執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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目次
1 労働時間はいつからいつまで?
1 労働時間はいつからいつまで?
賃金支払いなどの前提となる「労働時間」とは「使用者の指揮命令下におかれている時間」です。
労働時間開始については、引継ぎ、機械点検、整理整頓、義務的に行われる朝礼や着替えは労働時間に入ります。
着替え時間については、横浜地裁令和2年6月25日判決が、「被告会社においては、制服を着用することが義務付けられ、朝礼の前に着替えを済ませることになっていたところ、その時間及び朝礼の時間以降は、被告会社の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、これに要する時間は、それが社会通念上相当と認められる限り、労働基準法上の労働時間に該当する」としているところです。
労働時間終了については、後始末などは労働時間に入ります。
通常、休憩時間は労働時間から除かれます。しかし、事業所内で必要に応じて対応しなければならない時間は、休憩や仮眠時間とされていても労働時間に該当する可能性があります。
2 待機時間・仮眠時間と労働時間
待機時間・仮眠時間が労働時間に該当するかどうかについては多くの裁判例が出ています。
ホテルの設備管理業務に従事していた労働者の仮眠時間が労働時間に該当するかについて、東京地裁令和1年7月24日判決は、最高裁判決を踏まえ、仮眠時間の労働時間性について、「不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労働基準法上の労働時間に当たり,当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には,労働からの解放が保障されているとはいえず,労働者は使用者の指揮命令下に置かれている」との基準を定立します。
その上で、労働者の仮眠時間について、「中央監視室には,設備管理モニターが3台設置され,仮眠時間中でも設備に異常が発生すれば,警報音が鳴る仕組みになっていたこと等の点を含む仮眠室の状況,クレーム表や日報からうかがわれるBシフト勤務担当者の実作業の状況や頻度等に照らせば,原告らは被告と本件ホテルとの間の業務委託契約に基づぎ,被告従業員として,本件ホテルに対し,労働契約上,役務を提供することが義務付けられており,使用者である被告の指揮命令下に置かれていたものと評価するのが相当である。」として、仮眠時間の労働時間性を認めています。
このように、待機時間・仮眠時間において事があれば対応することになっていたかどうか、実際に対応した頻度がそれなりにあるかどうかにより労働時間性が判断されてきています。
3 会社の命令がないと労働時間じゃない?
労働時間は、使用者の指揮命令下におかれている時間ですが、この指揮命令は明示のものだけではなく、黙示のものも含みます。
例えば、会社が20時間を要する仕事を1日で労働者するよう指示した場合、仮に会社が9時から18時までで仕事を終わらせるように指示していたとしても、それでは仕事は終わらず、残業しなければならないことは明白です。このような場合には、18時以降の仕事について、会社からの明示的な指示がなかったとしても、黙示の指示があるものとして労働時間に含まれる可能性があります。
また、始業前から終業時刻後まで多くの職員が勤務しているのが特殊でない状況において時間外勤務していた場合については、黙示の指示があるとして労働時間性が認められる可能性があります(大阪高裁平成13年6月28日判決)。
なお、裁判例などでは、残業禁止をしている場合については、仮に残業が必要な仕事を任されていたとしても、残業分は労働時間に該当しないとするものもあります。しかし、残業をしない場合に不利益処分が想定などされる場合、残業をしないとこなしきれない業務を割り振られているような場合においては、残業禁止があったとしても、残業については黙示の指示があり、残業時間に該当すると解するべきです(東京地裁平成30年3月28日判決)。
参照:使用者の指示のもとにある時間を労働事件とする厚労省解釈
4 研修などは労働時間となるか?
出席しないと不利益が課されるような場合、研修を受けないと業務を適切に遂行することが困難な場合等については、研修時間についても労働時間とされる可能性があります。
親会社が行う研修への参加について、
・勤務先店舗で販売される商品の説明が主なものであったこと、
・受講料は会社負担で、会社の本社等が会場であったこと
・宿泊先も会社が指定していたこと
・上司において、受講が昇進の条件であると言っていたこと
・上司が受講に合わせてシフトを変更していたこと
等の事情から、研修への参加時間は労働時間にあたるとした裁判例(長崎地裁令和3年2月26日判決)もあります。
5 職場外の活動と労働時間
所定労働時間外に施設外で行われる運動会、接待などへの参加も義務的なものであれば労働時間に該当する可能性があります。
明示の指示のない持ち帰り残業についても、持ち帰らないと仕事が終わらないような場合等には、黙示の指示があったものとして労働時間として扱われ得ます。
仙台高裁令和3年12月2日判決は、さくらんぼ生産法人の従業員が、職場外で行われた決起大会での腕相撲でケガをしたという事案について、労災に該当することを認めました。
同判決は、
・決起大会は、さくらんぼ収穫期に向け労働者の意識を高めるというも事業の根幹にかかわる目的で従業員全員参加の下に事業主により毎年開催されていたこと
・そば処の座敷での酒食の提供を伴う決起大会の場で恒例行事として全員参加で腕相撲が行われており、決起大会と腕相撲が一体不可分であったこと
・従業員わずか8名の会社の社長が、初めて決起大会に参加した新人である従業員に直接指示して腕相撲に参加させたこと
などを踏まえ、腕相撲は業務遂行行為に当たるとしました。
このように、職場外行為の目的、全員参加かどうか、恒例行事か、場所等について業務との近接性があるかどうか、具体的な指示があったかどうか、それを拒絶することが容易であったかどうか等を踏まえ、職場外活動が労働時間かどうかが判断されると考えられます。
6 移動時間、出張は労働時間になるのか?
通勤時間は通常は労働時間には該当しません。
出張に伴う移動時間についてはケースバイケースの判断になります。
公共交通機関を利用しての出張の場合について労働時間性を否定した裁判例があります(横浜地裁川崎支部昭和49年1月26日判決。参照:公共交通機関を利用しての出張について労働時間性を認めた裁判例)。
この点、公共交通機関を利用した場合でも、その時間を自由利用できない場合には労働時間に該当するとの見解もあります(水町勇一郎「詳解労働法第2版」671頁)。
他方、労働者が自動車を運転して移動した場合には労働時間に該当するとした裁判例があります(大阪地裁平成22年10月14日判決)。
職場間の移動時間については、その時間を自由利用できない場合には労働時間に該当するとの見解があります(水町勇一郎「詳解労働法第2版」671頁)。
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