執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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目次
1 スノーボードによる事故と損害賠償
1 スノーボードによる事故と損害賠償
スノーボードによる事故は死亡も含む重大な結果を招くことがあります。
以下、スノーボード事故についての裁判例をご紹介します。
スノーボードで下方を注視すべき義務について判断した、さいたま地裁熊谷支部判決
さいたま地方裁判所熊谷支部平成30年2月5日判決は、このスノーボード事故について損害賠償を命じています。
この事故は、斜度が緩やかな箇所から急な箇所に向けて滑走していた被告が、前方を滑走していた原告に衝突したというものです。
裁判所は、「本件事故現場手前には斜度が変化する箇所があり,斜度が緩やかな箇所を滑走している者から見て,斜度が急になった先の見通しは良くないのであるから,斜度が緩やかな箇所から急な箇所に向かって滑走する者は,適宜速度を調節して下方を滑走する者の有無を確認するとともに,下方を滑走している者を発見した場合には,速やかに進路を変更するなどして衝突を回避すべき注意義務がある。」として、斜度が緩やかなところから急なところに向かって滑走する者は、適宜速度を調整して下方を滑走する者の有無を確認し、下方を滑走している者を発見した場合には進路変更をするなどして衝突を回避すべき義務があるとしました。
その上で、以下のとおり述べ、かかる義務違反があったとしました。
「被告は,前方の見通しが悪いにもかかわらず,十分に速度を落とさないまま斜度が変化する箇所を通過し,前方を走行する原告の発見が遅れて進路変更,緊急停止措置などの措置を採らなかったため,原告と衝突したものと認めることができる。そして,本件事故当時は降雪していたものの,被告本人も15メートルから20メートル離れた場所に原告を発見した旨の供述等をしていることに照らせば,下方を見通すことはできたと認められる。したがって,本件事故当時,被告が速度を調節し,また前方を注視していれば,下方を滑降している原告を発見したうえで原告との接触を避けるための措置を採ることができ,原告との衝突を回避することができたというべきである。」
スノーボードやスキーをする場合に前方に注意すべきことは当然ですから、妥当な判決といえるでしょう。
スノーボードで前方不注視の義務違反を認めた大阪高裁平成18年6月23日判決
大阪高裁平成18年6月23日判決は、スノーボードクロスの競技中の事故について、以下のとおり、前方を滑走していた競技者に衝突した競技者の賠償責任を認めました。
「控訴人と衝突する前に前方を滑走していた控訴人の位置及び滑走状況を全く認識していなかったというものである。しかしながら,本件事故が発生した第1バンク付近のコースの幅が5m程度であること,被控訴人Bは,第1バンク中央付近で競技者が転倒していることを認識しているのであるから控訴人が被控訴人Bの前方である第1バンクの右側を滑走していたことは当然認識し得たことからすると,上記のように転倒している前方の滑走者を抜くことのみに集中することなく,控訴人の位置関係等を把握しながら滑走しなかったことには,前方不注視の過失があるといわれてもやむを得ないところである」
やはり競技者としては、前方を滑走している競技者の動向に注視すべき義務を負うものです。
2 シュノーケリング中の事故と義務違反
シュノーケリングなど海でのレジャーについては、死亡につながることも多く、複数裁判例もあります。
最近のものとしては東京地裁平成27年9月2日判決があります。
この判決は、ツアー会社主催のツアーでシュノーケリングをしていた参加者が死亡したケースについてのものです。
参加者は、シュノーケリング中に溺水し、心肺停止となりました。
ご遺族がツアー会社などに対し債務不履行などを理由とした損害賠償訴訟を起こしたのです。
原告らは、
ⅰ 参加者にシュノーケル講習の受講をすすめず、技能把握や指導をしなかったこと
ⅱ ライフジャケットを着用させず、バディを組ませなかったこと
ⅲ 2名のみで監視を行ったため、発見が遅れたこと
ⅳ AEDをボートに搭載していなかったこと
をもって義務違反と主張しました。
裁判所は、ⅰについて、参加者らは初心者であることを会社側に伝えていなかった、会社側は参加者らが問題なくシュノーケルを扱っている様子を見て問題ないと考えた、このような状況からして一からシュノーケルの使用方法について教える必要はないとしました。
ⅱについては、ウェットスーツに浮力体としての機能があるためさらにライフジャケットを着用することが大人であった参加者に必要であったとは認められない、バディシステムについてはダイビングと違いシュノーケルについてまでバディシステムを組ませることが義務であったとはいえないとしました。
