執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 試用とは?
試用とは、入社後労働者の人物・能力を評価して本採用するかどうかを決するための一定期間を言います。
試用期間は3ケ月とされることが多いようです。
2 試用期間と解雇(留保解約権の行使)
このような試用期間の性質から、試用期間中に労働者を正社員として雇い入れないこと(留保された労働契約の解約権行使)が許されるかどうかは、通常の解雇とは異なる基準で判断されます。
この点、最高裁昭和48年12月12日判決は、以下のとおり述べています。参照:試用についての判例
留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。換言すれば、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至つた場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができるが、その程度に至らない場合には、これを行使することはできないと解すべきである。
このように、試用期間中に当該労働者を雇い入れないこと(留保解約権の行使)は、試用の決定時において知り得なかった事情を踏まえると労働者の人物・能力に問題があり、雇い入れないことが客観的に相当と言える場合にのみ認められることになります。
例えば、東京地裁令和4年2月2日判決は、
・審査報告書ファイルの入力作業における入力の誤りや入力漏れ,
・審査報告書ファイルの回付時におけるルールに反した付箋の貼付や貼付の失念
・入力が完了していない審査報告書ファイルの回付や回付時期の誤り
・スキャン後の書類の誤った部署への回付
など,原告の担当した判定案件リスト掲載関連業務及びスキャン業務における基本的な事項が多数あり,原告が試用期間延長の前後を通じて基本的なミスを繰り返していたことが認められるとしつつ、
・かかるミスによる影響は,幸いにも被告内部にとどまるものであって,同僚や関連部署の業務に支障を生じさせるものであったとしても,被告に損害を与える性質のものではなかった
・原告が,注意指導に対し,反発するようなことはなく,メモを取るなどして改善の姿勢を見せていたため、このような原告の態度に鑑みると,勤務状況が改善する余地が一切ないとまでは認められない
として、解約権行使は許されないとしているところです。
なお、試用期間満了前においても、労働者の適格性がないことが明確であり、それが改善する見込みがないこともはっきりしているような場合には、試用期間満了前においても留保解約権の行使をなしうると考えられています。ただし、試用期間中の解雇について、適格性を欠くと判断するには早すぎるとして、解雇を無効とした裁判例もあります。ですから、試用期間満了前において、適格性欠如が改善する見込みがないとの判断をすることについては慎重でなければならないでしょう。
3 試用期間の長さ・延長
試用期間中、労働者は、通常の場合より簡単に解雇される、つまり、不安定な立場に置かれることになります。
不必要に長期間、労働者をこのような不安定な立場に置くことは許されません。
そのため、名古屋地裁昭和59年3月23日判決は、6ケ月ないし1年の試用期間の定めを無効としています。
有期契約についてはこの判断は一層厳格にされなければなりません。
東京地裁平成25年1月31日判決は、1年の有期雇用契約についての試用期間は3ケ月についてまでしか認められないとしています。
また、試用期間が延長されると、労働者はいつ労働契約を終了させられるか分からない不安定な立場に立たされ続けることになります。
よって無制限に試用期間を延長することは許されません。
この点、東京地裁令和2年9月28日判決は、就業規則に試用期間延長の可能性・期間が定められていない場合においては、
「職務能力や適格性について調査を尽くして解約権行使を検討すべき程度の問題があるとの判断に至ったものの労働者の利益のため更に調査を尽くして職務能力や適格性を見出すことができるかを見極める必要がある場合等のやむを得ない事情があると認められる場合に、そのような調査を尽くす目的から、労働者の同意を得た上で必要最小限度の期間を設定して試用期間を延長する」
ような場合のみ試用期間を延長しうると、かなり試用期間を延長できる場合を限定しており、参考になります。
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