執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会、2023年度日弁連副会長)
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目次
1 高次脳機能障害の自賠責における認定
2 高次脳機能障害の評価の対象となる資料
3 高次脳機能認定における画像資料について
8 新潟で交通事故、高次脳機能障害のお悩みは弁護士齋藤裕(新潟県弁護士会所属)にご相談ください
1 高次脳機能障害の自賠責における認定
現時点における自賠責での高次脳機能障害認定は以下のような要素によりなされていると考えられます(「自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会」報告書、2018年5月)。
以下ご紹介します。参照:高次脳機能障害の認定についての資料
2 高次脳機能障害の評価の対象となる資料
画像所見、意識障害の有無・程度・持続時間、神経症状の経過、認知機能を評価するための神経心理学的検査を総合的に評価して高次脳機能障害の有無が判定されることになります。
3 高次脳機能認定における画像資料について
画像資料としてはCT、MRIが重視されます。
臨床においてはCT検査がなされることが多いですが、微細な脳損傷を検知するためにはMRI検査が望ましいとされていますので(公立学校共済組合関東中央病院脳神経外科部長吉本智信「高次脳機能障害と損害賠償」全面改訂42頁は、「受傷1日目を除けば、MRIが最も有用であり、びまん性の脳損傷の場合、CTでわかりにくい白質の病変がMRIで描出されることがある。急性のCTで認められなかった損傷が後からMRIでわかることも少なくない」としています。ただし、同書43頁は、「外傷直後の数時間はMRIよりCTスキャンの方がわかりやすいことが多い」ともしています)、被害者側において早期のMRI検査を要望すべき場合もあるでしょう。
CTでも、MRIでも、水平断画像(頭を水平に輪切りにした画像)で撮影されることが多いですが、頭部外傷で損傷しやすい前頭葉底部、側頭葉底部の損傷は冠状断画像(水平断画像と直角の向きに頭を輪切りにした画像)でないとわかりにくいとされます(公立学校共済組合関東中央病院脳神経外科部長吉本智信「高次脳機能障害と損害賠償」全面改訂42頁)。
画像上、急性期には、脳挫傷、脳内血種、くも膜下出血、脳浮腫などの所見が見られます。
CTでも、MRIでも、水平断画像で撮影されることが多いですが、頭部外傷で損傷しやすい前頭葉底部、側頭葉底部の損傷は冠状断画像でないとわかりにくいとされます。
外傷から3〜4週間以上が経過すると、重症例では、脳萎縮が明らかになることがあります。この脳萎縮の所見は、高次脳機能障害の存在を裏付けるものとされます。
DTI、fMRI、MRスペクトロスコピー、SPECT、PET等は補助的な資料として扱われます。
もご参照ください。
4 高次脳機能障害と意識障害について
脳外傷に起因する意識障害が重く、長引くほど高次脳機能障害が生じる可能性が高いとされます。特に意識障害が6時間以上継続する症例では可能性は特に高いと考えられます。
画像所見が明らかではなく、意識障害も認められない場合、高次脳機能障害ではないとされることが多いです。
検査がされなかったことにより画像所見が明らかではないものの、中等度以上の意識障害が認められ、神経心理学的検査等に異常所見が認められる場合には、脳外傷による高次脳機能障害と判断されることがあります。意識障害の有無・程度・持続時間を参考に、症状の経過を把握していくことが必要であるとされます。
5 高次脳機能障害と症状経過
頭部外傷後の症状が次第に軽くなりながらその症状が残った場合、脳の器質的損傷とその特徴的な所見が認められるならば、脳外傷による高次脳機能障害と事故との間の因果関係が認められるとされます。
他方、頭部への打撲などがあっても、それが脳の器質的損傷を引き起こすほどのものではなく、外傷から数か月以上を経て症状が発現し、次第に悪化するような事例では、脳外傷に起因する可能性は少ないとされます。画像検査で慢性硬膜下血腫や脳室拡大などの器質的病変が認められなければ、この可能性はさらに少なくなるとされます。
6 高次脳機能紹介と神経心理学的検査
WAIS-III(知能検査)、WMS-R(記憶検査)、三宅式-14-記銘力検査(聴覚性言語の記憶検査)、TMT(注意機能と処理速度の検査)、語の流暢性、BADS(日常生活上の遂行機能の検査)、WCST(前頭葉機能、実行機能の検査)、WISC-IV(児童用の知能検査)、KABCII(学習習得度も含む知能検査)等の結果が参考にされます。
7 裁判所における高次脳機能障害の認定
裁判所においても、以上述べた自賠責における認定基準に沿った認定がされることが多いです。
しかし、高次脳機能障害についての自賠責の認定基準を満たさなくても後遺障害が認定されることもあります。
名古屋地裁平成22年7月30日判決は、「高次脳機能障害の診断基準を前提にすると,原告には,同(イ)の検査所見において,脳の器質的病変の存在を確認することができないから,高次脳機能障害には該当うるとの認定はできないということになる。」として、当該事案では、自賠責における高次脳機能障害の基準を満たさないとしています。
しかし、「原告が平成16年3月19日に発生した本件事故により顔面切創,左頬骨骨折,歯牙脱臼,歯牙破折,歯槽骨骨折等,頭部に衝撃を受けたことにより発生する傷害を負い,本件事故直後にはごく短い時間ではあるとはいえ意識消失の状態になったことからすれば,原告が,本件事故により,CTやMRIの画像等では発見できないような脳の損傷を受けた可能性は十分に考えられるところである。」こと、「本件事故前は有能で真面目な仕事ぶりであった原告が,本件事故後約3か月で職場に復帰した後は,仕事に全くやる気のないような状態になっていること,仕事で大怪我をしても自らは病院に行こうとしないこと,本件事故前は金の貸し借りが嫌いであった原告が,知人に言われるままに借金を繰り返してはそれを知人に渡すといった行為に出ていることなどからすれば,原告は,本件事故後に,病的な無気力,無関心,意志発動性の低下などのため,特に軽易な労務以外の労務に服することができない状態になっていると認めることができる。」ことなどを踏まえ、「本件事故による外傷性の器質性人格変化」があったと認定し、5級の後遺障害を認定しました。
このように、自賠責の基準を満たさないことで直ちに諦める必要はないということになります。
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