執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 傷病休職とは?
傷病休職とは、労働者に対し、一定期間業務外の傷病による休職を認めるものです。
このような制度を設けるかどうかは会社次第です。
また、傷病休職の際に賃金を支給するかどうかも会社次第です。
治癒しないまま傷病休職期間を経過した場合、自然退職か解雇となり、治癒していれば復職ということになります。
2 傷病休職制度における「治癒」とは何か?
そこで、傷病休職制度における「治癒」とは何かが問題となります。
この点、休職時点で就業していた職を遂行することができないとしても、現実的にその労働者が担当しうる他の職を遂行しうる場合、治癒と言え、解雇等は許されません。
この点、職務の遂行能力についての最高裁平成10年4月9日判決は、「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。」と同旨を述べています。参照:職務の遂行能力についての判例
就業が可能であり、治癒していると言えるかどうかについて、東京地裁平成29年3月29日判決、東京地裁平成24年12月25日判決は、労働者側に立証責任があるとしています。
ただし、東京地裁平成24年12月25日判決は、労働者において配置される可能性のある業務に従事することができることを立証すれば就業可能性は推定されるとして、立証の負担を軽減しています。参照:傷病休職後の解雇についての東京地裁平成24年12月25日判決
解雇時点で治癒していないとしても、近いうちの回復可能性がある場合には解雇は許されないと考えられます。東京地裁平成22年3月24日判決は、主治医が「病状が安定すれば、復職も可能と思われる」と診断していたこと、解雇後に労働者の病状が回復していたことも根拠に解雇を無効としています。
なお、治癒しているかどうか判断するためにテスト出勤がされることもあります。
名古屋高裁平成30年6月26日判決は、テスト出勤中について賃金の定めがない場合、最低賃金額が支払われるべきとしています。
3 傷病を理由とする解雇においてとられるべき手続き
傷病を理由とする解雇が問題となった東京地裁平成22年3月24日判決は、使用者が労働者の主治医の意見を聞かずに解雇をしたことについて、医師も含めた三者面談までは行わないにしても、「人事担当者である丙川教頭らが、医師に対し、一度も問い合わせ等をしなかったというのは、現代のメンタルヘルス対策のあり方として、不備なものと言わざるを得ない」として、それも踏まえ解雇を無効としました。
少なくとも労働者と使用者の復職可能性についての見解に相違がある場合等においては、使用者が主治医に問い合わせもしなかったことは解雇の効力に影響を与えると考えるべきでしょう。
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