
1 自己情報コントロール権について定める条例の事例
個人情報保護条例の中には、自己情報コントロール権について定めているところがあります。
たとえば、下諏訪町個人情報保護条例は以下のとおり、目的規定に「自己情報コントロール権」について定めています。
(目的)
第1条 この条例は、自己に関する個人情報(個人情報に該当しない特定個人情報を含む。以下この条において同じ。)の開示、訂正及び利用中止を求める町民の権利を「自己情報コントロール権」として保障するとともに、個人情報の適正な取扱いに関し必要な事項を定めることにより、個人の権利及び利益を保護し、もって町民の基本的人権の擁護と公正で公平な町政の推進に資することを目的とする。
この他にも、前文で自己情報コントロール権について定めている条例(沖縄県個人情報保護条例など)、言葉としては自己情報コントロール権という用語は用いていないものの解説において個人情報保護条例の目的を自己情報コントロール権の保障と位置づけるもの(調布市個人情報保護条例など)も少なくありません。
2 実施機関は、前項に規定する申出があったときは、原則として、その者の個人情報の提供をしてはならない。
同条例の解説によると、ここでいう「自己情報コントロール権」というのは、異議なく個人情報の提供をされない権利という程度に解釈されているようです。
2 「改正」個人情報保護法の立場
「改正」個人情報保護法のもとで、個人情報保護条例に自己情報コントロール権について規定できるかどうかについて、以下の政府参考人答弁があります。
令和3年4月22日参議院内閣委員会政府参考人答弁
「自己コントロール権につきましては、地域の特性と関係しないものと考えられますので、具体的な法的効果を伴う権利として条例に規定するということはできませんけれども、純粋に理念的な事項としてでありますと、法律上の共通ルールの内容を変更しないということでありますので、改正後、改正案の施行後においても条例に規定することは可能だと考えております。」
現実には、目的規定や前文で「自己情報コントロール権」についてふれている従来の個人情報保護条例でいう「自己情報コントロール権」という言葉は、他の条項とは独立して具体的な内容のある権利を保障するというより、条例上の個々の権利が重要なものであることを示す修飾のために使われてきたように思われます。
そうであれば政府参考人答弁も踏まえると、目的規定の中で「自己情報コントロール権」について定めた個人情報保護条例の多くは、「純粋に理念的な事項」として「自己情報コントロール権」について触れているものであり、存続が許されると考えられます。
ただし、野田市個人情報保護条例のように、個人情報の提供の可否に関し自己情報コントロール権の用語が使われている事例については、政府参考人答弁からは存続が許されないということになりそうです。そもそも、「自己情報コントロール権」を異議なく個人情報を提供されない権利というように限定的に解釈するのが一般的とも思われませんし、用語の整理が必要なのではないかと思われます。用語の整理の上、「改正」個人情報保護法の個人情報の目的外提供に関する規定に徴し許されるかどうかという検討が必要でしょう。
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