カルロス・ゴーンさんの保釈は間違っていない

さいとうゆたか弁護士

報道によるとカルロス・ゴーンさんが保釈条件に反してレバノンに出国したということです。

そもそも保釈を許すべきではなかったという声も聞こえてきそうですが、私は保釈を認める決定自体は妥当だったと思います。他方、保釈保証金の額について安過ぎたという批判はありうるところかと思います。

刑事訴訟法は、保釈について以下のとおり定めます。

「第八十八条 勾留されている被告人又はその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹は、保釈の請求をすることができる。
第八十九条 保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。
一 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を 怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
第九十条 裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。」
 刑事訴訟法89条の条文から分かる通り、罪証隠滅のおそれは保釈を許すかどうか判断する上で重要な要素ですが、逃走は保釈を許すかどうかを判断するにあたって大きな要素とは言えません。
 それは保釈保証金を納めさせることにより逃走を防ぐことができると考えられるからです。
 保釈保証金を決めるについては、被疑者の資産が考慮されます。
 刑事訴訟法は保釈保証金額について以下の通り定めています。
「第九十三条 保釈を許す場合には、保証金額を定めなければならない。
○2 保証金額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない。」
 今回ゴーンさんが海外に行ってしまったことについては、ゴーンさんの資産に比して保釈保証金額が不十分だった可能性はありうると思います。
 しかし、上記した、保釈保証金で逃走を防ぐという保釈制度の趣旨からして保釈決定自体が誤っていたという判断はなしえないと考えます。
 検察官という国家権力に比べて圧倒的に弱い立場にある被告人が弁護人と打ち合わせなどをするのに不可欠な保釈制度が、保釈制度についての誤解に基づく世論により歪められないことを祈念しています。

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