバイトと正社員とが同質的な業務に従事しているような職場には最高裁判決は妥当しないでしょう。

今後は最高裁判決の正しい射程を見極め、アルバイト職員の労働条件向上をはかっていく必要があります。

4 非正規職員の扶養手当等差別についての最高裁判決

2020年10月15日、最高裁は、日本郵便において、非正規従業員に扶養手当、年末年始勤務手当、夏季・冬季休暇、有給の病気休暇、年始期間の祝日休が支給等されないことについて、不合理な格差に該当するとの判断を言い渡しました。

原判決の一つである東京高裁平成30年12月13日判決は、夏季冬季休暇については、「夏期冬期休暇の趣旨は,内容の違いはあれ,一般的に広く採用されている制度を第1審被告においても採用したものと解される。したがって,第1審被告の従業員のうち正社員に対して上記の夏期冬期休暇を付与する一方で,時給制契約社員に対してこれを付与しないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものであるから,労契法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。」として、一般的に広く採用されている制度を導入したものについて正社員と非正規社員とを区別することは相当ではないとしていました。

また、同判決は、病気休暇について、「労働者の健康保持のため,私傷病により勤務できなくなった場合に,療養に専念させるための制度」ととらえた上で、「正社員に対し私傷病の場合は有給(一定期間を超える期間については,基本給の月額及び調整手当を半減して支給)とし,時給制契約社員に対し私傷病の場合も無給としている労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものであるから,労契法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。」と判断していました。

非正規社員については療養に専念させる必要性がないとは言えないでしょうから、やはり病気休暇制度について正社員と非正規社員とを区別する合理性は乏しいと思われます。

東京高裁は、このように各手当の趣旨を把握した上で、その趣旨から各手当について正規社員と非正規社員の区別が許されないかどうかを判断し、非正規社員に各手当を支払わないことを不合理で違法だと判断していました。

最高裁がこの東京高裁判決等を維持したことの意味合いは大きいと言えます。

退職金やボーナスも含め、各手当の趣旨と勤務実態等からして非正規社員に手当を払わないことが正当化されない場合には非正規社員への手当不支給が違法となることが一層明確化されました。

今後は最高裁判決(089772_hanrei.pdf (courts.go.jp))をもとに、非正規に対する差別を解消する動きを進展させるべきでしょう。

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