ⅲについては、溺死に至った時間が短いものであったこと、参加者がシュノーケリングと同じ姿勢で海面に浮いていたこと、参加者がシュノーケリング中にもがいたりばたついたりして助けを求める様子もなかったことなどを理由に、義務違反があったとは言えないとしました。
ⅳについては、これをボートに搭載してなかったことをもって注意義務違反ということはできないし、AEDを搭載していたら救命が可能だったかどうかも不明だとしました。
以上からすると、同判決からは、シュノーケリングの技量を判断し、それに応じた講習などを行う義務は認めているようにも取れます。
他方、大人についてライフジャケットを着用させる義務、バディを組ませる義務、AEDを搭載させる義務は否定しているようです。
一定の監視人員を確保すべき義務については明確な判断を示していないといえるでしょう。
いずれにしても、シュノーケリングが高度の危険性を伴うものであることからすると、最低限
ⅰ 技量を確認し、それに応じた講習などを行う義務
ⅱ 十分な監視人員を確保すべき義務
は認められるべきものと考えます。
関係業者や学校関係者の十分な態勢整備に期待します。
3 サッカー中の事故と損害賠償
サッカーやフットサルの試合においては、選手同士の接触やゴールポストの転倒により選手がケガをする可能性があります。
以下、そのような場合の損害賠償責任について解説します。
目次
1 試合中の選手同士の接触事故と損害賠償
1 試合中の選手同士の接触事故と損害賠償
スポーツに怪我はつきものですが、一定の場合にはケガをさせた選手が賠償責任を負う場合もあります。
東京地裁平成28年12月26日判決(087237_hanrei.pdf (courts.go.jp))は、以下のとおり述べ、他の選手にケガをさせた選手の賠償責任を認めました。
『サッカーは,ボールを蹴るなどして相手陣内まで運び,相手ゴールを奪った得点数を競うという競技であるから,試合中に,相手チームの選手との間で足を使ってボールを取り合うプレーも想定されているのであり,スパイクシューズを履いた足同士が接触し,これにより負傷する危険性が内在するものである。
そうであれば,サッカーの試合に出場する者は,このような危険を一定程度は引き受けた上で試合に出場しているということができるから,たとえ故意又は過失により相手チームの選手に負傷させる行為をしたとしても,そのような行為は,社会的相当性の範囲内の行為として違法性が否定される余地があるというべきである。
そして,社会的相当性の範囲内の行為か否かについては,当該加害行為の態様,方法が競技規則に照らして相当なものであったかどうかという点のみならず,競技において通常生じうる負傷の範囲にとどまるものであるかどうか,加害者の過失の程度などの諸要素を総合考慮して判断すべきである。』
つまり、同判決は、社会的相当性を逸脱したプレーによりケガが生じた場合、賠償責任が生じうるものとしました。
その上で、同判決は、「被告Y1は,原告がボールを蹴るために足を振り上げるであろうことを認識,予見していたにも関わらず,走ってきた勢いを維持しながら,膝の辺りの高さまで左足を振り上げるようにして,左足の裏側を原告の下腿部の位置する方に向ける行為に及んでおり,このような行為が原告に傷害を負わせる危険性の高い行為であることに疑いはない。」等として、被告の行為は社会的相当性を逸脱し、賠償責任が生ずるとしました。
どのようなプレイが社会的相当性の範囲内にあるのか、微妙な判断を要することもあるでしょうが、同判決は賠償責任の範囲の一端を示したものとして参考価値が高いと思われます。
2 ゴールポストの転倒による事故と損害賠償
ゴールポストが転倒し、選手がケガをした場合、設置者等が賠償責任を負う可能性があります。
福岡地裁久留米支部(091289_hanrei.pdf (courts.go.jp))令和4年6月24日判決は、小学校の体育の授業の一環として行われたサッカーの試合において、生徒がフットサルのゴールポストのロープにぶら下がり、その結果、ゴールポストが転倒し、生徒が死亡したという事案について、学校側に賠償責任を認めました。
裁判所は、同様の転倒事故が過去にもあったことを踏まえ、事故の予見可能性があったとしました。
その上で、校長には、「ゴールポストの固定状況について点検し、本件ゴールポストの左右土台フレームに結束されたロープと鉄杭を結ぶ方法などによって固定しておく注意義務」があったが、それが履行されなかったとして、賠償責任を認めたのです。
少なくとも小学生が利用することが想定される状況では、ゴールポストの固定をしないことで事故が生じた場合、設置管理者に賠償責任が生ずる可能性があると言えるでしょう。
4 バドミントンでの事故と損害賠償
東京高裁平成30年9月12日判決(088216_hanrei.pdf (courts.go.jp))は、バドミントンのダブルス競技において、後衛の選手が振ったラケットが前衛の選手に当たった事故について、後衛の選手の賠償責任を認めました。
