
1 「僕サーズ」と聞き違いされ京都府警に逮捕された件が冤罪だったとの報道
報道によると、今年3月、京都府城陽市のコンビニエンスストアで、「僕サーズ」と言ったとして、偽計業務妨害で逮捕された60代男性について、嫌疑不十分で不起訴処分がなされたということです。
男性は、逮捕時から一貫して「僕サーズ」とは言っていないと訴えており、かつ、防犯カメラにもそのような音声は録音されていなかったとのことです。
この件について、関係者はどのような法的責任を負うでしょうか?
2 京都府警側の責任
パチンコ店において窃盗をしたとして逮捕された男性が、最終的には誤認逮捕として釈放されたという事件について、男性が警察等に対する国家賠償請求等をした訴訟の判決(山口地裁平成29年1月18日判決)は以下のとおり述べます。
「本件警察官は,現に収集した証拠資料では,直ちに原告が本件被疑事実を敢行したと判断できる状況にあったということはできないのに,本件ぱちんこ店の従業員の供述から,原告を本件被疑事実の犯人と断定したのであり,B巡査長及び巡査部長を含む本件警察官が,本件映像の前記③の場面以外の画像を,前記③の場面と同程度の注意力を以て精査したことは認められず,その後本件逮捕状の請求がなされるまでの間に,本件映像を精査し,前記⑩の映像の場面が確認されたということもうかがわれないから,本件警察官が,本件被疑事実につき,通常要求される捜査を尽くしたということはできず,本件においては,警察官が,現に収集した証拠及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料に基づき,合理的な判断過程により,被疑者が当該犯罪を犯したことを相当程度高度に肯定できる場合に該当するということはできない。したがって,原告につき,本件逮捕状を請求するについては,犯罪の嫌疑の相当な理由はあったということはできず,本件逮捕状の請求は違法であったというべきである。」
つまり、ただちに被疑事実をしたと判断できる状況ではないのに、店員の供述だけで犯人と判断し、決定的証拠である防犯カメラ画像の精査をしなかったとして、逮捕は違法であるとしました。逮捕したことの実名報道についても違法だとしました。
今回の事件では、嫌疑不十分での不起訴ですから前提は違うとは言えます。
しかし、60代男性が「僕サーズ」とは言っていないことが認定されるとすると、上記山口地裁判決に照らすと、重要証拠であるはずの防犯カメラの調査すらしないまま逮捕したということですから、逮捕が違法であり、警察側に違法逮捕及び違法な実名公表について損害賠償責任が認められる可能性はあると言えるでしょう。
当時はコロナ患者でないのにコロナ患者を称する者が続出していた状況ではありましたが、やはり警察の対応はあまりにもずさんでした。
警察の責任が厳しく問われるべきでしょう。
さいとうゆたか法律事務所トップはこちらです。