麻酔中毒、麻酔事故と医療過誤

1 麻酔中毒、麻酔事故と医療過誤

不適切な麻酔による死亡あるいは重大な後遺障害を残す事故が少なくありません。

以下、麻酔中毒、麻酔事故と医療過誤をめぐる裁判例をご紹介します。

2 必要最小量を,可能な限り速度を遅くして注入すべき注意義務

整形外科において、医師が整復治療及びこれに伴う伝達麻酔を行った後で、患者が低酸素脳症となり、後遺障害が残ったという事案について、京都地裁令和3年11月9日判決は、以下のとおり述べ、医師の義務違反を認めました。

同判決は、まず、

カルボカインの投与に際しては,局所麻酔中毒を避けるために,まず,注射針からの血液の逆流がないことを確認した上で,薬剤投与に当たって,投与対象者の血圧,呼吸,顔色といった全身状態を観察しつつ,必要最小量を,可能な限り速度を遅くして注入すべき注意義務がある

特に、忍容性の低下といったリスクファクターを有する高齢者に対する投与(同第5の1),腕神経叢ブロックのような血中への薬剤吸収を高め得る組織が付近にある部位への投与(認定事実(4)ア)においては,上記各点をより慎重に行うべき注意義務があった

として、カルボカインについて、投与対象者の血圧,呼吸,顔色といった全身状態を観察しつつ,必要最小量を,可能な限り速度を遅くして注入すべき注意義務を認めました。

その上で、当該医師は、1回の注射針の刺入により18mLを投与したところ、投与量が伝達麻酔の通常成人に対する参考使用量の上限20mLに近いものであったことなどを踏まえ、医師には注意義務違反があったとしました。

3 問診・観察義務違反

福岡高裁平成17年12月15日判決は、「キシロカイン投与の前後や内視鏡の挿管前に花子の血圧測定を行っていないことは,その問診義務及び観察義務」に反するとして、医師らの義務違反を認定しています。

4 救命措置義務違反

福岡高裁平成17年12月15日判決は、「キシロカインの投与に際し,その副作用を完全に防止する方法はない。そのため,異常が認められた場合に直ちに救命措置が取れるよう常時準備をしておくことが要請される。その準備しておくべき薬剤及び器具等としては,ネオフィリン等の強心薬,ボスミン等の昇圧薬,キシロカイン2パーセント等の抗不整脈薬,ホリゾン等の鎮静薬,鎮痙薬,ソルコーテフ,ピレチア等の副腎皮質ホルモン,抗ヒスタミン薬,硫酸アトロピン等のその他の薬剤,乳酸リンゲル液等の輸液並びに酸素マスク,エアウェイ,人口呼吸用バッグ,気管内挿管チューブ及び挿管器具セット,点滴セット,CVP穿刺セット,針付き注射器,血圧計,心電図計,パルスオキシメーター及び吸引器がある。」として、麻酔事故が発生した場合に備え、直ちに救命措置を講ずることができる態勢をつくる義務を認め、当該事案においてはその義務違反があったとしました。

4 新潟で医療過誤のお悩みはご相談ください

まずはお電話(025-211-4854)か、メールでご連絡ください。

弁護士費用はこちらの記事をご参照ください。
さいとうゆたか法律事務所トップはこちらです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です