バドミントンの試合中にラケットが当たったことについて賠償責任を認める事例は珍しいので、ご紹介いたします。
同判決は、まず、前衛と後衛がほぼ並ぶ場所にいたため、後衛としては前衛の動静を把握することができ、前衛がシャトルを打つために動く可能性があることを予見することができたのに、前衛にラケットが衝突しないように配慮することをせず、ラケットを前衛の左目にぶつけ、傷害を負わせたとして、過失を認めました。
後衛は、バドミントンの競技者は、事故の危険を引き受けて競技に参加していると主張しました。
しかし、裁判所は、「バドミントン競技の場合、ボクシング等の競技とは異なり、バドミントン競技の競技者が、同協議に伴う他の競技者の故意又は過失により発生する一定の危険を当然に引き受けてこれに参加しているとまではいえ」ないとして、危険の引き受けにより後衛の責任が減じられることはないとしました。
ところで、さいたま地裁平成30年1月26日判決は、地域運動会のリングリレー中の衝突事故について、以下のような判断を示しています。
「本件競技はスポーツの一類型というべきであり,本件事故は,その過程で生じたものであるところ,スポーツの参加者は,一般に,そのスポーツに伴う危険について承知しており,その危険の引受けをしていると解されるから,当該スポーツ中の加害行為については,加害者の故意・重過失によって行われたり,危険防止のためのルールに重大な違反をして行われたりしたような特段の事情のある場合を除いて,違法性が阻却されると解するのが相当である。上記1(1)イのとおり,原告は,過去に10回程度,本件運動会において本件競技に参加しており,本件運動会前にEやFと共に本件競技の練習をするなどしていたのであるから,本件競技の性質やルールを熟知していたものと推認されるのであり,本件競技に伴う危険について承知しており,その危険を引き受けしていたというべきである。」
このようにリングリレーにおいて危険の引き受けを認め、責任を否定する根拠としています。
ですから、東京高裁判決がバドミントンにおいて危険の引き受けを否定した点については、異論もありうるところですし、必ずしも今後バドミントン事故において危険の引き受け法理が適用されないと断言できるものではないと考えます。
それでもバドミントン競技中における競技者の注意義務について明確化した意義はあり、参考になる裁判例かと思います。
5 地区の運動会での事故と損害賠償
スポーツをしていてケガをした場合、常に加害者に損害賠償責任が認められるものではなく、違法性が認められないとして免責される場合もあります。
その基準は、そのスポーツがどの程度の危険性を含んでいるものかなどによって異なってきます。
東京高裁平成30年7月19日判決は、地区合同運動会で行われた自転車リングリレー競技(金属製のスティックで金属製の輪を転がしながら走り、リレーをする競技)中の走者間の衝突により生じた負傷(頚椎捻挫、全身打撲、末梢神経障害)について、加害者の損害賠償責任を認めました。
同判決は、以下のとおり述べ、親睦目的で気軽に参加するという競技の性質上、衝突などについて損害賠償責任が認められないのはごく軽度の危険や衝突にとどまるとしました。
「本件競技がスポーツの一類型であることからすると、そのルールないしマナーに照らし社会的に許容される一定範囲内の行動は違法性が阻却されると解しうるものの、親睦目的で行われた本件競技の前記の性質に照らすと、その範囲内となるのは、ごく軽度の危険や衝突にとどまるといわざるを得ない」
「スポーツ競技中、ルール違反さえなければ常に違法性が阻却されると解することはできず、当該スポーツの性格や事故の生じた具体的状況に即して検討すべきところ、幅広い参加者が親睦目的で気軽に参加するといった本件競技の性格に鑑みれば、本件競技に内在している危険として違法性が阻却されるのは、前記説示のとおり、ごく軽度の危険や衝突に限られると解するのが相当である」
判決は、これらの基準を踏まえ、当該事案について通院慰謝料10万円の損害賠償を命じました。
親睦目的で気軽に参加するという競技の場合、スポーツに普段慣れ親しんでいない人、身を護る能力が十分ではない人が参加する可能性があります。
そのような参加者の身体の安全を護るという観点で、衝突などについて損害賠償責任を免れる範囲を狭くするという価値判断は十分ありうるように思います。
ただし、同事件についてはさいたま地裁平成30年1月26日判決が、衝突について違法性が阻却されるとし、損害賠償責任を認めませんでした。
ですから、東京高裁のような判断基準が一般化できるかどうか疑問もありえます。
今後の判例、裁判例の状況を注視する必要があります。
6 新潟でスポーツ事故のお悩みは弁護士齋藤裕にご相談ください
もご参照ください。
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