執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 児童相談所からの養護施設入所等審判の対応
児童虐待等があるとされた事例において、児童福祉法28条に基づき、児童相談所から養護施設への入所や里親委託等がなされることがあります。参照:児童福祉法
児童虐待を防止するため、やむを得ないと思われることもありますが、権限濫用と思われることもあります。
児童相談所からの養護施設入所等の審判申立があったどのように対応すべきか、検討します。
2 養護施設入所等の審判例
福岡家裁令和1年8月6日決定は、児童相談所長が、母から暴言・暴力を受け、一時保護している児童について、里親委託か児童養護施設への入所をさせることの承認を求めた審判において、以下のとおり、母が児童相談所の援助を受け入れるようになっているとして、児童相談所長の申立てを却下しました。
事案は、「母は,幼い児童に対して「死ね」などという暴言を浴びせ掛け,その顔面を叩き,蹴るという暴行を加え,児童の監護を怠って,短期間のうちに児童の頭部に3か所も立て続けに怪我を負わせるという不適切な養育をしていたもの」でした。
裁判所は、「本件は,かような問題を抱えているが,児童福祉法28条4項により,概要,前項(4)オのとおりの母に対する指導措置の勧告を行ったところ,児童相談所の指導や本件施設の援助があり,これらの援助を母が肯定的に捉えているため,今は,大きな問題は露呈していない。」、「そうすると,母の児童に対する監護が,改善され,著しく児童の福祉を害するものと評価し難いものとなっている。」として申立を却下しています。ここで母親が援助を受け入れるようになったというのは、「今後も,①児童家庭支援センターに定期的に通所し,面接を受けること,②本件施設における心理カウンセリングを継続して受けること,③児童相談所からの家庭訪問や助言を受け入れ,連絡に応じ,生活状況を報告することを約束し」たことを指します。
他方、児童心理治療施設への入所が問題となった水戸家裁平成30年5月28日決定は、児童虐待がない事案について、以下のとおり述べ、実父が児童への不適切な対応を改める様子がないことをも理由に児童心理治療施設への入所を認めました。
「現状において,児童は,極端に父を恐れているが,父母は,児童の家庭裁判所調査官に対する供述は,家出をしたことを怒られることを恐れて,自己防衛のために自らの行動を正当化しているものだという見解に固執しており,児童が感じている恐怖感に向き合っていない。」
「父の児童に対する接し方が強圧的であり,他方で,児童は自閉症スペクトラムの傾向があるなど感受性が極めて敏感で父に著しい恐怖を抱き,心的外傷を負っていること,父母はこの点を理解しないまま児童に対する可能性が極めて高いことを総合すると,現状で父母に児童を監護させることは,児童が安心・安全を実感できる方法による支援とはならず,著しく児童の福祉を害するものというべきである。」
また、児童福祉法28条1項に基づいて児童相談所長がした未成年者についての障害者入所施設への入所又は里親委託の承認申立ての是非が争われた事案についての名古屋家裁令和1年5月15日審判は、保護者が未成年者の通学を妨げるようなことを繰り返してきたこと、ネグレクトがあったとして児童相談所が一時保護等で関与してきたが保護者が児童相談所と対立を深めてきたこと、児童が障害者入所施設での生活に適応していること、保護者宅への帰宅を希望していないことに加え、
父母において「児童相談所の職員を非難することに終始しており、未成年者とのこれまでの溝をどのようにして埋め、学校や関係機関とどのように連携して未成年者の将来的な自立を図っていくのかの具体的な考えは示していない」こと
をも理由として、入所又は里親委託の承認をしました。
このように、必ずしも児童虐待の程度だけではなく、児童虐待その他の問題行動について理解し、改善する姿勢を示すことが大事かが分かります(もちろん、生命にかかわるような虐待、かなり長期的な虐待については、それらだけで施設入所等が認められることもありうるでしょう)。
そして、そのような姿勢を示すためには、弁護士に依頼し、姿勢を適切に立証することが重要です。
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