
1 京都アニメーション放火殺人事件被疑者の青葉真司容疑者起訴
報道によると、京都アニメーション放火殺人事件被疑者の青葉真司容疑者が、本日起訴とのことです。
見通しについて解説します。
2 青葉真司容疑者の責任能力が認められるかどうか
青葉真司容疑者については、盗用を訴えており、裁判では責任能力が争われることが想定されます。
刑法39条は、心身喪失者の行為は罰しない、心身こう弱者の行為はその刑を減刑するとしています。
心身喪失とは、ⅰ 精神の障害による物事の良し悪しを判断する能力、ⅱ その判断により行動をコントロールする能力、のどちらかがない状態を言います。
心身こう弱とは、精神の障害により、ⅰまたはⅱが著しく衰えた状態を言います。
比較的近い事例でいうと、大阪高裁令和1年7月16日判決は、以下のとおり述べて、被告人には責任能力があったとしました。
「本件の直接の動機は,(被害者から嫌がらせを受けているという妄想に基づくー引用者注)憤懣という了解可能なもので,被告人がともかくも殺人が処罰の対象となる犯罪であることは理解しており,適切さを度外視すれば他の行為を選ぶことも可能であったから,反対動機を形成して思い止まることがかなり困難であったとはいえず,是非善悪の判断能力が欠如していたとか,制限の程度が著しかったということはできない。そして,被告人が,被害者の殺害を決意した後,それを実現するために合理的な行動をとっていることは,関係証拠から十分に認めることができる。被害者を多数回突き刺したり,切り付けたりした場面では興奮状態になっていた可能性があるとしても,それは殺人の事案で通常あり得る事態であるし,以後の行動に特段の異常性はうかがえないから,行動を制御する能力に不足があったとも認められない。」
つまり、妄想がベースにあってもそれが犯罪のきっかけに過ぎない(被害者から殺されそうだという妄想に基づき正当防衛のつもりで被害者を殺したような場合ではない)、妄想による怒りにより攻撃に至ったという動機が了解可能である、自分の行為が犯罪となることを認識していた、犯罪という目的のために合理的な行動をしているなどの事情があれば、完全責任能力が認められやすいということです。
青葉真司容疑者については、盗用されたとの被害妄想があったとしても、それは犯罪のきっかけでしかなく、怒りを抱いたので自分の妄想する加害者に攻撃をしかけたという動機自体も了解可能であり、完全責任能力が認められる可能性もあると思います。
丁寧で人権に配慮した捜査、公判により適正な判断が下されることを祈念しております。
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