アスベストが残存している建物の売買契約と損害賠償

さいとうゆたか弁護士

従来の日本の建築物にはアスベストが使用され、そのまま残存しているケースもあります。

そのような建物を購入した人としては、健康被害を防ぐため、その除去をする必要がありますが、そのためには莫大な費用がかかります。

買主は売主にその費用を請求できるでしょうか?

以下、検討します。

 

1 自治体が競争入札で建物を売却した場合

東京高裁令和1年5月16日判決は、自治体が競争入札で建物を売却した場合について、その建物にアスベストが残っていたとして、自治体側の説明義務違反を認め、自治体側にアスベスト除去費用の4割の賠償を命じました。

この判決では、

ⅰ 対象建物は解体予定であったこと、

ⅱ 建物の規模からして、アスベストの残存の有無・程度が解体撤去費用の額に大きく影響すること

ⅲ 売却予定価格においてアスベスト除去費用が考慮されていなかったこと

などの事情を前提に、売主は、「その買主となる入札参加事業者が適切に決めた入札価格で入札することができるよう,同事業者に対し,本件物件調書の記載により入札対象である本件不動産に関する基本的な情報を正しく提供すべきであり,入札参加事業者として通常求められる知識・能力を有していれば本件建物に使用されたアスベストが全て除去済みであるとの誤解を生じないような態様で,本件建物のアスベストに関する情報を提供する信義則上の義務(以下「本件説明義務」という。)を負っていた」としました。

しかし、当該自治体は、物件調書に、アスベストが除去されていると誤解されるような記載をしていました。

そのため、裁判所は、自治体にアスベスト除去費用の4割の賠償を命じたのです。

このように、条件次第では、自治体においてアスベストについて誤解のないような情報提供が義務付けられ、それに違反した場合には自治体側に賠償責任が生じうることになります。

2 民間事業者が建物を売却した場合

宅建業者については、法令で説明義務が課されています。

その具体的内容について、国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、以下のとおり説明しています。

・石綿の使用の有無の調査結果の記録が保存されているときは、「その内容」として、調査の実施機関、調査の範囲、調査年月日、石綿の使用の有無及び石綿の使用の箇所を説明することとする。ただし、調査結果の記録から、これらのうちいずれかが判明しない場合にあっては、売主等に補足情報の告知を求め、それでもなお判明しないときは、その旨を説明すれば足りるものとする。
・調査結果の記録から容易に石綿の使用の有無が確認できる場合には、当該調査結果の記録を別添することも差し支えない。
・本説明義務については、売主及び所有者に当該調査の記録の有無を照会し、必要に応じて管理組合、管理業者及び施工会社にも問い合わせた上、存在しないことが確認された場合又はその存在が判明しない場合は、その照会をもって調査義務を果たしたことになる。
・紛争の防止の観点から、売主から提出された調査結果の記録を説明する場合は、売主等の責任の下に行われた調査であることを、建物全体を調査したもので
はない場合は、調査した範囲に限定があることを、それぞれ明らかにすること。

注意すべきは宅建業者についても、石綿の調査自体が義務付けられているわけではなく、調査結果がある場合に説明すべきこと、手元にない場合には管理組合等に問い合わせ等すれば済むとされていることです。

いずれにせよ、宅建業者がこれらの義務に違反した場合、買主からの賠償請求はありうるでしょう。

また、宅建業者、あるいは宅建業者ではない売主において、石綿使用の事実を知らないで建物を売却した場合でも、賠償請求の対象となることがありうると考えます。東京地裁令和2年3月27日判決は、売買対象となる建物から石綿含有建材が見つかったという事例について、「本件建物から本件石綿含有建材が発見されたことについても,本件担保責任における瑕疵に該当すると認められ」るとし、賠償責任を認めています。

3 不動産・建物売買とアスベスト・石綿についてのトラブルは弁護士齋藤裕(新潟県弁護士会所属)にご相談ください

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